第31話:エピローグ

「うええ! 報酬の他にこんなものもらっちゃっていいんですか?」


 傷だらけになったポシェットの代わりにと光星が用意したものは、女性なら誰もが憧れるハイブランドのものだった。最新のトレンドのもので、値段にしても真理が奮発して買ったものの20倍はありそうだ。

「こんなん、なんぼ用意しても足りまへんわ。涼香が大変なことになる前に止めて、完全に救ってくれたんやから」

「バックだけでも気ぃ利いてへんから、うちからもこれを。うちの給料やとハイブランドとはいかへんかったけど」


 高級ポシェットに目を輝かせている真理に、涼香も包みを差し出した。彼女が用意したものは落ち着きのあるフェミニンなワンピース。デザインのセンスもさることながら、その素材から、それでもかなり高級なものであることが分かる。


「う、うわ~。めっちゃかわいい。しかも大人~。なんかもう、私もセレブの仲間入りしたかも?」


 少女のように全力で喜ぶ真理の顔を、恋人二人は満面の笑みで見つめていた。



*****



 島根県某所。ソファーに横になってくつろぎながら、歩はスマートフォンでインターネットの掲示板を眺めていた。


「浅間さん、ここまで計算していたのかな?」



『現代版赤い女はセクシーなお姉さんだった件』

『見た見た! 泉の広場でモデルみたいなお姉さんが 赤いドレスから えちえちな衣装に早着替え』

『生足! 生足!』

『出た! 生足星人』

『あれ何かのプロモーション? あたし女だけど どタイプなあのお姉さん全力で推すわ』



「まあ何にしろ、赤い女の都市伝説も、怖いものから明るい感じのものになっているから、もし霊の力が残っていたとしても、かなり弱体化しているだろうね」


 突然、リビングの扉が乱暴に開き、厳つい大男が入ってくる。


「歩、仕事だ! 今回はヤバそうだ。お前の力が必要だ」

「やれやれ、相変わらず人使いが荒いなあ。ま、組織が僕を必要としてくれている以上は頑張らないとね」


 歩の言葉を聞いた大男は、大げさに顔を歪めて吐き出すように告げる。


「おまえも相変わらずだな。俺達は対等の立場でこの仕事をやっている。前の生活から抜け出せたとは言え、こんなクソ見てぇな組織に恩義を感じる必要もねえよ。テメエはテメエのために生きろ」

「ふうん。あの人と同じことを言うんだ」

「は? 誰だあの人って? おい、おめえひょっとして好きな女でもできたか? おい、どんな女だよ?」


 歩は呆れ顔で大男を眺めながら、ソファーからゆっくりと起き上がる。


「やれやれ。発想がおっさんなんだから」

「残念だったな歩。おっさんはおっさんと言われてもダメージにならないんだ」

「そうですか。さあさあ、くだらない話してないで仕事にいきましょう」


(好きな人……か。でもまあ、そうなのかな?)


 歩は思った。夜の街で赤い女を追いかけた時も、次元の歪みをたどって噴水広場を探した時も、組織のためではなく自分の意志で動いていた。自分の意志で彼女に協力したいと思ったのだ。

 初めて感じるこの感情が、はたして恋なのかどうかは、経験不足の彼の千里眼では見極めることはできなかった。

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浅間真理の怪異ファイル 甘宮 橙 @orange246

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