第19話 スージー女史

 まさかとは思ったけれど、本当にそんな事があるんだ!?


「で、貴方は誰?」


私は鉄格子の向こうに座っている女に話しかけた。


昨夜の晩餐会で、ベロベロに酔っ払った母が、「何なのあの女!問いかけにも全無視だし、舐めてるわ。ムカつく!!」と大声で陛下や父にくだを巻き倒した。



私達は、その様子を苦笑いするしか無かった。


やがて、母は酔い潰れて眠りに落ちる。


すると、陛下が私に白羽の矢を立てた。


「ジェシカの仇を取ってくれ。キャロル嬢が出て来るとは敵も予想していないだろう。逮捕者への面会を許可する。好きなようにして良いぞ」


確かに犯人たちは誘拐した私が此処にいるとは夢にも思っていないだろう。


誰に会うこともなく、ソルティール監獄塔から勝手に帰ったのだから。


それにしても陛下、好きにして良いぞって、、、。



 私が呼びかけると目の前で偉そうに座っていた女は分かり易く挙動不審になる。


堂々とこちらを見据えていた目を逸らし、ソワソワ身体を動かし始めた。


「何度も言いたく無いけど、貴方は誰?」


私は、今一度、呼び掛けた。


「・・・」


ふーん、何も答えないのね。


私は、背後に向かって話し掛けた。


「マクス、魔法使っていい?」


物陰からマクスが出て来る。


「勿論、好きなだけどうぞ」


マクスはニヤニヤしている。


「じゃあ、遠慮なく行くわ」


私はマクスを召喚した時の様に、両手を前に出して、声を上げた。


「召喚!スージー・ボンド!」


目の前が光り始める。


そして、光を中心にして、クルクルとつむじ風も巻き起こった。


光と風が消えると、私が知っているスージー女史が床に座った状態で現れた。


「え!?」


召喚されたスージー女史と、鉄格子の中にいる女の声が重なる。


「似てる、、、」


私の隣で、マクスが呟く。


確かに2人とも並べてみると、顔がそっくりだった。


ただ雰囲気は全然違う。


目の前のスージー女史は硬い雰囲気で、鉄格子の中の女は妖艶と言った感じだ。


「な、何故、、、」


スージー女史の狼狽えた表情から、彼女達は共犯なのだろう。


「スージー女史、お久しぶり。此処が何処か分かる?」


私は、ワザと情報を与えずに話し掛けた。


「え、いえ、分かりません」


「そう。では、あの女が誰なのか、ご存知?」


私は、鉄格子の中にいる女を指差した。


スージー女史は女を見るなり、視線を逸らす。


「分かりません」


「そうなの?あの女は、スージー女史のフリをして王太子に毒を盛ったのよ。どうやって入れ替わったのかしら」


「ど、ど、毒、、、」


スージー女史は呟いた後、黙った。


さて、何から試そうかな?


「マクス、いきなり親玉を引っ張るのと、この人達の口を割らせるのは、どっちが良いと思う?」


私の質問を聞いて、マクスは眉間を揉んだ。


「いや、いきなり親玉は辞めとけ。とりあえず、口を割らせたらどうだ?」


「分かった」


私は床に座り込んでいるスージー女史の肩に手を置く。


「質問に必ず答えよ」


魔力を流し込み、強い命令を口にする。


「あの女は誰?」


すると、間髪入れずに返事が来る。


「あの女は私の母の姉レイチェルの娘でスージー・ボルドーです。私のいとこに当たります」


んん?スージー?同じ名前なの?


「何故、名前が同じなの?たまたま?」


「いえ、諜報活動のため、同じ名前を名付けられました」


「何だと?キャロル、もっと詳しく質問してくれるか」


マクスが身を乗り出して来た。


尋問慣れしていない私にそれは難し過ぎる。


「マクシミリアン王太子の質問にも答えよ」


私はスージー女史の肩にもう一度手を置いて、魔力を流した。


「マクスも質問して良いわよ」


「キャロルありがとう。では質問する。母親の家門を答えよ」


「ハーデン子爵家です」


「あー、ハーデン子爵家の先代夫人はブカスト王国の商家出身だったな」


「マクス、よく知っているのね」


私は感心して横から話しかけた。


「父上が見せてくれた資料に載っていたんだ」


マクスが言うには、今回ジャンが揃えた事件資料にハーデン子爵家があったらしい。


それも、戦争になれば利益を得る貴族リストに、、、。


「家門の中で諜報活動の中心にいる人物は誰だ」


「ランディー・ボルドー伯父様です」


口はペラペラと答えるが、スージー女史の顔面は蒼白になっている。


「ランディー・ボルドーは何の仕事をしているんだ」


「伯父様はブカスト王国で表向きは商団主をしていますが、王族直轄の諜報機関のトップです」


「トップですって!?」


私はこの事件が、マクスへの色恋沙汰だと思っていた。


国家間の問題だなんて、、、。


「キャロル、まだ判断するには早い。もう少し聞くぞ」


マクスが私の頭を撫でた。


「では、今回私の誘拐を依頼したのは誰?」


「ブカスト王国第三王子カルロ様です」


スージー女史の口は止まらない。


死にそうな表情で、ペラペラ話す様子は不気味だ。


「は?誰よ。マクス、知ってる?」


「第三王子か、そもそもブカスト王国とは交流も少ない上、3番ともなると全く分からないな。ブカスト王国は第二王子が後継者として有力だと言われていることは知っている」


「じゃあ、何故私を狙ったの?」


「第三王子はキャロル様を妃にし、魔法の力を手に入れようとして、、、」


「ちょっと待て、なぜ魔法の事を知っているんだ!」


「ソベルナ王国の王族から情報を得ました」


「王族って、王宮に間諜がいるのか?」


「それはゴボッ、ゴホッ」


スージー女史は突然、咳き込み出したと思うと、血を吐いた。


「うわっ!どうしようマクス!!」


「落ち着けキャロル。大丈夫だ。彼女の回復はおれがする。次はあの女に聞くぞ」


マクスは顎で鉄格子の中の女を指した。

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