第5話:霊障

「ふわぁ!やっぱり温泉は気持ちいいねぇ。この極貧生活の中で温泉付きの旅館に泊まるなんて夢のまた夢だったからねぇ」


 みはるの家で営んでいる温泉旅館『はまや』にて、真理は早速温泉に浸かり、旅の疲れを洗い落とす。大きく足を伸ばして天井を眺めていると浴室の引き戸を開ける音がした。他のお客さんかと思い、足を行儀よくたたんで視線を向けると、そこにいたのは依頼者で旅館の一人娘であるみはるだった。


「お姉様、ご一緒してもよろしいですか?」


(うわ、眩しいJKの身体。瑞々しいとはこのことか。私もまだ20代だと思っていたけど肌のハリとかやっぱ違うよなぁ)

 美容にあまり関心がない真理でさえ、その若さの凶器にはたじろいだ。

 そんな心情を知ってか知らずか、みはるはかけ湯をしてから湯に入り、真理の隣に肩を並べた。


「お姉様、奥谷集落はどうでしたか?」

「感じたよ。昔からいわくつきの場所には実際に何かがある場合が多いんだけれど、そんな土地のことを黄泉よもつ比良坂ひらさか……と私は呼んでいるの」

「黄泉比良坂って死後の世界との境というあれですか?」

「流石はオカルト研究会だねぇ。神話で有名な場所はあるけれど、そうじゃなくても日本中に同じ様ないわれの場所は多々あるし、何なら世界中に似たような場所があるの。私は実際にはそれは『次元の歪み』じゃないかと思っているんだ」

「次元の……」

「うん。私は実際に体験したことがあるけれど、この世とは時間や空間が微妙にずれた世界。そんな異界との境があやふやな場所が世界中には点在していて、そこに引き込まれたものが体験する非現実。それが都市伝説の一端になっていることもあるんじゃないかなと思っているの」

「お姉様は奥谷集落跡でも何かを感じたんですね?」

「そ。あそこも黄泉比良坂だってね。ふう、ちょっと体が温まってきたかな?」


 真理は立ち上がり、湯船から出ようとする。


「お姉様! その胸どうしたんですか?」

「胸?」


 みはるの視線を受け、自分の胸に目を落とす。今まで気づかなかったが真理の胸には、何かに刺された様な赤く変色した跡が付いていた。痛みはないし、触ってみても腫れ上がっている様子もない。


「服についていたムカデ?いや、あれは内部に侵入されたわけでもないし。これは霊障?」

「痛くないんですか?」

「うん。どうやら奥谷集落に呼ばれていいるのかな? 何れにせよ、もう一度行ってみる必要があるね」



 翌日、真理と省吾はほぼ同じ時間にたどり着くように、奥谷集落跡へと足を運んでいた。


「YO YO こういうのは真っ昼間じゃなくって丑三つ時とかのがいいんじゃねぇの?」

「ラッパーか! いいのよ、この時間で。私は昨日、あそこで霊的な幻聴を感じたの。だから、時期だとか時間だとかを同じにした方が次元の歪み……つまりは怪異に遭遇しやすいと思うの」


 一歩一歩山道を登る度に周囲の空気は凍てつき、木々の隙間からこぼれる光が少なくなっているような気がする。二人はそれを肌で感じていたが互いに口にはしない。

 山道を抜ける切る。そこには昨日見た空き地が広がっているはずだった。


「よぉ、あそこの柱って2本建ってたっけ? それに、光を遮るものが何も無いはずなのに先が真っ暗だぜ?」

「あの柱の先こそが怪異の中心。たどり着けるんじゃないかと思っていたよ。私はこの胸に招待状をもらっているからね。行こう、奥谷集落へ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る