第12話 死の世界から

 監獄塔から少し離れた岩影に私とピピは舞い降りた。


足元は岩とサラサラの砂が風に舞っている。


草ひとつ生えていない不毛の地。


ここは死の世界のようだ。


さて、試しにマクスを召喚してみよう。


失敗しても別にいいし。


「ピピ、ちょっとマクスを呼んでみるね」


「はい、頑張って下さい」


何処までも可愛い相棒である。


「出よ!マクス!!」


手順も何も分からない私は、手を翳し、それらしく呟いた。


くるくるっと旋風が湧き起こる。


うぉー!もしや、、、。


目の前にマクスが召喚された!!


「キャロル!?」


驚きの声を上げたマクスは物凄いスピードで私に抱き付いた。


は?何、何が起きた!?


「マ、マクス?」


「キャロル、会いたかった!ごめん、直ぐに迎えに来られなくて」


ギュウギュウに私を締め付けながら、マクスが言葉を紡ぐ。


「本当は真っ先に来たかったんだよ。だけど、早く片付けないといけない事が山積みで、、、。本当にごめん」


こんなに謝られると思っていなかった私の罪悪感と言ったら半端ない。


いつもの横柄な態度で、助けに行かないって言ったのだと思っていた。


あ、どうしょう、、、。


このまま、王宮に戻して無かったことに、、、。


いや、それは人としてダメだわ。


「マクス、急に呼んでごめんなさい」


先ずはお詫びを。


「いや、心細かっただろう」


「う、うん、それなりに。でもピピが居てくれたから、何とか大丈夫だったわ」


マクスは私の顔をじーっと見つめてくる。


「もしかして、おれをここに引っ張ったのはキャロル?」


急に冷静な顔で私に問う。


「そ、そうなの。出来るかなぁって思って召喚してみたら、出来たわ」


「それは、、、驚きだな」


「ええ、私自身、魔法で何が何処まで出来るのかが判らないのよ」


マクスは私をギュウギュウに締め付けていた腕を緩めた。


「もしかして、ひとっ飛びで帰れる?」


「帰れるかも知れない」


「あー、、、」


そう言うとマクスは頭を抱えた。


「どうしたの?」


「そこまでだとは思って無かったんだよ。そんなに強力な魔力があるなら、一度帰ろう。捜索はいつでも来られるって事だろう?」


あ、確かに。


わざわざ、このまま旅人をしなくても行ったり来たり出来るって事だものね。


「せっかく旅装も整えたけど、マクスの言う通り一度帰ろうかな。恋人の丘も気になるし」


「ああ、恋人の丘は、おれの部下とケイトに任せたから心配しなくても大丈夫だ」


「え、何でケイト?スージー女史の指示?」


「いや、今回の誘拐はスージー女史の手引き、、、」


「はあ!?」


え、スージー女史の手引きってどういう事?


「スージー女史は既に投獄した。おれに毒を盛ろうとした罪もある」


な、何ですって、、、。


私はあまりにショックで言葉が出ない。


マクスを殺そうとしたなんて有り得ない。


「キャロル、ピピ、帰って仕切り直そう」


マクスの言葉に私は頷くので精一杯だった。


「はい、ミーは自分で帰れます。また必要な時は呼んで下さい。では失礼します」


空気を読む可愛い子は私とマクスを残して消えた。


ふと、私はマクスの指先に目が行った。


あっ、左手の薬指に指輪をしている?


目線を少し上げるとマクスは式典に出る様な正装をしていた。


「うそ!マクス、まさか結婚、、、」


私はもしや結婚式か何かしている最中のマクスを召喚してしまったのでは、、、。


よく分からない複雑な感情が溢れ出す。


どうしよう、、、。


抑えきれず、滝の様な涙になって流れ出して来た。


「キャロル、、、。泣かないでくれ、多分、イヤ絶対勘違いだから。おれの話を聞けるか?」


涙は止まらないけど、話は聞きたい。


私は頷いた。


「おれはさっき結婚した」


あー、やっぱり。


「ごめんなざい。急に呼んでじまづで」


もう涙が止まらず、グダグダな喋りになってしまう。


「おれはキャロルと結婚した」


まさかの同名?


え、一緒の名前の人とか貴族に居たかしら?


「何処のキャロル様なの」


「この目の前に居るキャロルだ」


天使が通る。


頭が真っ白になった。


マクスの言葉が理解出来ない。


彼はゆっくりと跪いた。


そして、私の右手を取る。


「キャロル、好きだ。おれと結婚して欲しい」


マクスは私の手の甲に口付けをした。


「マクス、、、。私、コレって断れるの?」


「いや、断れない」


気が遠くなりそう。


色々飛ばしすぎじゃない?


「まさか、魔法を使わせる為に結婚したの?」


「違う!!」


急に大きな声でマクスは否定した。


「キャロル、オレは10年近く待った。ずっと好きだった。断るとか言わないで欲しい」


「10年って、何?」


「それはリューデンハイム男爵と男同士の約束だから秘密にしたい」


「ふーん、そうなの。じゃあ、無理に結婚してくれる訳じゃないのね」


私の言葉を聞いて、マクスはため息を吐く。


「キャロル、今までおれはかなり君を特別扱いして来たと思っているけど、まさか全く伝わっていなかったのか?」


あ、少し意地悪を言い過ぎたかも知れない。


「うううん、特別扱いされているって、充分、感じてた。そして、私も、マクスが、、、大好き」


涙でぐちゃぐちゃになった顔で仕方なく認めた。


マクスの表情は晴れやかになって行く。


持っていた私の右手を強く引いて、再び私を腕の中に閉じ込めた。


「ありがとう。これからもよろしく」


「うん、次は直ぐに助けに来てね」


「ゔっ、、、。本当にごめん」


マクスも凹んだし、もう許してあげよう。


「それじゃあ、帰ろうか?」


私は顔を上げて、マクスに言った。


マクスは返事の代わりに私の唇にキスを落とした。


突然のことに驚く私を浮遊感が包み込む。


2人の唇が離れる頃、辺りは死の世界から、緑豊かな王宮の庭へと替わっていた。

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