第6話:異世界転移?
麓へと続く道に2本の大きな柱が無造作に立っている。それが奥谷集落の入口だ。
まだ日が高く登っている時間帯であるはずなのに、柱の先の世界は薄暗く、見通しは悪い。
土砂で流され、何もなかったはずのその場所は、比較的広い道が奥へと伸びており、その左右に小さな家が密集して建てられていた。さらに道なりには木材を運ぶ大きな荷車や、切り出された木材が雑に積まれている保管場所などが当時のまま残っている。
ここは現実と切り離された異世界だと認識せざるを得ない。
「ぬおお! どうなってるんだこれ? ってか、これもある意味、異世界転転移じゃね? てことはオレっちチートスキルとか使えるようになってねぇかな?」
「チートスキルなら怪異の主が持っているかもね? それが私達も使えるようになった時は自分たちも怪異の一部になっている時だよ」
「……じゃあオレっち、チートスキルいらねぇわ。しかし、おめえは何でそんなに冷静なんだよ?」
「正直怖いよ。でも何度か同じ様な経験をしているからね。それよりも気になるのはこの匂い。土の強い匂いだったり、何か焼けるような匂いだったり」
「オレっちも気にはなっていたけどよぉ。これは何なんだ?」
「土砂崩れの前兆としてこんな現象があるらしいから、ここは土砂で流される結末にたどり着かなかった世界ってことなのかな? 消滅直前の
それ故何が起こるか分からない。二人は薄暗い集落を慎重に見渡すが人の気配はないようだ。
「珠ちゃんって子がここに迷い込んでいたとしたら無事ではないかもな。失踪から3週間以上経ってるんだろ? だとしても身体は連れて帰ってやりたいけどよぉ」
「私はまだ望みは捨てていない。ここは時間の止まった世界だからさ、生命力が完全に消耗するまではなんとかなるんじゃないかって……」
ズゾゾゾ クシュキュ パキパキパキ
二人の思考を遠方より近づく耳障りなノイズがかき消す。得体の知れない危険が迫りくる感覚に体が痙攣したように震える。
省吾は立ち尽くす真理の手を引き、小屋の方へと走る。簡素な手すりを越え、無造作に積まれた木樽の影に真理を押し込め、自分は盾となるように前に陣取り、その身を隠す。
聞き入ると頭がおかしくなりそうなその不快な雑音は、空間を侵食するように近づき、そして真理達から少し離れたところで止まった。
二人は樽の隙間からその何かを覗き込む。
赤黒い大きな塊に焦点を合わせると次第にそれが形を帯びてきた。そこにいたのは全長3メートルは超すであろう巨大なムカデだった。それは頭をもたげつつ、円を描くように這い回っている。
本当に奇怪なのはその体の大きさではない。巨大ムカデの頭部には、にたついた老人の顔が付いており、さらにその頭からは2本の大きな触手が生えていた。
(ムカデ人間?) 真理の頬を汗が伝う。
「ひひひひひ。この感覚は入って来たっぺ、新しい生贄が。けけけ、絶対に逃さねえっちゃん。今のお柱様は弱ってきているからなぁ。新たにお柱様に埋め込めば俺の村は安泰だっべぇ」
(あれが道造?) 真理はもやのかかった頭に活を入れ、意識を集中させる。
すると道造は体を回転させるのを止め、真理達の方に顔を向けて制止する。
(気づかれた?) 真理の心臓は高鳴る。
「おまえら、決して逃がすんじゃねぇぞ!」
道造は無数の足を蠢かせながら怒鳴るような大きな声で告げると、来た道とは別の分かれ道に入り、周回するように去っていった。
不快なノイズが消え去ると真理と省吾は木樽の影から這い出した。
「おい、何なんだよあれは! 何でムカデの体に顔がひっついてんだよ。心臓止まるかと思ったぜ」
「私も……。あれかな? 本来は土砂で地中に埋まってるはずの人間だから、暗闇に生息するムカデなのかな?それより聞いた? お柱様が弱ってるって」
「珠ちゃんが生きてる可能性が高くなったってことか。探しに行こうぜ」
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