第18話 晩餐会

 王宮の奥深く、王族のプライベートエリアに、マクスのご両親、弟、妹と、私の両親と弟、そして私とマクス、総勢9名が集まった。


今回は最小限の身内のみでという陛下の配慮により、王弟一家は呼ばれなかった。


従兄妹が来て、色々と冷やかされるのは面倒なので、陛下のご英断に感謝したい。


私とマクスが晩餐会の会場に到着すると、皆は既に揃っていた。


「お待たせいたしました。本日はこのような会を催して下さり有難うございます」


まず、マクスが陛下や私の両親に向けてお礼を述べた。


「二人共、身内だけのお祝い会だ。そんなに畏まらなくても良いだろう。さて、それぞれの家族の紹介から始めるか」


陛下は気軽な感じで話し始める。


楽しそうに見えるのは、気のせいでは無さそうだ。


「まず、私はマクスの父親で、この国の国王をしておるカエサル・J・ソベルナだ」


陛下はそう言うと横に並んで立っている王妃様の方を向いた。


「わたくしは、マクスの母親で、この国の王妃のナンシー・ポート・ソベルナです。実家はポート侯爵家で医療に携わっている者が多いです。わたくしも王家に嫁ぐまでは薬師をしておりました」


王妃様は優しく微笑みながら、自己紹介をした。


昔、薬師をしていたなんて、初めて知った。


陛下との出逢いも、いつか聞いてみたい。


横に立つ可愛いマクスの妹へ、王妃様は目配せをして、挨拶のバトンタッチをする。


「私は長女のエリザベート・R・ソベルナです。16歳です。気軽にエリーと呼んでください」


金色でふわふわとした髪の毛が印象的なエリーと会うのは久しぶりだ。


すっかり美しい淑女になっていて驚く。


エリーは横の弟へ「挨拶をしなさい」と促した。


「僕は第ニ王子のリチャード・A・ソベルナです。8歳です。皆は僕をリック王子と呼びます」


元気のよい声で挨拶をしたリック王子は皆に愛され可愛がられている。


愛嬌が良いだけではなく、末っ子らしい強かさも持つ。


「おれはこの国の王太子マクシミリアンです。20歳になりました。今日という日を迎えられて、とても嬉しいです。どうぞよろしく」


何故かマクスが挨拶をすると、皆が笑う。


「では、次はリューデンハイム家だな。マーク頼む」


「はい、陛下。わしはリューデンハイム男爵家当主のマークです。王国第二騎士団副団長の職に就いており、主に海浜地区の警備業務に従事しています。年齢は38歳です」


「年齢も言うの!?」


父の横から、母がツッコミを入れる。


「ジェシカ、言いたくないことは言わなくてもよいぞ」


陛下が、フォローする。


「はい。私はジェシカ・リューデンハイムです。王国第三騎士団団長の職に就いております。普段は辺境の地で警備業務に従事しています。今回、王太子殿下が我が娘を選んでくださっていたことを、昨日知りまして、娘のことを何も知らず、母親失格だなと目下、反省中でございます。実家はローデン伯爵家で、高級ワインの産地として有名です。47歳です」


「え!?」


私が思わず年齢に反応して声を出すと、母がバツの悪そうな顔をした。


先のお誕生日の時、37歳って言って、、、。


お母様、サバを読んでいたのね。


しかもマイナス10歳って、ヒドくない?


父より年上だったなんて、ビックリだわ。


「キャロライン嬢、ジェシカと私は同い年で一緒に剣術を学んでおったのだよ」


陛下が、またフォローを入れる。


「そうなのですね。初めて知りました」


私が答えると陛下は頷いた。


「ぼくはリューデンハイム男爵家の長男ジャスティンです。愛称はジャンです。昨年から殿下の側近として働いています。王国第一騎士団副団長代理の職にもついています。年齢は15歳です」


挨拶を言い終えたジャンは私の方を見た。


私が締めをするってことね。


「私はリューデンハイム男爵家の長女キャロラインです。皆は私をキャロルと呼びます。どうぞ皆様も気軽に呼んでください。年齢は17歳です。それから、魔法が使えます。まだ全力で使ったことが無いので、何処まで出来るのかは未知数です。早速、今回の事件解明に魔法を使おうと思っています。この国が、より幸せな国になりますようマクスと力を合わせて頑張ります。皆さまどうぞよろしくお願いいたします」


私は皆さんに心を込めてカテーシーをした。


「キャロルさん、マクスをよろしく」


王妃様はそう言うと拍手を始める。


皆もそれに続き、拍手に包まれて、場が和む。


「さて、食事を始めるとしよう。それぞれ話したいことがあるだろう。食事は歓談しながらで問題ない。これから長い付き合いになるのだ、気楽に行こう」


陛下は一番に席へ座り、皆を気遣う。


私達も着席した。


 

 陛下が乾杯の音頭を取った後、食事が運ばれて来た。


前菜は鴨肉のハムとフルーツトマトにバルサミコ酢ソースがかかっていて、見るからに美味しそうだ。


鴨肉を噛むとジュワ―っと、旨味が口の中に広がる。


「マクス!これ美味しい!!」


私は隣のマクスに感動を伝える。


「マクス、本当に良かったな!」


斜め前に座っている陛下が、マクスに言う。


「はい、良かったです。ソルティール監獄塔から、、、」


マクスは何かを言おうとして、言葉に詰まった。


「マクス?」


私は彼の様子を伺う。


彼の目に涙が溜まっている。


「姉上、ここで聞くのもどうかと思うけどさ、あんなに遠いソルティール監獄塔から、一体どうやって帰って来た?」


ジャスティンは唐突に私へ質問して来た。


取り敢えず、涙目のマクスはそっとして於いて、、、。


「ジャン、ソルティール監獄塔って、ここからそんなに遠いの?」


「うん、遠いよ。ブカスト王国の首都ブカよりも、もっと先だよ」


ジャスティンの言葉を聞いて、皆が私を見た。


「へぇ、遠いのね。そうね、ええっと、ここでは真実を言っていいのよね?マクスと一緒に瞬間移動したのよ」


「マクス、そうなのか?」


陛下は涙目のマクスに詰め寄る。


マクスはハンカチで目頭を抑えてから、口を開いた。


「いや、正確にはキャロルが、まずオレを霊廟からソルティール監獄塔へ召喚してくれて、彼女の無事をこの目で確認する事が出来た。そして、王宮まで多分飛べると言うキャロルの言葉を信じて、オレは身を任せた。結果、ソルティール監獄塔の前から王宮の中庭まで、一瞬で戻って来れた。おれは全く魔力を使っていない」


「キャロル、、、。そこまでの力を秘めていたのか!?」


父が驚きの声を上げる。


「マーク、一体どういうことなの?」


母は私が魔法を使えると言う事を知らなかったかのような反応を見せた。


「ジェシカ、君にはキャロルに魔力があるとしか伝えてなかったが、本当は生まれた時から魔法を使える可能性を秘めていた。そこで、わしは陛下から秘密裏に借りた魔封じの腕輪をキャロルに付けて、真実を隠す事にした。キャロルが6歳になった頃、わしは彼女に魔法を使うと恐ろしい魔塔へ連れて行かれ、一生出て来れなくなると言う話をした。それを聞いたキャロルが魔塔へは行きたくないから、魔法は絶対に使わないと誓った。陛下にキャロルとの約束を伝え、魔封じの腕輪はその時、返却した。殿下はその頃からキャロルが魔法を使える事を知っていたし、誰よりも心配してくれていた。キャロルを自分が娶り、王族にして護るとわしに直談判しにも来た。これがこの結婚話の始まりだ。ジェシカ、長い間、詳しい事を話せず済まなかった」


母は「そんな大事な事を!!」と言って、テーブルに突っ伏した。


「何も話して貰えないなんて、母親失格だわ、、、」


ブツブツと何かを呟いている。


何と言うか、我が家のコミュニケーション不足が半端ない。


「ねぇ、あなた一体リューデンハイム家の皆さんに、どれだけ仕事を背負わせているの?」


やや怒気を含んだ声で王妃様が陛下に詰め寄った。


「あー、それを言われると耳が痛い。確かにリューデンハイム家には、この国の守り神として、かなりお世話になっている。今後は家族の時間が持てるよう業務を見直す。どうかそれで勘弁してくれないか?」


「わたくしに謝ってどうするのです。リューデンハイム家の皆様に謝ってください陛下」


王妃様は強い口調で陛下に注意した。


「王妃さま、ありがとうございます。もう充分伝わりました。私たちも、家族のために時間を作ろうとする努力が足りませんでした。そして、邸の使用人が誘拐を仕掛けてくるなどという事件まで起こしてしまい申し訳ございません」


ウジウジしていたのが嘘のようにキリッとした回答を母がした。


「業務改善が必要なら遠慮しないで頂戴。ジェシカさん、これからキャロルさんも、この王宮に住むようになるのです。わたくしに遠慮せず、気軽にお嬢さんを訪ねてくださいね」


何と言うか、もう王妃様が女神のようで眩しい。


「ありがとうございます。これからは娘とも向き合います」


母はお礼を述べた。


予想外に円満な王家の皆さまと隠し事だらけでチグハグな感じの我が家。


マクスのやさしさはこの温かいご家族が育んで来たのだろう。


私は無意識のうちに羨望の眼差しで、王家の人たちを眺めていた。


「キャロルお姉さま、お母様は優しいだけではないのです。どうかお気をつけて!」


エリーが私に余計な忠告する。


「まぁ!!わたくしはお嫁さんには優しいのよ。エリーあなたは注意されるようなことばかりするから怒られるのよ」


にこやかな笑みの王妃様のポーカーフェイスが一瞬で崩れ落ちた。


「エリー、ご忠告ありがとう。でもね、私は急に結婚してしまって、まだ何も知らないの。だから王妃様にはいろいろなことを教わらないといけないわ。勿論、怒られることも沢山あると思う。だけど出来るまで頑張るしかないじゃない?覚悟は出来ているわ。心配しなくても大丈夫よ」


「分かったわ。キャロルお姉さま、頑張ってね。愚痴ならいつでも聞くわ」


エリーは半笑いで私に答えた。


王妃様がジト目でエリーを見ている。


残念ながら、エリーは気付かない。


そのタイミングで、きのこと根菜のポタージュスープが目の前に置かれた。


予想を超えた盛り上がりを見せる晩餐会の終わりはまだまだ遠い。

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