第22話 ストッパー不在

 黒幕の名前を口に出した後、偽スージー女史は完全に生気を失った顔になった。


先程までの強いメンチが嘘のよう、、、。


「うっううっ、、、」


背後からは、呻き声が聞こえる。


マクスが回復魔法を施している本物のスージー女史だ。


その傍でピピも様子を伺っている。


「目が覚めたのかな?」


「いや、五分五分な感じだな。何か言っては行けない言葉でも吐いたんだろうな」


私とマクスの見解は同じだった。


恐らく、この2人には指令と一緒に制約魔法が掛けられていたのだろう。


「ねぇ、マクスはさぁ、第三王子が黒幕だと思う?」


「いや、それならスージー女史が血を吐いた意味が分からないだろう?」


「そうなのよね。第三王子のことは簡単に答えておいて、その先は吐血って怪しいよね?」


「キャロル、ミーも変だと思います」


何故か、ピピまで同意して来る。


可愛いヤツめ!!


マクスは手を伸ばして、ピピを撫でた。


ピピもマクスに擦り寄っている。


いいなぁ、羨ましい。


ええっと、何だったっけ?


「あのね、みんなに相談なんだけど、ここに第3王子呼ばない?」


「キャロル、、、。手に負えなかったらどうするんだよ」


「マクス、念のためにピアス外しておいてくれる?」


「いや、そういう心配じゃなくて、国の問題になるかも知れないって意味なんだけど、、、」


「うーん、それは話してみないと分からないし、いざとなれば記憶を消して返却しよう!!」


私の発言を聞いたマクスが、呆れた顔をする。


「一蓮托生って感じなのか?」


「そうね、夫婦だし。何より陛下が何をしても良いってお墨付きをくれたから大丈夫よ」


「そんなことも確かに言っていたな。分かった。全力で行くか!」


「ミーとマックもお助けしますから、ご心配なく!!」


「です!」


白い巻き毛のうさぎと、もふもふの羊もドヤ顔で頷く。


ストッパー不在で、何処までも突き進む私達。


マクスは、右耳のピアスを外した。


「いつでもいいぞ」


「では、召喚します。出よ!ブカスト王国の第三王子!!」


よくよく考えると見ず知らずの人を召喚するのは初めてだった。


しかしながら、ハイになっていた私はそんな事を気付きもしなかった。


 

 目の前につむじ風の渦が現れる。


それは室内を吹き荒らし、やがて風が止んだ。


つむじ風の中心だった場所には、真っ白な服を身に纏い、褐色の肌と金色の短髪で、見目麗しい男が片膝をついた状態で現れた。


男が驚いて何か声を上げたり、暴れたりしないだろうかと警戒したものの、彼は冷静な表情を崩さなかった。


マクスは彼に視線を向け、静観している。


スージー女史と偽スージー女史は戦闘力ゼロで同じ空間に居るだけの状態。


白い巻き毛のうさぎとモフモフの羊も並んで、彼を見つめている。


私は口火を切るタイミングが判らず、黙って立っていた。


体感5分ほどの膠着状態を破ったのはマクスだった。


「初めまして、ブカスト王国の第三王子殿。おれはソベルナ王国の王太子マクシミリアンです」


彼はこの場所にとても似つかわしくない爽やかな挨拶をした。


「と言うことは、ここはソベルナ王国なのか?」


第三王子が呟く。


まぁ、事態が分からないという気持ちはよく分かる。


「失礼、私がブカスト王国第三王子カルロと貴殿達は既に知って居たのか?」


「はい、存じております」


私はキッパリはっきりと答えた。


「カルロ殿、彼女は私の妻のキャロラインです」


マクスが、横から口を挟んで、私のことを紹介した。


「な、そなたがキャロライン嬢か!」


カルロ殿下は私の顔を、マジマジと見る。


「あのう、カルロ殿下は私のことをご存知だったのですか?」


「ああ、知っている。王家の陰謀に巻き込まれたと、、、」


そこまで言い掛けて、カルロ殿下は口を噤んだ。


「カルロ殿、王家の陰謀など有りませんよ。誰かが貴方に嘘をを吹き込んだのでは?」


マクスは不機嫌に言い返した。


「いや、あー、確かに今となってはそうかも知れん。いや、あの監獄塔から逃げたというのは本当か!?」


「はい、あの監獄塔は見張りも全然居ないし、管理体制が全くダメですよ。簡単に外に出れましたから」


私は思っていた事をそのまま言った。


「そうか、やはり怠惰な勤務体制だったのだな」


カルロ殿下が言った。


私はカルロ殿下が想像と違っていて驚いた。


ソルティール監獄塔なんかに送るから、もっと傍若無人な人かと思っていた。


「それにしても悪い事をした訳でもないのに、ソルティール監獄塔に入れるなんて酷くないですか!なぜ、私を誘拐したのですか?」


「キャロル、だいぶんストレートに聞くんだな」


マクスが横で、苦笑する。


「あー、私はそなたが不憫な扱いをうけていると聞いて、妃に迎えようと思っただけだ」


「ブカスト王国では不憫だと妃にするのですか!?」


「いや、そういう訳では無いが、、、。コレは私が甘言に乗せられたと言う事で間違いないのか?」


「恐らく。ここの二人もカルロ殿下の名前は簡単に吐きましたから」


私は二人のスージー女史に視線を送りながら、カルロ殿下へ冷たい口調で言い捨てた。


「そうか、私の名前。やはり黒幕がランディ・ボルドーを、、、」


「あー、そのランディ・ボルドーの娘はそこに」


マクスは偽スージー女史を指差し、カルロ殿下に教えた。


「な、娘だと。お前の父親は誰の指示で動いているのだ」


カルロ殿下は、偽スージー女史に近づいた。


彼女は死んだ目でカルロ殿下を一瞥したが、何も言わず無表情のままだった。


「マクシミリアン殿、この女を拷問にでも掛けたのか?」


カルロ殿下がマクスに確認する。


「いや、そこの羊が魔力を食べただけだ」


的確な回答をマクスはしたのだが、カルロ殿下は理解が出来てない様だった。


「おいが、そん人の魔力ば食べたとさ」


モフモフの大きな羊が、コテコテの言葉で説明する。


「えっ、え?」


カルロ殿下、分かりやすく動揺。


「羊のマックは魔力を吸うんです。助っ人で呼んだのです」


私が更にフォローを入れる。


「ソベルナ王国は私が知らないことが多そうだ。それで、私は捕えられたのか?」


「いえ、参考人として呼んだだけです。何やら大きな陰謀が渦巻いていそうだったので、でも何もご存知無さそうですよね。マクスどうしようか?」


「そうだな、カルロ殿下、今回の誘拐劇が公表されたらどうなる?」


「私は父上に呼ばれて事情を聞かれるだろう」


「そうなると、得するのは誰?」


「得するか、、、。それならば、ナスタ兄上だろう。我が国の第一王子だ」


「なるほど、黒幕になりそうな人が居るってことね」


私の一言で、カルロ殿下がハッとする。


「ならば、カルロ殿下、おれたちと取引をしないか?」


マクスはニヤリと悪い顔をしながら、話し始めた。

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