第27話:ひみつ道具
強い意志を持って行動を起こしていると、真理の意識も次第にはっきりと覚醒しだした。歩きながら手短に涼香の恋人の
彼は想像もしていなかった事態に肝を抜かれていたが、すぐに車で飛んでくると真理に告げた。
そのまま駅の方角へ歩いていると、歩から連絡があった。
『もしもし浅間さん、大丈夫ですか? 浅間さんの言った通り、彼女は駅の周辺にいました。近くの児童公園に誘導して、人目につかないように緑地帯で捕まえているんですが、うわ! 暴れて、このまま押さえているのもなかなかきついです。人間の意識を無視して動いているので、下手に掴んでいると彼女が大怪我をしそうで。うおっ! 危ない! 噛みつかれそうになった』
「もう少しだけ我慢して。今、近くにいるからすぐにそっちに向かう」
今日は駅から涼香のマンション付近をぐるぐると回っていたので、おおよその地理は頭に入っている。
角を曲がった先に、目的の公園が視界に入った。真理は体力的に走り出すことはできないが、腕を押さえながらもしっかりと前に進む。
「あそこの茂みかな? て、天間君?」
「本当にもう来た! 浅間さんこっちです!」
真理は声のする方に歩いていく。茂みをかき分けるとそこには、赤い服を着た涼香を必死に押さえる歩の姿があった。
「ミ……ミ……ミ……」
歩は涼香の両腕を拘束しているが、彼女はそれを抜け出そうと暴れている。
「天間君、これを!」
真理は持ってきたそれを涼香に被せる。すると彼女は途端に大人しくなり、動きを止めた。
「それをしっかり着させて、天間君!」
真理が持ってきたものは黄色い雨合羽だった。午前中は雨が降っていたため、彼女が持参していたものだ。だが、南吹田の駅につく頃には雨が上がっていたため、「調査の邪魔になる」と駅前のコインロッカーに預けておいたのだ。
「悪霊は彼女を赤い女にしたてて、梅田の地で事件を起こさせたい。都市伝説を復活させるためにね。だから駅の方に向かっているんじゃないかと思ったの。そして、彼女が大人しくなったのは黄色い雨合羽を着て赤い女じゃなくなったから。黄色って目立つ色だからね。それじゃあ、なんかやったって赤い女とは認識されない」
「だから大人しくなったのか。彼女、眠っているみたいです。ところで都市伝説を復活させるってどういうことですか?」
「それについては後で話すね。今は……安心したら何だかもう、体に力が入らない……。彼女の恋人が車でこっちに向かっているはずだから、私の携帯に連絡があったら悪いけどキミが出てくれるかな。私はしばらく眠る……」
「浅間さん!」
真理は意識を失い、ぐったりと横たわった。
歩は限界まで体を張った彼女の姿を、「なんて強い人なんだ」と思い、眺めていた。
*****
翌日、病院を訪れた歩は診察室の前で真理を待っていた。あの後、真理は光星が手続きを済ませた病院で夜間診療を受けた。傷の手当と点滴を行ったが、夜間だったこともあり、大事を取って一晩入院したのだった。
そして光星は会社を休んで涼香を見守っているはずだ。
診察室のスライド扉が開かれ、真理が顔を出した。
「おまたせ。傷の処置も綺麗だし、問題ないってさ。ってもまだ痛みはあるからさ、痛み止めはもらってきた」
「僕は浅間さんに言っておかなくてはならないことがあるんです」
「ん?」
「昨夜、浅間さんに会ったのは偶然ではないんです。僕の方の捜査に進展がなく、浅間さんの方が気になって追いかけていたんです。大阪駅であなたを見かけて、僕の能力千里眼で、つかず離れず追って、そこであの場面に遭遇して……」
真理はキョトンとした目で歩を見つめる。
「まあいいじゃん。そのおかげで助かったんだし。深刻な顔して言うことじゃないでしょ?」
「変わってますよ。やっぱり浅間さんは」
「そう? 普通じゃない? さてと、依頼者のところにも連絡しとくかな。涼香さんが心配しているといけないし」
「昨晩あんな目にあったばかりなのに、もう彼女の心配をしているんですか? 下手したら命だって危なかったかも知れないのに」
「え? それこそ普通でしょ? だって、あれは操られてたって知ってるんだしさ」
「それをあなたが本心で言っているのが分かります。僕は人の感情が流れ込んでしまうことがあるから。あの……少し僕の話をしてもいいですか?」
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