第18話:結末
真理は腰が抜けてトカゲのように地面を這い回る男を静かに見下ろしていた。
結菜の兄との交信に割り込んだ声に真理が疑問を持ったのはそこが公園だったからだ。
真理や省吾など霊感の強いものの存在は、異次元の壁を突破するするための大きな助けになる。
だが、死者の魂が交信先を見つけられるのは、交信を試みるものの強い想いや縁、または生前の交友関係の痕跡があるからだ。それを頼りに異世界の相手を見つけるのだ。
結菜のスマートフォンには兄との思い出の痕跡が詰まっており、また彼女の強い呼びかけがあったからこそ、春人は結菜を見つけることができたのだ。
「割り込んだ声の主を私は知らない。でも私達に助けを求めていると思ったんだよ。私は埋められているってさ。地縛霊ならば縁はなくても割り込んでくることはあるだろうけど、ここは踏み固められた町中の公園。ここに埋められているってのは考えられないじゃない? だとしたら本当に微妙な確率で偶然通信チャンネルが合ったか、あるいはこの中に声の主の魂がよりどころとする何かがあったのか?」
真理はもう一度、結菜の携帯電話を颯太に見せつける。
「アドレスに目を通しても、真面目な高校生に死体遺棄なんかに関わるような交友関係は見られない。けれど、一人だけ思い当たったんだ。感情が高ぶると暴力的になり、女性を平気で殴りつけるような人物が。そう、東颯太って人物がね。だから罠を仕掛けた。彼女の魂が反応すればそういう事だろうって」
名指しされた颯太は逃げるように後ずさりをする。彼の背中が小さな祠にぶつかる。颯太はそこに手をかけてゆっくりと立ち上がった。
「うう、体が重い……。悪魔だ! おまえは悪魔だ! 女子高生とヤリに来ただけだってのに何でこんな目に合わなきゃいけないんだよ。この声を止めろ! この体を元に戻せ!」
颯太は声の主に取り憑かれた重い体に活を入れて、真理に掴みかかろうとする。だが、その体は真理が隠れていたのとは別の木から伸びてきた手に捕まって身動きを封じられる。
「おめぇもよぉ、千葉でワルやってるならオレっちの顔くらい知ってんだろ?」
颯太は自分より小柄な男の手を振り払おうとするがびくともしない。その男の顔をまじまじと見ると、それは伝説としてよく知った人物だった。
「ひいぃぃぃ! 暴走族の伝説のヘッド! す、鈴木さん!」
その伝説の数々を思い出し、颯太は抵抗することをあきらめた。その様子を見て真理は続ける。
「これは想像でしかないんだけど、結菜ちゃんもその被害者と面識があったのかなって思ってるんだ。出入りが自由な写真サークル。急に来なくなっても不思議に思わないからね。顔見知り程度だったとしても、そこに縁はつながるから」
「じ、事故だったんだよ。みゆきが生意気なこと言うから突き飛ばしたら、机の角に頭をぶつけて……。おい、おまえ魔女なんだろ? 俺に取り憑いたみゆきの霊を何とかしろ!」
「悪魔とか魔女とか酷いこと言うねぇ。簡単だよ。彼女の望みを叶えてあげればいい。彼女は多くの事を要求していない。遺棄された死体を掘り起こして、家族や友人に見守られたちゃんとした葬儀を行う。そして遺骨をきちんとしたお墓に埋葬してあげればいい。彼女が求めているのはそれだけだよ」
「そ、そんなの無理だ! それをするには俺の罪をバラさなきゃいけないじゃないか。うわ、止めろ! 頭の中で喚くなみゆき!」
「私は警察じゃないから捜査能力もないし、一生そのままにするのかどうかは、あんた次第だよ」
「それと、オレっちからも警告をさせてもらうぜ。今後、結菜ちゃんに関わるようなことがあったら、オレっちと100人の族仲間がおめぇを追い詰めるぜ。解散しても族の絆は硬いんだ」
真理と省吾に詰められると、颯太は観念したのか、重い体を引きずるようにゆっくりと公園の外へ歩いていった。その後姿を見ながら真理は省吾に話しかけた。
「私は自責の念で苦しんでいると思っていたんだ。事故とは言え人を殺してしまったんだからさ。だけど彼にはそんな態度は少しも感じなかったし、自分の身に罰が降り掛かって始めて考えるような態度は信じられないなって」
「裏でも表でも、いろいろな人間がいるぜ。けどよぉ、怖いのは表にいるクズだ。普通の生活をしていても関わっちまう可能性があるからな」
「だけど、今更ながら、あんたのフルネーム初めて知ったよ。鈴木省吾って言うのね」
省吾はぽかんとした顔で真理を見つめ、そして続けた。
「はあ? オレっちの名前は
「勇造って、省吾はどっから出てきたのよ!」
「おめぇ、分かってねえなぁ。動画配信とかやるのに自分の本名出すわけねぇだろ。全くライターとか言ってもネットテイテイシー低いなぁ」
「ネットリテラシーね。はあ、本当にあんたムカつくぅ!」
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