第15話:探索

 真理の職種はフリーのライターだし、省吾は小さなガレージ工場の経営者ではあるけれど、チンピラのような風貌だ。二人共社会的な信用度は低い。

 そこで真理は、お世話になっている青空出版の社長であるスミレの名前も借りて結菜の家へと向かった。


 だが、結菜の両親は意外なほどにあっさりと調査の件を承諾したのであった。二人が所在をはっきりさせたところも評価ポイントなのだろうが、落ち込んでいる娘を元気づけるために、やりたいようにやらせたいのが本音なのだろう。



 翌日の深夜、目的の時間である0時の1時間前に、真理達3人は例のハンバーガーショップで落ち合った。

 真理はテーブルに紙の地図を広げて、赤いサインペンで丸印を書いていった。


「公衆電話BOXの場所だけど、調べた結果、学校付近でも5箇所はあったみたいだね。繁華街のJR線の駅までの道のりも合わせるともっとだけど」

「一日一つの場所しか回れないのがネックだな」

「まあね。近くに祠があったり何かがありそうなところから探していくのがいいのかなとは思うんだけどね。で、今日はここにしない?」


 真理は地図上の一つの赤丸に指を置く。


「場所はすぐ近く。駅から神社方面に向かう途中にあった公衆電話跡」

「それいいと思います。確かに一番霊的な要素が強そうな場所です」と結菜も同調する。


「オレっちもそれでいいぜ。でもそこだと、0時までにまだ少し時間あんな。駅前のコンビニ前でモクでも吸ってたむろすっか?」

「嫌だよ! 地方のヤンキーみたいなことするくらいなら、ここでコーヒー1杯で粘ってたほうがマシでしょうが。そうそう、結菜ちゃん、お兄さんの写真とかある?」


 結菜はスマートフォンを操作してフォルダーの写真を真理達にかざした。そこには甘いマスクの優しそうな好青年が写っていた。


「へえ、こんだけイケメンで優しかったらモテたでしょう?」

「ええ、毎年バレンタインの時期は大変でした」


 結菜が優しい兄の思い出を話す時は自然と笑顔になっていて、お兄さんが好きだったんだなと真理は実感した。


 真理達は0時少し前にハンバーガーショップを出て、踏切を渡り、駅の反対方面へと向かう。夜風が少しひんやりとしたが、それぞれ薄手の上着を羽織っているので問題はない。

 駅のすぐ近くではあるけれど、神社方面への道は薄暗く、人通りも少ない。真理は女二人で深夜の探索をすることを考えると、省吾がいてくれて頼もしいとは思った。青空出版のスミレさんが言うには、彼は伝説の暴走族らしくケンカはかなり強かったらしい。


 真理は道端でふと立ち止まり、地図を確認する。


「ここがBOX跡地だね」

「改めて舗装されているから、それらしき跡みたいなものは何もないんですね。これじゃあ分からないはずです」

「よし、0時ぴったりに電話かけるからスマホを用意しとけよ。オレっちがカウントダウンするぜ」


 電話番号は444-4444(※でたらめな番号です)

 省吾のカウントダウンが終わると同時に結菜は震える手で通話ボタンをタップした。


「お願い。お兄ちゃん……」


 1分が過ぎた。結菜の願いも虚しく、スマートフォンには何の反応も起こらなかった。この場所ではないのか。あるいは、この都市伝説自体がガセネタなのか?


「まあ、この場所は違うって分かっただけでも進展でしょ。結菜ちゃんの家まで私の車で送っていくから明日また頑張ろう」

「はい……。本日はお付き合いいただいてありがとうございました。私は全箇所試すまであきらめません」


 真理は結菜の受け答えに強い意志を感じた。あの世とつながる公衆電話。昭和の時代に日本全国でどこででも聞くような有名な都市伝説だったようだ。どうかここでの伝承は本当であるようにと真理は心の中で祈った。


 翌日の病院近くの公衆電話BOX跡も空振りだった。

 そして三日目は児童公園内。ブランコに砂場。隣接したテニスコートに癒やしの緑と木陰のベンチ。ありふれた公園だが通常の公園とは少し違ったところがある。背の高い木々と並んで古びた小さな祠が建っているのだ。それは、そこにそれがあって然るべきと思えるほど何故か風景として馴染んでいた。


「今日こそお願い」


 結菜は真理達に見守られながらスマホの通話ボタンをタップした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る