あの世とつながる公衆電話

第13話:パワースポット

 電話の着信でスマートフォンが震える。発信者は「週刊ともしび」編集者の藤堂とうどう氏。


「はい。浅間あさまです」

「浅間さんさぁ、あんなヌルい原稿はうちでは使えないねぇ。世間はさぁ、もっとエッッッグいもんを求めてんのよ。浅間さんてさぁ、あの浅間あさま真里まりでしょ? 科学研究所の不正を暴いた」

「はあ」


 真理は「またその話か」と心の中でため息をつく。


「あれ連日ワイドショーで騒がれてたじゃん。ああいうの欲しいのよ、うちは。それともあれ? 仕事始めたばかりのビギナーズ・ラックだたっとか?」

「まあ、そんなところですかね」


 電話を切って、今度は本当にため息をついた。ごみ問題と生活を脅かすカラスの行動についてのレポートを送ってみたが採用されなかったのだ。


「苦手なんだよエッッッグいもんは……」


 まあ、しょうがないかとスマートフォンを机においた瞬間、新たな入電により、それはもう一度震えだした。


「浅間だけど……」

「よう、オレっちだ。おめえに話があんだけどよ、いつ会える?」

「はあ? 要件を先にいいなよ。何なのいったい!?」


 電話の相手は「ヨロシク省吾しょうご」と名乗る動画配信者。元大型暴走族のヘッドで、若くして改造車のカスタムショップの経営者でもある男だ。


「まあまあ、そんなに熱くなるなよ。オレっちに惚れると火傷するぜ!」


 ブチッ


 ブー……ブー……ブー……


「ああ、うっさいなぁ! 何なの! こっちは落ち込んでるってのに」

「電話切んじぇねぇよ、ったく。せっかく貧乏ライターにネタを提供してやろうってのによぉ」

「ネタ?」

「ああ、怪異ファイルのネタだ。オレっちの動画のファンから相談を受けてよぉ、なんでもあの世とつながる公衆電話を調べて欲しいって」



**********


怪異ファイル:千葉県習志野市某所 あの世とつながる公衆電話


**********


 京成線駅前のハンバーガーショプ。約束の時間に遅れることはなかったが、すでに省吾は到着しており、彼は奥のボックス席から大声を上げて真理を呼んだ。

 省吾の向かいにはブレザーの制服に身を包んだ小柄な女子高生が座っていた。この不釣り合わせな二人を見て、真理は自分が呼ばれた意味をなんとなく理解した。

 チンピラ風の怪しい男と女子高生、知らない者が見たら事件かと疑いをかけるだろう。


「はじめまして。私、横峯よこみね結菜ゆなと申します。浅間さんのことは存じ上げております。本日は貴重なお時間を割いていただきましてありがとうございます」


 真理は面食らった。こんなに礼儀正しい育ちのいい子が、なぜ省吾のチャンネルを見ているのか不思議だった。話を聞くと、どうもクラスで省吾の動画チャンネルが流行っているそうで、そこからの情報らしい。

 まあ確かに、元暴走族でコミカルなチンピラ風貌の省吾のキャラは立っていると言える。真理はそこだけは認めている。


「今回のご相談なのですが、あの世とつながる公衆電話の噂はご存知でしょうか?」

「昭和の頃によくあった都市伝説かな? 日本全国でそんな噂があったみたいだけど。特定の電話ボックスで、深夜0時に、とある番号に電話をかけると死者の声が聞こえるみたいな」

「はい。私が聞いたのもそれと全く同じで、たまたま見つけた古い噂話です。私は高校で写真部に所属しているのですが、昔の先輩が記したノートをなんとなく眺めていた時に目につきまして。場所は分からないのですが、この街の電話ボックスからも死者の声が聞こえたと」


 話を聞いているのかいないのか? 省吾はフライドポテトを一度に10本を口に入れ、あまりよく噛まずにコーラで胃の中に流し込んだ。


「なんでもよぉ、この街はパワースポットらしいぜ。日光でおめぇがいってた巴神社ってのもここだろ?」

「そうね。ここに来る前にちょっと調べてみたけど、この街はいたるところに祠などがあって、古くから不思議なことが起こる街と言われているみたい。つまり異界との境目が希薄な黄泉比良坂」


 それを聞いて「危険な場所なのでしょうか?」と結菜が尋ねる。


「ううん。ここはいい気がたくさん流れているみたいね。多分、由緒正しく歴史のある大きな神社があるからだろうと思うけれど。……それで結菜ちゃんは私達に何を相談しに来たの?」

「…………亡くなった……兄の声が聞きたいのです」

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