第8話:入れ替え
「省吾に頼みがある。珠里ちゃんをおぶって黄泉比良坂を脱出して欲しい。彼女は衰弱しきっていて一刻を争うから。きっと私達が入ってきた集落の出入り口から外に出られるはずだよ」
「馬鹿野郎、おめぇはどうすんだよ!」
「私の力では彼女をおぶったまま道造を出し抜いて集落を脱出するなんてできない。だからあんたに託すんだ。この怪異は私達の力じゃ及ばないかも知れない。あんたが外に出て除霊ができる本物の霊能力者を連れて助けに来てくれたらそれでいいから。少なくとも3週間は持つみたいだしね」
「強がってんじゃねぇよ」
省吾は気を失って横たわる珠里に目をやる。確かにすぐに病院に連れて行かないとまずそうだ。
柱に取り込まれつつある真理は意識が確かなうちにと続ける。
「あんたも千葉の人なら知ってるかな?スミレさんに聞いた話だけど千葉の巴神社ってところの女性宮司は本物だって」
「わ、分かった。すぐに戻る!」
確かに女の力では意識のない人間をおぶって連れ歩くのはキツいだろう。選択の余地はない。省吾は珠里をしっかりと背負い、お堂を後にした。
きっと大丈夫だろうと真理は思った。
(省吾はいい加減なようで芯の通ったところがある。珠里ちゃんはきっと助かる。……なんだか気持ちいい。頭がぼうっとしてきて、意識が宙に浮いているみたいだ……)
*
どのくらいの時間が経ったであろう? 意識が薄れている真理にははっきりとは分からない。彼女はすっかり、お柱様と一体化してしまったようだ。
真理は気づいていた。奥谷集落に新鮮な生贄が捧げられ、場が安定して次元の歪みが少なくなった今ならば、外に出れば簡単には戻ってはこれないということを。本当の除霊ができる霊能力者が見つかったとしても真理が助かるかは運次第であろう。
ガタガタガタ
遠くで乱暴に引き戸が開けられる音で真理はしっかりとした意識を取り戻す。あの巨大ムカデの道造が新しい生贄を見に来たのだと思った。
「はあはあ……珠里ちゃんは責任を持って外に連れ出したぜ。だがオレっちとしたことがぬかったぜ。あのムカデ共は道造の子分だ。出入り口の柱の前に束で隠れていやがった」
真理の前に現れたのはボロボロになった省吾だった。服のあちこちが敗れ、体の至る所がムカデに噛まれた痛々しい痕とともに腫れ上がっている。服は体の中に入ったムカデを取るために自ら破ったのであろう。
「省吾……どうして!?」
「心配すんな彼女には指一本触らせてねぇから。あのよう、オレっちが出ても戻ってこれるか分かんねぇだろ? ここはおめぇの方が相性がいいみたいだから、外に出るのはおめぇの役目だ。それに体を張るのは男の仕事だろうがよぉ! だありゃぁ! 暴走族から男気を取ったら、それはただの珍走団だぜ!」
省吾は真理が埋められた柱を掴んで真理の眼前に顔を近づける。瞬間、強烈な光とともにお柱様の中身が入れ替わった。
柱の外に投げ出された真理は柱に埋め込まれた省吾を見る。彼はまた入れ替わりが起こらないように目を固くつぶっているようだ。
「省吾!」
「なんとかって神社にはおめぇが行け。オレっちなら3ヶ月は持つから心配すんな」
パキパキパキ……。
不快なラップ音が近づいてくる。道造だと真理は身構える。ここで自分も捕まったら助かる可能性は完全になくなる。
「必ず私がなんとかするから!」
真理は立ち上がり、もう一度省吾に目をやった後、気配を殺すようにしながらこの場を立ち去った。
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