第23話 幸福のベル改め、愛のベル

 マクスはカルロ殿下と取引という名の悪巧みを計画した。


簡単に言えば、黒幕を炙り出す。


壮大なタイトルをつけるなら、国交の正常化作戦?


あー、コレはちょっと言い過ぎかもしれない。


それで、細かな打ち合わせは、私がカルロ殿下を王宮に召喚、または私たちがカルロ殿下の居城へ必要な時にいくことにした。


カルロ殿下が思いの外、私達と普通に遣り取りをしてくれたことには驚いた。


まぁ、誘拐したという負い目があるのかも知れないけども。


でも、ブカスト王国を勝手に野蛮な国とか、横暴な王族ばかりだと想像していた自分が恥ずかしい。


マクスがカルロ殿下といい距離感で対話しているところを見ると、私はまだまだだ。


この件が終わったら、王妃様に色々教わろう。


 

 打ち合わせの後、カルロ殿下は元の場所へ送り返した。


スージー女史と偽スージー女史は戦闘力ゼロで、仲良く檻の中にいる。


スージー女史の吐血も治ったし、命に別状はないだろう。


ピピとマックは騎士団が牢獄へ見張りに来るまで、二人を見ていてくれると言うので任せた。


私とマックは一旦王宮に戻り、これから旅立つ準備をする。


まあ、そうは言っても必要なものは呼び寄せ可能なので、動きやすい格好に着替えるくらいだけど。


陛下にはマクスが、テレパシーでリアルタイムに報告しているらしい。


ピピも、後ほど陛下に録音した石を持って行くと言っていた。


相変わらず、可愛い上に優秀な相棒。


そして、私達がこれから向かうのは、カルロ殿下から教えてもらった転移ポイントっていう場所。


何でも、我が国の聖地ブームに乗っかって、ブカスト王国の諜報機関がソルベア王国の各聖地に転移ポイントを作っているというのである。


これって結構、深刻な状態だと思う。


教えてくれたカルロ殿下にもビックリだけど。


やっばり、お詫びの心も入っているのかしら?


我が国は氷の刃を頼って国境にばかり、目を向け過ぎたのかもしれない。


ああ、これを伝えたら、お母様がまた暴れ出しそう。


とりあえず、その転移ポイントの設置場所を確認して、見張りを置く予定だ。


「キャロル、おれは力を温存でいいのか?」


「うん、勿論。ピアスは付けたままで」


「分かった」


マクスと手を繋ぎ、私は故郷を思い浮かべる。


「じゃあ、行きますか!いざ、リューデンハイムへ」


威勢よく声を上げて、二人の姿は消えた。




 え、ちょっと待って、、、。


「何故に、コルマン、、、」


私より先にマクスが口走った。


「ようこそ恋人の丘へ、王太子殿下並びに妃殿下。この度はご結婚おめでとうございます」


私達が、動揺しているうちに売店の売り子ナーシャとカレン様が笑顔で挨拶を口にする。


恋人カードを購入するために並んでいる人々からも、拍手が湧き起こった。


「皆、ありがとう。妃共々、これからもよろしく」


素早く思考を立て直したマクスが、社交スマイル全開で皆を魅了する。


いやー、その精神力分けて!!


私はカレン様がニコニコしている意味が分からない。


むしろ怖い。


忘れかけていたマクスの色恋沙汰も絡んでくるの?


「キャロル様、こちらの方は、踊り子のケイトが連れて来てくれた助っ人のカレンさんです。いつもの二人がバックれてしまって、、、」


ナーシャ、、、途中から言葉が悪くなっているわよ。


かなりムカついたのね。


「そう。大変だったのね、ナーシャ。カレンさんもありがとう。助かります」


私は他人のフリをして、お礼を述べた。


「いえ、妃殿下。身に余るお言葉です。丁度、手が空いていましたので、楽しくお手伝いしています」


手が空いていた???


王都に居るはずの人が、何故に?


今、ここで問い詰める訳には行かないし、どうしよう。


「二人も居なくなったって?今日、仕事が終わったら、少し話を聞かせてくれないか」


動揺し過ぎて役に立たない私の代わりに、マクスが二人へ話し掛ける。


「はい、承知いたしました」


ナーシャが答えると、カレン様も頷いた。


夕方の約束を取り付けた私達は、転移ポイントを探すため、恋人の丘の頂上へ向かうことにする。


そもそも、恋人の丘は芝生に覆われた緩やかな丘陵で、白い羊岩が点在していた。


丘の一番上には、かなり昔から幸福のベルが設置されていて、大切な人と一緒に鳴らせば幸せになれるというジンクスがあった。


そこへ、私が天使カードで色付けをした。


たった一年で、ここはすっかり恋人の聖地となったのである。



「あー、たった数日なのに花殻が、、、」


丹精込めて、育てた可愛いお花たちを眺めながら、丘を登る。


「ここは夜になると何も見えなさそうだな」


マクスがボヤく。


「月夜じゃない限り、何も見えないと思う」


「あ、アレが幸福のベルか?」


マクスは視線の先を指差す。


「そうそう、アレで間違いないわよ。マクスとここに来るなんて、想像もしなかったわ」


「鳴らすか?」


「んー、うん」


「何だよ、ヤル気がないな。キャロル、疲れたのか?」


マクスは人の目とか気にしないのね、、、。



 2人で幸福のベルの前に辿り着いた。


ラッキーな事に誰も並んでない。


しかし、周辺から痛いほど視線を感じる。


「キャロル、ほら一緒に持って」


マクスはベルに付いた鎖を手に取り、私を急かす。


「はいはい」


私はマクスと一緒に鎖を掴んだ。


「キャロル、幸せを一緒にいっぱい作ろう!せーの!」


マクスの掛け声に合わせて綱を引く。


カラーン、カラーーン、カララーーン。


高音過ぎず、柔らかなベルの音が大地に響き渡る。


「私、よく考えたら、このベルを初めて鳴らしたわ」


「それは良かった。おれとだけって言うのが嬉しいね」


マクスはそう言うと、屈んで私にキスをした。


「キャー!」


「王太子さまー!!」


辺りから黄色い声が上がる。


やっぱり、ギャラリーはマクスを見ていたのね。


あー、明日からここでキスする人が増えそうな予感がする。


チラリと横を見るとマクスが優しい表情を見せる。


「悔しいけど、カッコいいわ。マクス」


「キャロルも凄く可愛いよ」


二人で幸福のベル改め、愛のベルを鳴らし、キスをした後、互いを褒めるという慣習が出来た瞬間だった。

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