第12話:エピローグ
ここは東京高田馬場にある雑居ビルの一角。青空出版の事務所だ。
「おお、ありがたや臨時ボーナス! これで今夜は奮発して焼き肉が食べられるぅ」
真理はスミレから直接手渡された封筒を掲げ、満面の笑みで奇妙な祈りを捧げる。デスクに頬杖をつき、その様子を冷めた目で見つめながらスミレはつぶやく。
「はあ、たまには一人焼肉じゃなくて気になる男の子でも誘ったらどうなの?」
「いやいや、分かんないかなぁ? 誰にも邪魔されない一人焼肉こそ最高の贅沢なんですよ。それより、これは何のボーナスですか?」
「これよ」と言ってスミレは地方新聞を差し出す。
そこには『お手柄カップル 行方不明の女子高生を救出』の見出しと共に、真理と省吾が写った写真が掲載されていた。
おはしらさま事件で中西珠里を救出した折に地元新聞に軽い取材を受けたものだ。
「だからカップルじゃないっての!」
「省吾君の配信チャンネルで、その新聞を見せて例の事件を話したらバズったみたいでね。そこで彼がうちの雑誌を紹介してくれたものだから、真理ちゃんの過去記事も読みたいってことでバックナンバーの電子書籍が売れてるのよ。だから省吾くんと共に臨時ボーナスってわけよ」
「あいつ勝手に私の名前出してるからなぁ。でも、そのおかげでお肉が食べられるのか。う~ん」
省吾の行いに腹は立つが、美味しいお肉には変えられない。
「それで、この火が消えないうちに、もらってる記事を後回しにして、『おはしらさま事件』を次号に載せたいのよ。前後編で2ヶ月掲載するつもりだけど3日で初回の原稿仕上がるかしら?」
「問題ないですよ。骨組みはもうできてますから」
「そう。これからもよろしく頼むわよ」
事務所を後にして真理は事件のことを考える。
成り行きとはいえ一人の少女を救うことができたし、みはるを始め、珠里の無事を祈る人々に感謝されて地元の人々にも喜ばれた。
それがたとえ娯楽雑誌のオカルトコーナーの記事だったとしても、そんな笑顔を作れるなのら、書く意味があると彼女は思った。
「さぁて、今日はどんな肉を食べようかな」
真理はすれ違う賑やかな学生達を横目に、線路沿いの飲食街に向かって歩き出した。
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