第24話:不可思議

「やっぱり本場は生地から違うねぇ。ソースでごまかしているようなものとは別物だ。ほらキミも食べな」

「え、ええ。いただきます」


 真理を横目に眺めながら、歩が彼女に持った印象は「隙がない」だった。わざと入り込む余地を作っておいて、全てを観察されている。そんなイメージだ。

 だけど彼は、自分を疑いつつも敵意の色を全く見せない真理の性格こそが不可思議だと感じていた。


(僕の年齢から軽く見られているわけでもなさそうだ。こんなことなら下手に気配を消したりしない方が良かったかな?)


「私はさあ、この泉の広場の都市伝説であるについて調査しているんだけど、霊界探偵さんもそれを調べてんの?」

「い、いえ。うちは都市伝説には全く興味がありませんよ。ただ、この地にひずみができている可能性があるから調べてこいと。詳しい内容は教えてもらってないんですよ。本当に下っ端なんで」


 これだと歩は思う。無警戒なところから、いきなり手の内をさらけ出してきて、それに乗せられて自分のことも思わず喋ってしまう。しかも彼女の行動は全くの自然体に見える。だからこそ怖いのだ。


「ひずみねえ。やっぱりここには何かあるのか……。これ、私の名刺を渡しとくから。なんか怪しいぞ~って感じの赤いドレスの女性を見かけたら連絡してね」


 結局その後も彼女のペースで話が進み、自分は赤い女を探しに行くんだと早々に去っていった。まるで嵐のような時間は過ぎ去り、歩はため息をつく。

 彼女に探りを入れているつもりが、完全に彼女のペースにハマっていたのだ。


「僕もまだまだな」


 最後にラムネを飲み干した歩は、店を出て泉の広場正面を見渡したが、浅間真理の姿はそこにはなかった。歩は柱にもたれてスマートフォンを操作する。


「僕です。天狐てんこです。浅間真理に接触しました。と言うか接触させられたってところですけどね。ふふふ、怖いですよぉ、彼女。自然と懐に入り込んできます。ついつい僕の名前を明かしちゃいましたし」

『あなたの言っていた浅間真理さんですか? ずいぶん熱をあげているみたいですね?』

「熱をあげている? そうなのかなあ?」

『ええ、とても嬉しそうな声に聞こえますよ。ところで組織のことは……』

「もちろん言っていないけど、彼女は僕の適当な嘘に気づいて聞き流していましたね。そうそう、彼女はという都市伝説について調べているようです。少し行き詰まっているみたいで、それで僕を動かすために情報を伝えたのかも知れません」


『まあ、彼女と遭遇したのも何かの縁なのかも知れませんね。あなたの調査の方はどうですか?』

「小さな次元のほころびのようなものを見つけました。僕の能力じゃなきゃ見つけられないような。だけどこれが梅田の街を巻き込むような大きな歪みに発展するかなあ?」

『先ほども言いましたが、浅間さんと遭遇したのは何かの縁です。もう少し注意深く観察する必要があるでしょう。そしてもし、大きな歪みに発展しそうなら……』

「分かっています。その時はどんな手を使ってでも食い止めますよ。って言っても僕には視る事くらいしかできないんですけどね」


 電話を切った歩は駅の改札方面へと向かって歩き出した。彼がその千里眼で見つけた小さな次元の歪みを確認するために。


「僕は視るだけしかできない。でも僕の力があの人の役に立つのなら、その力を使うのを惜しまない。それと……赤い女か。浅間さんの方の宿題も気にかけていようかな?」


 歩は周囲の流れに身を任せるように歩幅を調整し、人の波の中へと消えていった。

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