第23話:霊界探偵

 風呂上がり、キャミソールにショーツのみの姿で髪を乾かし終えた真理は、ふかふかのベッドに小さくダイブした。そして、肌触りのいいシーツに約1分間顔を埋めてから、ゴロリと体を返した。


「はあ~、高級ホテルのベッドは最高」


 ベッドの心地よさをしっかりと堪能した後に、サイドテーブルからタブレットPCを取り出し、ベッドに寝転がりながらインターネットの検索を始めた。


「梅田の噴水にいる赤いドレスの女性の名前はアキちゃん。男に騙されて酷いことをされ、異常行動を起こすようになったと……。このあたりの話はリアルなんだよなぁ。昔、見たことがあるという目撃情報もいくつかあるし」


 タブレットの指を滑らせ、さらに情報を探る。


「時を経て怪異の姿が表れてくるんだよね。古めかしいドレスで髪を振り乱し、恐るべき速さで近づいてくる。その目の部分は全て黒くて、殺意を抱いていると。涼香さんの会ったのはこっち。だけどこれってなんだろう? 噂に尾ひれがついて大きくなった話のように感じるけれど、彼女は次元のずれた世界でこの怪異に遭遇した?」


 真理はタブレットを置き、ベッドの上で体勢を変える。心地の良いシーツの上に、形よく引き締まったスベスベの足が踊る。


「そして涼香さんが外出先で度々見るようになったという赤いドレスの女性。これも、目撃情報の噂はないみたいね。まあ、赤い服を着ているだけならば、取り立てて噂になるようなこともないか……。明日は涼香さん達が待ち合わせた時間にもう一度泉の広場周辺を探ってみるかな? 何か感じることができるかも知れないし」




 翌日の午後7時、梅田地下街の泉の広場は多くの人が行き交っていた。周辺を少し歩いてみた真理だったが、やはり怪異の片鱗を見つけることはできないでいた。

 真理は一息入れるために、地下街の綺麗な内装のたこ焼き屋へと足を運んだ。そして、店内から運ばれる香ばしい匂いに胸をときめかせながら、メニューを吟味する。


「たこ焼き8個入りと……クリームソーダないのかぁ。じゃあ、ラムネを2つ。」

「まいど」

「でさあ……」


 突然、真理は後ろを振り返る。


「2度も会ったら流石に偶然じゃないよね? 君は誰なの?」


 真理の視線の先には昨日同じ場所で見かけた白髪の少年がいた。年齢にして10代後半くらいだろうか? 真理に心当たりの知り合いはいない。


「おかしいなぁ? 何で気がつくのかなあ? いやいや、かっこいいお姉さんだなぁって思ってただけで」

「そういうのいいから。キミは私を知ってるの? ほら、こっち。私はたこ焼き8個も食べれないからさ、二人で食べましょう」


 真理はカウンター席に白髪の少年を誘い、隣に座らせる。


「飲み物だけど、クリームソーダはないからラムネで我慢してね。関東ではたこ焼きのお供と言ったらクリームソーダなんだけどなぁ」

「初めて聞く気がしますが……」

「知っているみたいだけど、私はフリーライターの浅間真理。では、キミの自己紹介をよろしく」

「まあ、しょうがない。ごまかせる相手じゃないか。僕は天間てんまあゆむ。霊界探偵……みたいなものの下っ端の雑用係です。たまたまここに調査に来ているところで有名な浅間さんを見つけたんで」

「私って有名?」

「界隈ではけっこう」

「ふ~ん。あの雑誌けっこう売れてんのかな? てか、霊界探偵って何?」


 そのタイミングで真理の席に、湯気を立てたたこ焼きとラムネのビン2本が運ばれる。


「お、きたきた。ほら、半分こしよ。おお! 外はカリカリ、中はふんわりでこれだねえ。あっち!」

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