第3話 ケイトの恋
私はマクスに領地の経営状況が悪く、新しい収入源となる商売を考えるまでに至った話をした。
その結果、領地の景勝地を『恋人の丘』と言う名の観光地に仕立て上げ、新名物として、100パーセント告白した相手から返事をもらえるという恋愛成就のラッキーアイテムの販売を始めたところ、人気が出過ぎてしまったという話まで、、、。
「ふーん。それの何が問題なのかが、分からない」
マクスは飽きたように言い捨てる。
「それが、、、経費削減の為に恋愛成就のラッキーアイテム『天使のカード』の絵は私が描いていて、、、」
私は言いにくい話になって来たので口ごもる。
「キャロルが描いている?はぁ!一日何枚?」
マクス、何故か枚数を聞いてくる。
「三十枚よ、一日三十枚の限定販売だから。それと、『天使のカード』は本人にしか売りませんというスタイルにしているわ。念のため購入者は名前を台帳に記名してもらっているの」
私の回答の意味を段々と分かって来たマクスの顔色が悪くなって行く。
「マズいかな?」
「何でまたそんな余計な事を。付与効果の程度は?」
「それは流石に、、、。告白したときに必ず相手が真実を答えるくらいにしかしていないわ」
「キャロルが絵を描いていると知っているのは?」
「スージー女史と酒場の踊り子ケイトよ。二人共、私が魔法使いということは知らないし、口は硬いから大丈夫だと思う」
しばし、二人の間に沈黙が訪れる。
少し考え込んでいたマクスは徐に立ち上がってドアを開き、廊下に控えていた侍女にお茶を持って来てと頼んだ。
再び二人で黙ってソファーに座っている。
やっぱり、怒られるのかな私。
そこへ侍女がお茶とお菓子を持って、戻って来た。
彼女は紅茶と小さなブルーベリータルトをテーブルにセットし、素早く去って行った。
淹れたての紅茶を一口飲んでから、マクスは口を開いた。
「キャロル、その『天使のカード』は別に相手を無理に好きにさせる呪いを掛ける訳でもないし、特に問題じゃないだろう。だけど、おれに至急と言う事は、誰かが動く気配があるということだよな」
私はゆっくりと頷く。
「コルマン侯爵家のカレン様に今日聞かれたの。どうすればアレは手に入るのかって」
「カシャロ公爵家セノーラの右腕か、、、」
右腕って、知っていたのね。
「そう。アレは本人にしか売ってもらえないのですと伝えたわ。そして、恋人の丘にセノーラ様が買いに来たら、間違いなくマクスが狙われるだろうなと思って」
ああ、マクスの顔が物凄く嫌そうな表情になっている。
「困ったな。告白した相手が真実をいうなんて、、、。おれ刺されるんじゃないか?」
「別に本当に結婚すれば、何の問題もないのだけど」
さりげなくセノーラ様を薦めてみる私。
「いや本当に無理だから!か弱そうにしているけど、あの女ほど腹黒い奴はなかなかいないぞ」
「腹黒いなら王妃に向いてそう」
「おれに結婚くらい夢を見させてくれよ」
心底嫌そうに拒絶の態度を崩さないマクス。
「それなら効果が付いていないものを渡すから。マクス、上手く立ち回ってくれない?」
「キャロル、、、鬼だな。だが、そんなことよりも大体、お前分かっているのか?魔法が使えると知れれば王族以外は一生魔塔暮らしなんだぞ」
マクスが言う通り、魔法使いはこの国では危険人物として、魔塔で厳しく管理される運命なのだ。
それ故、私は目立たずに生きて行くため騎士にもならず、領地での静かな生活を選んだ。
両親と少しの王族以外は、私が魔法を使えることを知らない。
「まさかこんなに流行ると思って無かったのよ。最初はケイトに勇気を出すお守りとして渡したのに」
「へぇ、どんなキッカケだったんだ。話してみろよ」
まず、人々の困り事を知りたくて、私は領地で聞き込みを始めた。
そんな時に会ったのが酒場の踊り子ケイトだった。
「ケイト、何か困っていることはない?」
「キャロルさま~、あたしの悩み聞いてくれる?」
「ええ良いわよ。話してみて」
「あのね、あたし今恋しているの~」
「ほう、それで相手は誰?」
「いやーん、急かさないで!!あのね、出会いはこのお店ではないのよ」
「では、どこで?」
「先日、王都に遊びに行ったときに悪い男たちに絡まれたのよ。あ・た・し!!」
「絡まれた!?大丈夫だったの?」
「ええ、大丈夫だから、ここにいるのよ!それでその時にカッコいい騎士様が通りかかって助けてくれたの」
「何か物語みたいなお話じゃない!」
私の求めている困ったことでは無さそうだけど、話は盛り上がって来た。
「そうでしょう?それでその騎士様から『貴方の綺麗なお顔に涙が流れなくて良かった』って言われたの」
お、かなりの手練れ?
「それは、、、素敵ね」
「そうでしょう?お名前も聞いたのだけど、あたしなんかがアプローチしても良いと思う?」
ケイトは恥ずかしそうにモジモジしている。
「お名前を教えてくれたのなら、当然いいと思うわよ」
「あー!でも、勇気がでないのよ!!」
目の前で今度はクネクネしている。
仕方ないから、一肌脱ぎますか!
「ケイト、紙とペンはある?」
「え?紙とペン?ちょっと待っていて、取ってくるわ」
ケイトは慌てて酒場の二階へ駆けあがって行った。
そして直ぐに息を切らして戻って来る。
「あのね、これしかなくて、、、」
ハート型のコースターとペンを差し出す。
「ええっとこれに書いても大丈夫?」
私は念のために確認した。
「大丈夫よ。キャロルさま、何をするの?」
「見ていて」
私はコースターの裏にササっと天使の絵を描いた。
そして指先で絵をトントトンと叩く。
よし!コレでオッケー!
「出来たわ」
コースターをケイトに手渡す。
「コレはね、我が家に伝わるおまじないなの。身につけていれば、ケイトの願いを後押ししてくれるから、勇気を出してアプローチして来て」
私の話を聞き終わると、ケイトの目が輝き出す。
「キャロルさま!ありがとう」
満面の笑みでお礼を言われた。
さて、恋の行方は如何に?
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