第11話 出来心

 あー、なるほど。


堅牢な監獄塔に何故看守らしき人員が居ないのかと思っていたけど、この風景を見て納得した。



 自分の力で帰ることになった私は、改めて自分の服装を確かめる。


ヨレヨレのワンピースと裸足。


これで岩場を歩く事は難しい。


シャツとズボン、フード付きマントに革のブーツくらいは必要だろう。


さて、コレって魔法でどうにか出来るもの?


全力で使って良いと言われた魔法だけど、私は何が出来るのだろう?


現時点で、私自身が把握出来ていない。


まぁ、取り敢えずチャレンジするしかない。


それらしく、両手を組んで念じてみよう。


「洋服出てこーい!!」


ドサっ。


うっそー!本当に出て来た!?


魔法って便利!!


出て来た洋服を手に取って気付く。


これ、私の服だ。


なるほど、私物を召喚したってことか!


この魔法は使える。


さっと着替えて、他に必要なものを思い浮かべる。


「斜めがけバッグとお財布とペンとメモ帳、パンとお水、ハンカチ!出てこーい!」


ドサっ。


ヤバい、便利過ぎる。


いとも簡単に完璧な旅装を手に入れた。


食料まで、、、。


私、スゴイかも知れない。


次は部屋から出て、この監獄塔の周辺を確認しよう。


ピピは準備があると言って、一旦帰ったけど、そろそろ呼んでも良いかしら。


私は指輪に魔力を流す。


宙から白い塊が、、、ではなく、人が出て来た。


白いふわふわ巻き毛の男の子。


私と同じくフード付きのマントを着た旅人スタイルだ。


「もしかして、ピピ?」


「はい、只今戻りました。旅路をお供しますので人型です」


「ピピは人型でも可愛いわね」


「ええっと、ミーは可愛いより、、、カッコいいでお願いします」


少年がその口調で話していると違和感がスゴい。


「ピピ、カッコいいわ。旅のお供、よろしくね」


早速、2人で鉄格子、鉄の扉を難なく開けて廊下に出る。


その廊下もゴツゴツとした岩が剥き出しで、何とも殺風景だった。


私達は風の音がする方へ歩いて行く。


するとバルコニーなような場所に辿り着いた。


目の前では、猛烈な風が左向きに吹き荒れている。


周辺を見渡そうにも、風の層が厚すぎて、その先の風景は何も見えない。


この状況で普通に監獄塔から歩いて進めば、間違いなくこの強い風でバラバラになるだろう。


これなら看守が居ないのも納得が行く。


「キャロル、上から行きましょう」


ピピが空を仰ぎながら、口にした。


私も上を向いた。


星空が薄ら見える。


その時、私の左手薬指の指輪がほんのり熱を放った気がした。


慌てて、指輪を確認したけど、特におかしな所は無かった。


気のせい?


「キャロル、飛べますか?」


ピピに話しかけられて、我に帰る。


「多分出来ると思う。してみるわ」


ふわっと浮き上がるイメージで、私は地面を蹴った。


浮いた!出来た!


監獄塔の上までゆっくりと上昇する。


横を見ると、ピピもふわふわと浮いている。


監獄塔を超えて、さらに上まで浮上すると、強烈な風は監獄塔を中心にぐるぐると回っている様子がとても分かりやすく見えた。


ここまで来て分かった。


この監獄塔への入り口は地下だなと。


おそらく、そこに見張りがいるはずだ。


まさか上から逃げるとは予想していないだろう。


この逃走方法は脱獄として最善かも知れない。


「そもそも、別に悪い事をしてないのに投獄するとか酷すぎるよね」


「ミーも、そう思います」


私のボヤキにピピが反応してくれる。


良かった、1人じゃなくて。


ふと、悪知恵が過ぎった。


「ピピ、私マクスを召喚出来ると思う?」


「はい、キャロルなら出来ると思います」


この時、少年ピピに私はきっと悪い顔を見せていたと思う。


あんまりな命令を出して来たマクスに、ちょっとムカついていた私は、この出来心を止められなかった。


 

 王家の霊廟に父上と向かった。


王家の森の奥深くにあるこの場所は、王族以外は入れない。


それ故、キャロルが不在でも婚姻の儀式自体に問題はない。


王太子妃は婚姻確定後に、この霊廟の御先祖さまへご挨拶に来れば良い。


入口に辿り着くと、扉の封印のを父上が解いた。


扉の先には長い通路に沿って、左右に部屋があり、古の王族が眠っている。


その1番奥は聖堂となっていて、今回の儀式に必要な祭壇がある。


気が急いているのか、おれも父上も早歩きになってしまう。


聖堂に辿り着く頃には2人とも、少し息が上がっていた。


ここで、ご先祖様方におれの婚姻のお伺いを立て、了承を得られると婚姻が確定する。


そして婚姻が確定すれば、魔塔の監視対象から外れる。


公平を期すため、魔塔の監視には王族でも干渉は出来ない。


人々の平和を守る為というこのシステムは融通が利かないのが難点だ。


父上は祭壇に両家のサインが入った婚姻承諾書を並べる。


指輪はおれの分だけ置く。


おれと父上は祭壇の前にある玉に手を置き、魔力を込めた。


祭壇の後ろの燭台に紫色の炎が立つ。


儀式を始めよという合図だ。


父上は、儀式の決まり文句を祭壇に向かって告げる。


その後、2人で祈りを捧げた。


祭壇の上の婚姻承諾書が浮かび、光に包まれる。


それは、ふわりと祭壇に落ちると同時に2枚の紙から1枚の金色のプレートに変化した。


オレは祭壇の上のプレートを手に取る。


そこにはアイリスの紋様に包まれて、おれとキャロルの名前が記されていた。


「マクス、指輪を」


父上に促され、祭壇上に置いていた指輪を自分の左手薬指に嵌めた。


「よし、これで無事に婚姻の儀式は完了だ。マクス、これからはキャロライン嬢を大切にするのだぞ。1人で何とかしろなどと、、、」


父上はお祝いの言葉よりも、おれに言いたい事が沢山あるらしい。


「父上、おれも本心では今、この瞬間も彼女を追い掛けたい気持ちで一杯な、、、えっ!?」


オレは急に何かに引っ張られる感覚がした。


あ、消えるかも知れない!


「父上、後を頼みます、、、」


「マ、マクス!どうしたのだ!」


狼狽える国王陛下の目の前で、マクシミリオン王太子の姿は消え去った。

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