第20話 ひつじのマック

「お待たせしました。次は貴方の番ね」


私はわざと明るく話しかけた。


偽スージー女史は強気にメンチを切って来る。


鉄格子の鍵を開けて、中に入る。


マクスはスージー女史も引き摺って鉄格子の中に連れて入り、回復魔法を掛け始めた。


勿論、鍵はバッチリ閉めている。


マクスの周到さに感心する。


私は手脚を拘束されている偽スージー女史の肩に手を置こうとした。


バチっ!


「痛っ!」


「大丈夫か!キャロル!!」


マクスはスージー女史を投げ出して、私に駆け寄る。


「大丈夫、少しピリッと来ただけよ。この女は魔法が使えそうだよね。どうしようかなぁ、、、」


「おれが変わろうか?」


マクスは耳のピアスに手を掛ける。


「ちょっと待って、それは取っておこう!」


私はマクスの手を止めた。


「でも、どうする?」


「助っ人を呼んでみるわ」


私は左手の金の指輪に魔力を流した。


間髪入れず、目の前に白い毛玉が落ちて来た。


「キャロル、お呼びですか?」


「ピピ、ちょっと手伝って欲しいの」


白い巻き毛のうさぎは私の言葉に首を傾げる。


こんな状況なのにかわいい。


「ピピ、魔法使いの魔法を封じたいのだけど、良い考えはない?」


結構難しい質問だよね、、、。


「キャロル、魔力を食べる羊を連れて来ましょうか?」


ピピは自信満々で答えた。


「魔力を食べる?それ良さそうね。でも、私の魔力も一緒に食べられたら、困るわ」


「大丈夫です。ミーの友達なので、ちゃんと指示したら聞いてくれます」


「そうなのね。じゃあお願い」


「では、しばしお待ち下さいませ〜」


ピピはクルリと身を翻して、消えた。


「マクス、陛下に今話し掛けたり出来る?」


「あー、出来なくは無い。あまりした事は無いけど」


「それなら、ハーデン子爵家に連なる家門を取り押さえる指示を早く出した方がいいかも」


「そうだな。隣国に逃げられたら厄介だ。よし、連絡してみる」


マクスは瞑想したかの様に固まった。


私は態度の悪い偽スージー女史を無視して、弱り果てているスージー女史の様子を見るために近づいた。


「何か制約でも掛けられていたのかしら」


彼女の頭に手を乗せて、「制約を解除する」と声に出し、魔力を流す。


さて、効いているかは、しばらくすれば分かるだろう。


今のところ、魔力を使って出来ないことは無い。


逆を返せば、気を付けないとトンデモナイ事を引き起こせると言う事だ。


この捜査が終わったら、私もマクスみたいに制御ピアスを作ってもらおうかな。


ポンっ!ポン!


白い小さな毛玉と、少し大きな毛玉が宙から降って来た。


「ピピおかえりー!」


私が駆け寄ると、コレまた可愛い羊さんがこちらを見ている。


「こんにちは、キャロルよ。貴方が魔力を食べる羊さん?」


私が問い掛けると長いまつ毛をバサバサ動かして、羊は話し始めた。


「ちわー、おいを呼んだんわアンタね。ちょーど腹がへっとったとさ。あっ、おいはマックと申します」


「んん、マックさん?お名前はマックさん?」


「です。キャロルさん」


「マック、あの女の人の魔力は食べて良いです」


ピピが横から抜け目なく、マックに指示を出した。


「りょ!いただきます」


マックは偽スージー女史の前に行って、目に見えない何かをモグモグ食べ出した。


彼女は物凄く引き攣った顔で羊を睨んでいる。


「キャロル、父上には今分かっていることを伝えた。ハーデン子爵家に連なる家門は今日中に氷の刃が何とかするって、ジェシカさんがキレてるらしい」


「お母様、、、。私、今回の件でお母様の知らない顔を見過ぎている気がする」


「ブフッ」


マクスが吹き出した。


「仮面家族だったのかもね。我が家は」


「今からでも遅くないから、しっかり話せばいいと思うよ」


「そうね」


「あのう、この方はそろそろ目を覚ましそうです」


ピピが私達にスージー女史の様子を伝える。


うっかり、牢獄の中にいることを忘れそうになっていたわ。


「ピピ、ありがとう」


ピピに返事をしてから、すっかり放置していたマックの方を見る。


「ええええ!デカっ」


目に見えない何かを食べている羊は巨大化していた。


「ま、マック。お腹は大丈夫?」


トンチンカンな質問を投げかけてしまう私。


後ろでマクスが笑い出す。


マックはモシャモシャするのを一旦辞めて、こちらを向いた。


「いやー、久しぶりやけんね。沢山食べとくばい。もうこの人は魔法をしばらく使えんと思うよ」


なぬ!この短時間で?


マックは優秀な奴だった。


「キャロル、改めて、あいつにそろそろ取り掛かろうか」


マクスがケシ掛ける。


「うん、それじゃあ、そろそろ」


私は改めて、偽スージー女史の肩に手を伸ばした。


うん、今度は何のショックも無かった。


「私達の質問に必ず答えよ」


私は強めに魔力を注ぎ、手を離した。


「マクス、これで質問出来るわよ」


「了解。では、質問する。お前の名前を言え」


この瞬間も凶悪な睨みをこちらに投げかけている、偽スージー女史の口が開いた。


「私はスージー・ボルドーです」


「ここにいるもう1人の女との関係を説明しろ」


「彼女はスージー・ボルト。私のいとこであり、諜報活動のバディです」


「家族の事を話せ」


「私の父はランディ・ボルドーです。ソベルナ王国で商売をしています。しかし、本業はブカスト王国諜報機関砂漠のバラのトップです。母はハーデン子爵家長女のレイチェルです。私には弟が1人と妹が2人います」


最初は私達を睨みつけていた偽スージー女史の表情が徐々に絶望を帯び、蒼白になっていく。


マクスは全く動じてない。


私は聞いた事を、頭の中で整理していくのが難しくなって来た。


「ピピ、この話を記録する事は出来る?」


「キャロル、ご心配なく。既に記録しています」


ピピは胸の辺りから、黄色い石を取り出した。


使える相棒、最高!


「キャロルを誘拐する指示を出したのは誰だ」


「ブカスト王国第三王子のカルロ殿下です」


よし、この2人が共犯者だと言う事は言質が取れた。

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