第14話 酒場ロンド

 夜の営業が始まった酒場ロンドへフードを被った男2人が入って来た。


「ケイトって娘を探しているんだけど、知らないか?」


「あんた誰よ。ケイトに何の用だい?」


女将は彼らへの警戒心を剥き出しにする。


男の1人がフードを取った。


「王族警備隊のコルトーです。主に頼まれて、ケイトに話がある」


コルトーと名乗った男は、胸元からチェーンを引き出し、身分証明のタグを見せた。


「まぁ、変な奴じゃないってことね。分かったよ。話があるんだろう。2階へ上がりな」


女将はコルトーともう1人の男を2階へ案内した。



 ドアをノックして、あたしが部屋に入ると、そこには2人の男が立っていた。


「ケイトか?」


「ええ、そうよ。あなた方は何者?」


「俺は王族警備隊のコルトーで、コイツは部下のジェイだ」


「ああ、2人とも殿下の部下って事?キャロルさまは見つかったの?」


あたしは気になっていた事を質問した。


彼らは冴えない表情をする。


「話が長くなりそうなら、そこに座ったら?」


あたしはダイニングの椅子を指差す。


2人は椅子を引いて座った。


「ちょっと待って、お茶も淹れるわね」


手早く準備をして、あたしもテーブルについた。


「お茶をありがとう、ケイト。殿下から『恋人の丘』の対応を君と話してから決める様にと指示があった。詳しい話を聞かせてくれ」


コルトーが口火を切る。


「何故、私に!?あのいつもの経理の人は?」


「いや、あー、その」


「何よ。守秘義務でもあるの?」


「まぁ、そんなところだ」


「ブフッ」


ジェイが吹き出した。


「先輩、全然守秘になって無いっスよ」


「フッ、フフフ」


つられて、あたしも笑ってしまう。


「いや、済まない。普段こう言う業務に就いて無いから、難しいな」


コルトーは怒るわけでもなく、本当に困っている様子だった。


「あの殿下なら、怒らないわよ。全部ぶっちゃけてしまいなさいよ。あたし、職業柄、口は硬いから大丈夫よ」


目の前の男たちは2人でヒソヒソと何かを話し合っている。


ジェイが何かをコルトーに言って、コルトーが頷いた。


「まず、キャロライン嬢に男性の気配がある事は知っているか?」


コルトーの一言にジェイが、頭を抱える。


「先輩!!もう全然ダメっスよ。オレが話します」


目の前でコントを見せる2人にあたしは笑いが止まらない。


「ち、ちょっと、あんた達は大丈夫なの?話が全く進まないじゃない。どうせ、キャロルさまと殿下が恋仲だったとかそう言う話でしょ」


あたしの言葉で目の前の2人が固まる。


「それくらい知っているわよ。キャロルさま、指輪をしていたもの」


「そ、そうか、知っていたのか。それなら早い。ほら、続きはお前が話してくれ」


コルトーはジェイにバトンタッチした。


「ええっと、それでキャロライン嬢はまだ捜索中なんですけどぉ。あのスージー女史って奴が殿下に毒を盛ろうとして逮捕されたんですよ」


「はぁあ?毒を盛るですって!?何で?」


「それがサッパリわからないんスよ」


ジャンは両手をあげて戯けた素振りを見せる。


「それで、『恋人の丘』が分かる人が居なくなったってことね」


「あ、ケイトさん、めっちゃ察しがいいっス。殿下が、ケイトさんに聞いて休業か営業を続けるかを決めていいって言ってたっス」


「ふーん、あたしが決めていいんだ?」


「むしろ、決めてもらわないと自分達、困るんス」


ご領主さま達の大ピンチなわけね。


そりゃー、一肌脱ぐって人は沢山居そうだけど、、、。


「それなら、営業を続けましょう!その為には今までキャロルさまが描いていた『天使カード』を用意しないといけないわ。でも、あの絵は私が同じ物を持っているし、絵が上手な領民に書いて貰えば大丈夫よ」


「『天使カード』って、何すか?」


「そもそも『恋人の丘』を知らないのよね?『恋人の丘』は恋愛で悩む人の巡礼地として流行っている観光地でね。そこで恋愛成就ラッキーアイテムとして売っているのが『天使カード』なの」


「それ、何かご利益でもあるんスか?」


「まぁ、ご利益があるって言う人は多いけど、結局は気の持ちようじゃないかしら。でも、今後、殿下とキャロルさまの恋物語でも語ったら、盛り上がりそうよね」


「殿下の恋物語!?それ面白そうっス。ところで、ケイトさん、絵が描ける人はどうやって探します?」


ジェイに任せて、コルトーは横で頷いてばかりである。


「酒場に毎日来るお客様に絵描きさんが居るのよ。頼んでみるわ。今、居るかしら、、、?ちょっと見て来るわ」


あたしは2人を置いて、下に降りた。


いつもの定位置、窓の横の2人掛けにテリーは座っていた。


「あ!テリー!こんばんは。ちょっと頼みたい事があるのよ」


「ケイト、そんなに慌ててどうしたんだい」


私の勢いにテリーが驚いている。


「ちょっと、極秘なのよ。2階に付いて来てくれる?」


「えっ、何?僕なにか問題でも起こした!?」


極秘と言われて動揺し出すテリー。


そこへ女将が参戦した。


「どうしたんだい、テリー?」


「ああ、女将さん詳しい事は後で話すわ。ちょっと大きなミッションがあるのよ。テリー、お願い!!」


「何だかよく分からないけど、テリー、力を貸してやってくれないかい?」


女将がテリーに一押ししてくれた。


「分かったよ。2階に行けばいいんだね」


「そう、詳しい話をするから、一緒に来て」


テリーは怪しみながらも、あたしと一緒に2階の部屋に入った。


「え!?ええ?この方々は一体」


テリーは、王族警備隊の制服姿のコルトーとジェイを見て固まった。


2人はご丁寧にフード付コートを脱いで、そこに立っていた。


威圧感が半端ない。


「お二人ともお待たせ、この人が絵描きのテリーよ」


あたしはテリーを紹介した。


「テリー、俺は王族警備隊のコルトー、こいつはジェイだ。王太子殿下の命を受けてここに居る。貴殿の力を借りたい」


さっきのグダグダが嘘のようにキリッとしていた。


そんなに圧をかけたら、テリーが怯えそう。


「ちょっとコルトー!もう少し優しく言えないの?」


「自分もそう思うっス。先輩、男には厳しいっス」


ジェイがいいツッコミを入れた。


「テリーです。よく分かりませんが、僕に出来る事ならお手伝いします」


テリーの声は少し震えていた。


「テリー!ありがとう。座って!詳しい話をするわ」


その後、あたしはキャロル様が行方不明になっている話と『恋人の丘』の話をした。


テリーはキャロル様が描いていた『天使カード』の作成を快く引き受けてくれた。


あたしはキャロルさまがコースター裏に描いた天使の絵をテリーに預ける。


彼は『天使カード』を今まで通り、毎日30枚描いてくれると約束してくれた。


これで、明日から予定通り『恋人の丘』は営業する事が出来る。



 「ケイト、テリーありがとう。明日から宜しく頼む」

 

 コルトーが、あたし達に締めの話をしているところで、王族警備隊のモルトが駆け込んで来た。



 「ケイトたちー!もう1人お客さんだよー」


 女将の声が一階から聞こえる。


あたしは下まで迎えに行こうとドアを開けた。


すると目の前にガタイの良い男が立っていた。


「うわっ、ビックリした!」


思わず声が出た。


「すみません。王族警備隊のモルトです。急ぎの伝令が来ましたので、報告します」


あたしは彼を部屋の中に素早く入れた。


「モルト、この2人は事情を知っている。内容は?」


「はい、お伝えします。キャロライン嬢が王宮に戻られました!」


その一声に私達は歓喜を上げた!!


しかし、モルトがそれを止めた。


「待って下さい!もう一つあります」


「何だ、早く言ってみろ」


コルトーが痺れを切らす。


「マクシミリアン王太子殿下とキャロライン嬢の婚姻が成立しました。明日の朝にはご成婚のお知らせと今後のお披露目日程などが告知されます」


「は?嘘!?マジで!!」


あたしは混乱した。


さっきまで、この領地にいた殿下と行方不明のキャロルさまがどう言う事?


あたしが茫然としていたら、ジェイがこっそり教えてくれた。


「殿下とキャロライン嬢は魔法を使えるんっス。コレ、超極秘でよろしく!ケイトさん」


あー、成る程、それでキャロルさまはあたしを心配して、効果のある『天使カード』を描いてくれたのね。


ストンと理解した。


本当に良い人、キャロルさま。


あたしなんかに、、、。


胸の奥が熱くなる。


「絶対に口外しないから大丈夫よ」


あたしもこっそりとジェイに返事をした。


「ねぇ、そんなおめでたい話なら、明日からイベントでもしない!!もう少し打ち合わせしても良いかしら?」


あたしの提案にそこに居た全員が快く乗ってくれた。

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