第24話 謎のメンツ
何だかんだで、夜の酒場は初めて。
私とマクスは酒場ロンドを訪ねた。
「キャロルさま〜!ご結婚おめでとう」
ケイトが、店の奥の階段を駆け下り走ってくる。
うわ、何だか涙が出そう。
「ケイト、お久しぶ、、」
私が言い終わる前に、ギュッと抱きつかれた。
「け、ケイト?」
「無事で良かったわ。心配していたのよ」
ケイトの声と肩が揺れる。
ダメだ涙が溢れて来た、、、。
二人で抱き合ったまま、涙を流す。
「ほら、キャロルもケイトも色々話すことがあるだろう」
マクスが、私達の頭をポンポンとする。
「殿下、良かったわね」
ケイトが顔を上げて、マクスに言う。
「ああ、本当に良かった。ケイト、恋人の丘の件もありがとう」
「どういたしまして、殿下の部下たちは、コントみたいで楽しかったわ」
「ん、コント?いや、それよりマクスとケイトは顔見知りだったっけ?」
「ええ、殿下は誘拐されたキャロルさまを探しに、酒場まで来たのよ」
「そうだったの!?知らなかった」
私はマクスを見る。
マクスは頬をポリポリ掻いている。
「あの時はキャロルが心配で王都から早馬で駆けてきた。誘拐なんて、もう二度と遭って欲しくない出来事だな」
マクスは全然心配なんてしてくれてないって思っていた自分が恥ずかしい。
「こんばんはー!」
私達が感動の再会をしていると、ナーシャとカレン様が現れた。
「こ、こんばんは」
つい、オドオドした返事を返してしまった。
「ナーシャとカレン嬢。丁度良かった、話を聞きたいから一緒に食事でもどうだ?」
また切り替えスイッチの早いマクスが話を進める。
「あら、殿下はカレンをご存知なの?」
ケイトがマクスに質問した。
「ああ、知っている。臣下の娘だからな」
「ふーん、そうなのね。カレン良かったわね。殿下は貴方のこと知っていたみたいよ」
ケイトがそう言うとカレン様の顔が真っ赤になった。
「ケイト、揶揄っちゃダメよ。カレン大丈夫?」
ナーシャがカレン様を気遣う。
私にはこの三人の関係がよく分からない。
「みんなでご飯にするなら、ニ階の部屋に行かない?ここでは出来ない話もあるでしょう?」
ケイトは皆の顔を見回しながら、提案した。
全員が合わせたかの様に頷いた。
ケイトの案内でニ階の個室に私達は移動した。
先に飲み物や食事の注文をして、漸く落ち着いた。
「それで、カレン嬢は何故ここに?」
私がカレン様に一番聞きたいことを、マクスが最初に質問した。
マクス、ありがとう!
「それは、あのー」
カレン様が口籠る。
「代わりに、あたしが話しても良いかしら?」
ケイトが助け舟を出した。
「別に構わない。でもそんなに話せないような話なのか?」
マクスは少し怪しむ。
「そうね、でもそういう感じのことでは無いのよ。カレンはね、殿下が来る前の日に、ここへ食事に来て、あたしと恋人の丘の話で盛り上がったの。それで友達になったのよ」
「おれが来る前の日?一体何をしに来たんだ」
あ、マクスは少し怒っているかも。
「あ、あのわたし。すみません。キャロライン嬢、いえ、妃殿下が誘拐されるのを防ぐ事が出来ませんでした」
「えっ?」
私とマクスの声が重なった。
「わたしが迂闊に王宮の渡り廊下で、殿下に天使カードを使ってしまって、、、」
は?何それ。
「あ、あの時か!?」
えー、マクスも分かっている?
「何のこと?」
思わず、口を挟んでしまった。
「私が天使カードを握りしめたまま、殿下の本当に好きな人は誰?と考えたんです。すると、通り過ぎる殿下が「キャロライン」と呟かれて」
カレン様は真っ赤な顔で必死に状況を伝えようとする。
何だか可哀想な気分になって来た。
やはり、カレン様はマクスのことが好きだったんだ。
「それで、あの日のお茶会は王太子妃候補に名乗りを挙げているお嬢様方が沢山お見えになられていて、、、」
「そんな会があったの!?マクス」
私が勢いよくマクスに問い掛けると、彼はバツが悪そうにする。
「ああ、だけどおれはキャロル以外を選ぶつもりは全く無かった。実際、あの日も心に決めた人がいると宣言した」
「で、宣言した後に私の名前を出してしまったという事で合ってる?」
「ああ、その通りだ」
うそー、そんな話初めて聞いたし、あの意気込んでいるご令嬢たちに聞きつけられたら、一大事じゃない。
「妃殿下、大丈夫です。渡り廊下には私とセノーラ様の影しか居ませんでした」
「セノーラの影だと?あいつ影がいるのか」
「はい、セノーラ様にはボルドー家が影として付いています」
「ボルドー!?」
私は叫んでしまった。
「うわっ!ちょっと待ってください。私、ここで皆様のお話を聞いても良いのですか!」
黙って聞いていたナーシャが、慌て出す。
影の話とか出て来て、流石にマズイと思ったのね。
「ああ、構わない。今から話に出てくる者は近々捕まる。問題無い」
マクスー!?声が低くなっているわ。
私はマクスの背中を撫でた。
すると、無言で彼は頷く。
少しは落ち着いたかしら。
「わたしは渡り廊下付近でジョージ・ボルドーの姿を確認しました。ですので、慌ててリューデンハイム領に入ったのです。しかしながら、妃殿下の身の回りを確認している間に、妃殿下は誘拐されました。間に合わず申し訳ございません」
「分かるようで、分からないな。カレン嬢が何故動く必要がある?」
マクスは、もっと詳しく説明する様にとカレン様に詰め寄る。
「ちょっと待って、あたしとナージャは一旦外に出るわ。終わったら呼んで頂戴」
ケイトはナージャを連れて、素早く部屋から出て行った。
「コルマン侯爵家は陛下の影をしております」
カレン様は、ボソっと呟いた。
「父上の影?直属と言う事か?」
「はい、王家の影ではなく。陛下の影です」
マクスの様子から察するに、彼も知らなかったようだ。
「それで、何故?」
「私共は、カシャロ公爵家を監視しています。カシャロ公爵家はこのご時世に領地内で私刑を堂々と執り行う事で有名です。加えてご令嬢のセノーラ様は殿下に夢中です。彼女は殿下に近付く女性を冷酷に処分して来ました。私は狙われた女性を保護し、逃すための手筈を整える役割を任されていたのです。今回もその任務を遂行するため、ここに来ました」
「ちょっと待って、カレン様はターゲットの保護と救済をしていたという事ですか?」
私の問い掛けにカレン様が頷く。
「嘘!?カレン様が手を下しているのではなく、逃したり助けたりしていたってこと?世間の噂と全然違うじゃない!」
失礼なことを口走っていると分かっていても、聞かずにはいられなかった。
「はい、わたしに関する悪評は前々から知っていましたが、出処も分かっていたので聞き流していました」
「出処?」
マクスが言葉尻を取る。
「マーベル家です。陛下にベッタリしたいマーベル伯爵家にとって、我が家は目の上のたんこぶですから」
私が呼ばれていたお茶会の水面下が真っ暗過ぎる。
しかも仲間と思っていた3人が、それぞれの思惑を抱えていたなんて想像もしていなかった。
「分かった。ありがとう」
色々と不機嫌な顔も見せたけれど、最後に笑顔でお礼を言うマクス。
そして、それをチラッと見て俯いたカレン様の耳は真っ赤に染まっている。
私はどういう発言したら良いのかが、分からなくなってしまい、何も声を掛けることが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます