大阪 赤い女
第20話:梅田ダンジョン
『10分で着く言うてたけど、もう30分も回ってんで。梅田ダンジョン、ほんまに勘弁して欲しいわ』
「
『分からん。あっち行ったり、こっち行ったり、ぐるぐる回っとるけど、泉の広場のツリーなんかどこにあんの? あれ? なんか噴水あったわ?』
「噴水? おまえ、何を言うとんねん? そんなもん、とうに撤去したはずやぞ?」
『ちょっと向こうにおる人に道聞いてみるわ。ちょっとお姉さん。そこの赤い服着た……』
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怪異ファイル:大阪府大阪市 赤い女
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JR大阪駅で依頼者の男と落ち合ったフリーライターの浅間真里は、駅前のショッピングモールのレストランで彼の話を聞くことになった。ぽかぽかとした温かい春の陽気とは不釣り合いなほど、男の顔はどんよりと曇っていた。
真理は席に座って男の様子を観察する。年齢は30代前半だろうか? カジュアルだが値の張りそうなブルーのポロシャツとスポーティーだが高級感のある腕時計。テーブルに座る際に、自然と真理の椅子を引きエスコートするなどの作法。若くして成功者を納めた人物なのだと推測する。
「遠いところからありがとうございます。私は
光星は休日に彼女と駅直結の地下街「ホワイティーうめだ」の泉の広場で待ち合わせをした。だが地下街で迷った彼女はなかなか現地に姿を現さず、電話ではとっくに撤去されたはずの噴水がある広場にたどり着いたと言うのだ。
「浅間さんは都市伝説の専門家だと聞きまして。あの……『噴水広場の赤い女』の都市伝説は知っとりますか?」
「正直あまり詳しくは知らないんだけど、噴水広場に現れる赤いドレスを着た女性に襲われたり、暴言をはかれたりするってやつですよね? 私は実在した話が膨らんでいったものだと思っていたのですが……」
「自分はよくある作り話やと思っとったんですが、彼女が噴水広場で襲われたって。その赤いドレスの女は瞳の部分は真っ黒で、ヤバいと思った彼女は逃げたのやけど、ものすごい速さで追いつかれて腕を掴まれて殺すって……」
「都市伝説の怪異的側面と一緒ですね。彼女はどうしたんですか?」
「気ぃ失って倒れたと。そして、うちが泉の広場の、と言うてもリニューアルされた今の広場やけど、そこで倒れとる彼女を見つけて……。噴水だの、赤い女だの、もうわけ分からんようになってしまって」
「でもあなたは、それを彼女の妄言ではないと信じているんですよね。だから私を呼んだ」
「嘘付いてるようには思えんし、理由もないし。正直、突然おかし なってしもて、もうわけ分からんのですよ」
真理は頭の中で彼女の行動を再現する。考えられるのはひとつ。
「彼女の言動に
「異世界エレベーター?」
「ええ、高層ビルのエレベーターを一定の法則で行ったり来たりすると異世界にたどり着けるという都市伝説です。出回っているのは正しい情報ではないと思うけれど、日常から少し外れた行為を一定の間隔で繰り返すと、次第にそこからずれていくことはあるんじゃないかと?」
「つまり、涼香は迷って、一定の間隔で同じ場所を行ったり来たりしたから異世界に迷い込んだと?」
「そうです」
真理の真剣な目を見て、緊張した光星の顔は少し緩んだように見えた。
「やはりあなたに相談して良かった。こんな話を疑わずに真面目に聞いてくれる人はおらんですから」
「私もいろいろ体験してきていますから。それで彼女の話に戻りますが、戻ってこれて良かったでは終わらないんですよね? 私の東京からの交通費だけでなく、ホテルの宿泊費まで出してくれるんですから」
「はい……。涼香は見える言うとります。出歩く先々で赤い女の影を。ほんで外も出られんようになってもうて、専門の先生に相談しようと」
「いや、私は特別な除霊術もないし、ジャーナリストで専門の先生ってわけではないんだけどな……」
真理は光星の期待の高さに少し恐縮して頭をかいた。だが、すぐに彼を真っ直ぐと見つめて、続けた。
「ただ、私にも不可思議なことへの知識はあるからできるだけの協力はしましょう。彼女に直接あって話を聞きたいし、泉の広場ってのも行ってみたいな」
「ほなら、広場から行きましょう。ここからすぐですし、彼女の家は
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