第4話:奥谷集落跡
『この先行き止まり』
みはるに聞いたとおりに山道を進むと、すぐにその看板は現れた。
「この先が例の奥谷集落跡地ね。本格的な調査は明日やるとして、場所だけでも見ておきたいよね。ここで何か感じるかどうかも含めて」
「オレっちの霊感がビンビン反応してるぜ。ここはヤバい! 瞬き厳禁だぜ。そうそう、まだチャンネルを登録していないヤツはそこんとこヨロシク」
「動画撮ってんじゃないよ、ったく」
相手をしたくない真理は簡易バリケードをよけて先に進む。草木に覆われジメジメと暗い林道ではあるが、ある程度の道幅があるためか、あまり怖いという印象はない。
少し歩くとすぐに林を抜けたが、その先に広がっていたものは荒れ果てた土地のみだった。
都市伝説の話を信じるとして、ここは昭和30年ころに土砂崩れが起こり、集落が押し流された場所。状況を見ると、その後、手つかずの状態で現在まで至っているようだ。
デコボコと傾斜のついた土地の上には押し倒された木々が無造作に転がっており、地表には背の高い草が生い茂っている。
「おい、先に行くんじゃねぇよ」省吾が追いつく。
「廃屋なんかがあるのかもと思っていたけど、全く何もないんだね。ここなら誰かが潜んでるなんてこともないか。珠ちゃんって子、本当に家出してどこかで元気に暮らしてるならいいんだけどね」
「オレっちの高校時代なんかしょっちゅうダチの家を渡り歩いてたぜ」
「オレっちを基準にされても困るけどね。私なんかはマジメだったよ。将来は社会の悪を糾弾するジャーナリストになるんだ~! なんて夢を見出したのはあの頃。悪とか正義とか世の中そんな単純なものじゃないんだって分かんなかったからさ」
過去の自分を断ち切るように、真理は当時の集落の面影を求めて歩き出す。だが、荒れ放題の草やジメジメと腐敗した木々が転がる場所だ。目的もなしに、あまり深くに入り込むのは得策ではない。
とりあえず集落の入り口付近であろう場所の草をかき分ける。すると丈の長い草に隠れるように一本の丸太が地面に刺さっているのを発見した。
「しっかり刺さっているね……。これ、当時の門構えか何かの杭かな?」
真理は何気なしにその杭に触れた。途端に背筋が凍るような悪寒を感じる。
パキ、パキ、パキ……
どこからともなく、小枝を折るよううな軽い音が響き渡る。頭の中に黒い霧が立ち込め、体が後ろに引っ張られるような感覚を覚える。
真理は目をつぶって頭を押さえ、この違和感をやり過ごそうと試みる。
「どこだ! どこだ! お柱様はどこだ!」
「猟銃で脇腹を撃たれた……。血が止まらん。手当を……手当を……」
「お柱様を連れ戻せ! ヤツを決して許すな! この俺に歯向かったんだ。どうなるか思い知らせてやる」
「この生臭い匂いは何だ?」
「これは何の音?」
「日本刀を持って来い! ヤツを見つけ出して叩き切ってやる」
ゴゴ……ゴゴゴゴ……
地すべり。がけ崩れ。轟音。破壊。悲鳴。うめき声。
一瞬のうちに全て起こり、やがて静寂に包まれる……。
『お柱様さえ……お柱様さえ奉納していれば俺の集落は繁栄を約束されていたのに……』
真理の頭の中の黒い霧が晴れ、温かい空気の感覚が戻ってくる。
深呼吸をし、落ち着きを取り戻した真理は省吾を振り返る。
「ねえ、今の感じた?」
「はあ? 何の話だ? っておい、そのまま動くなよ」
省吾はバイク用の手袋を取り出し、その指先側をつまむように握り、ゆっくりと真理に近づく。
パシン
そして手袋の袖口で、真理の胸のあたりを勢いよくはたいた。
「ちょ、ちょっと何? セクハラ?」
「ちげーよバカ! そこをよく見てみろ!」
省吾が指を指した先……真理の足元には大きなムカデがのたうち回っていた。
「うええ! これが私の服についてたの? 怖っ! っていうか変なこと言ってごめん。ありがとうオレっち」
「ま、まあ、あれに噛まれるとすげ~痛てぇからな」
素直にお礼を言われると思っていなかった省吾は、なぜか照れくさい気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます