第10話 酷い奴
この場所の雰囲気に負けない様に他愛も無い事を考えて過ごす。
段々とそれも飽きて来た。
最初は負けるものかと意気込んでいたのだけど、時が経つとここに慣れて来ている私がいる。
でも絶対此処は普通の場所じゃないよね。
ピピは無事にマクスと会えたかな?
結局、無駄に横倒しも辛いだけなので、縄を外し、手首も治した。
それにしても堅牢過ぎて笑える。
一体、私を誘拐したのは誰よ!?
そんな時、宙から白い毛玉が現れた。
「あ、おかえりピピ!どうだった?マクスと会えた?」
ピピはカラダをクネクネしながら、伸びをした。
「キャロル、只今戻りました。無事に王太子に会えました。伝言もお届けしました」
「良かった!これで私、行方不明では無くなったわね。ありがとうピピ」
「はい、どういたしまして。それから、キャロル宛に王太子から伝言を預かりました」
おお!有力な情報かな?
「ピピ、教えてくれる?」
「はい、王太子は此処に来られません」
「え?どう言う事?」
「ここはブカスト王国のソルティール監獄塔です。ブカスト王国と我がソベルナ王国は緊張状態にあり、王太子だけでなく、氷の刃も来られません」
「ウソ、、、。私、見捨てられる事が決定したの?」
思わず涙が込み上げて来る。
もうマクスに会えない、、、。
「いえ、違います。まだ続きを聞いて下さい」
「ゔん、、続けて、、、」
「王太子から、キャロル様に命令です。あらゆる力を使うことを許す。責任はおれが取る。ソベルナ王国へ無事に帰って来いとのことです。出来れば敵も特定して来てくれると嬉しいとの事でした」
涙が止まった。
あんまりじゃない!?
この事件、私に丸投げ?
いや、マクスらしい話だけども。
「ねぇ、あらゆる力って、魔法を全力で使って良いってこと?」
「はい、制限なしで、遠慮なくどうぞと王太子が言われていました」
ピピは胸を張る。
その様子がおかしくて、笑ってしまった。
「ピピは一緒に来てくれるの?」
「勿論です。ミーはキャロルと一緒に行動します」
「ありがとう」
さて、このソルティール監獄塔とやらはブカスト王国の何処にあるのだろう。
取り敢えず出てみて、周辺の様子を確認するところからだよね。
いつまでもここにいる訳にはいかないし、気合い入れて行くか!!
それにしても、自分の身は自分で守れとかよく言うわよ。
普通の王子様なら、オレが守る!とか言う場面よね。
マクスに次会ったら文句の一つでも言ってやろう。
大体、変装して来るとか方法なら幾らでもあるでしょうに!
本当に頭が硬いんだから!!
「ハックション!!」
王宮に戻ったおれはクシャミと寒気を感じた。
あー、キャロル怒っているかもなぁ、、、。
先ずは父上に報告だな。
急ぎ足で廊下を歩いていると後ろからおれを呼ぶ声が聞こえてくる。
近づいて来ているから良いかと足を止めずに歩き続けていたら、国王の執務室前でジャスティンはおれに追い付いた。
「殿下!急いでいるのは分かりますけど、立ち止まれないくらいなのですか?」
ジャスティンは不満をぶつけて来る。
「済まない。報告する事が多過ぎて焦っている」
「そうですが、それならぼくの報告も陛下の前でします」
彼はドアの前の警備官に父上への取り次ぎを頼んだ。
警備官は俺たちを直ぐに部屋の中へ通した。
「マクスとジャスティンか、キャロライン嬢の件はどうなった?」
父上は前のめりで聞いて来る。
おれはジャスティンへ先に報告していいと譲った。
「陛下、父から婚姻承諾書を預かって参りました。また直ぐに婚姻手続きを完了していただいて構わないとのことです。よろしくお願いいたします」
「ほう、リューデンハイム男爵は全て此方へ任せてくれるという事で良いのだな」
「はい、問題ございません」
ジャスティンは陛下に預かって来た書状を渡した。
おれはその様子を見て安心した。
これから直談判することに必要だからだ。
「それから、精鋭部隊の編成も各騎士団で完了いたしました。いつでも出動出来ます。ぼくからの報告は以上です」
「相わかった。では、マクスの報告を聞こうか」
「はい、おれはリューデンハイム領でキャロルの誘拐に関わった者たちを捕縛し、先程ここへ連行しました。その主犯格はリューデンハイム男爵家の経理担当スージー女史でした」
「えええ!?スージー女史って」
ジャスティンは陛下の前だと言うことも忘れて大きな声を出した。
まぁ、驚くよな。
「ジャスティン、スージー女史のことは一旦置いて於いてくれ」
「はい、失礼しました」
「それで、ここからが難しい話になるのですが、キャロルは今、ブカスト王国ソルティール監獄塔に捉えられています」
「な、な、何だと!?お前の婚約者候補絡みじゃなかったのか!」
今度は陛下が大声を出した。
「おれもまだ全容は分かりません。リューデンハイム男爵家にブカスト王国絡みの輩が入り込んだのは氷の刃への腹いせなのか、それともおれの婚約者候補絡みも含んでいるのか、、、。そこで、精霊を使ってキャロルに伝言をしました」
「マクス、その状況で、一体何と伝えたのだ」
「魔法を全力で使って良いと許可しました。そして、自力で帰って来る事と、出来れば黒幕も特定して来てくれと命令しました」
執務室に沈黙が訪れた。
沈黙を破ったのはジャスティンだった。
「殿下、最悪ですね」
続いて、父上も口を開く。
「お前は何と酷いことを言うのだ。捉えられて弱っているかも知れないのに可哀想だろう」
2人はおれを酷い奴と目で訴えてくる。
「違います。お二人はキャロルの事を知らなすぎる!彼女は凄いんです。信じて待っていたら大丈夫です。まずは婚姻手続きを完了させましょう。魔法を全力で使える様に」
「あー、最悪。殿下、、、父に伝えます」
あ、それは辞めて欲しい。
「ジャスティン、少しオブラートに包んで貰えると嬉しい」
ダメ元で頼んだ。
ジャスティンは溜息をついた。
「そこはおれが行きますと口だけでも言って欲しかったな」
父上もため息を付いている。
「すみません。戦争を起こす訳には行かないので、、、。ん?戦争!?」
おれは少し閃いた。
「もしかすると、この国の貴族で隣国と戦争になったら得をする者も確認した方が良いかもしれません」
「ぼくが調べて来ます」
ジャスティンは即答した。
「ジャスティン、よろしく頼む。婚姻の手続きを私達はこれから執り行うぞ、マクス」
ジャスティンは先に退席した。
「ところでマクス、指輪の交換などはこの状況では出来ないだろう?仕方ないから端折るしかないな」
「いえ、先にキャロルに渡しています。今、指に嵌めている筈です」
「マクス、そう言うところは抜かりないのだな」
父上がジト目でおれを責める。
「すみません。領地に帰したのは失敗でしたが、指輪を先に渡していたお陰で居場所も分かりましたし、すでに精霊の加護も得ています」
「精霊が付いているのなら少し安心だな。では王家の霊廟へ向かうとするか」
「はい、父上よろしくお願いいたします」
アリスが暴れる前に彼女をおれの正式な妃にする。
魔塔の監視から逃す為に、、、。
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