第17話:花の紹介。気になる人ってなんだよ
瑠璃ちゃんからもらった質問。
その中には好きな食べ物はなにか、とか。好きな場所はどこか、とか。
やたら私のパーソナリティに関わる内容が書いてあった。まぁNGとかないし、Vtuberとしての私への質問という体なのでいいのだけども……。
問題はこの「最近気になっている人はいますか?」という質問だった。
「気になっている人」
気になっている人。
気になっている、人?
気になっている人、かぁ……。
「どう答えればいいの……」
NGはないとか言ったけどさぁ。私、私の気になっている人ってことはつまり、意中の相手が居るかって話でしょ?
瑠璃ちゃん、なんてことを聞いてくるんだ。アラサー驚いちゃったぞ。
そもそも意中の相手なんていないし。いたらVtuber活動なんてせずに、もっと別のことをしているだろうし。
なんというか。答えづらいんだよなぁ、この質問。
「瑠璃ちゃんが何を考えているかわからない……」
この質問の意図は? 果たして彼女の望む答えとは。そもそも望んでいるのか?
ある種の彼女なりに考えた配信を盛り上げる質問だったりするのだろうか。
そんな事ばかり考えてもおそらく何もならない。聞くのが一番なんだけど……。
「聞いて幻滅されたらどうしよう……」
今もある程度幻滅されてるんだけど(生活態度が)、質問の意味を聞いてしまえば最後「えー、そんなことも分からないんですか? はぁ、これだから歳を食ったアラサーは……」とか言われるに違いない。
そんな日には多分そのまま引きこもってしまうこと間違いないだろう。
自分で考えて、答えをなんとか見つけ出す。見つけ出して、こう、穏便に事を収める!
百合営業とは言えども、相手は女子高生。犯罪沙汰にはなりたくない!
「無難に考えて気になる人といえば、瑠璃ちゃん。雨犬しずくちゃんって言うべきだよね」
理由というのも簡単だ。
デビューしたての新人Vtuberで、コンビ相手の可愛い子。
うん、これで十分すぎる。十分すぎて、もうこれで理由はいいんじゃないかと考えてしまうよね。
まぁこれなら、瑠璃ちゃんも満足行く答えになるでしょう。
じゃあ次に行こうかな。
「好きな食べ物。……コンビニスイーツ。ロソーンのあんことクリームのどらやきとか、かなり安心する味でとても美味しいよ、と」
それから好きな場所。家。
じゃなくて、お花の素敵な広場、っと。
「なんか、あまりにも普通すぎる。もうちょっとボケた方がいいかな?」
映えはVtuberとして気にするところはある。
だから好きなことと言っても、一段か二段階ぐらいボリュームを上げて答えた方がいいとは思う。思うんだけど、私は私をあまり偽りたくない。
ありのままを好かれたいなんて思わないけれど、私はこれでも元アイドル見習いだ。自分のことを好いて欲しい気持ちはある。
「だからパートナーが欲しいってのは、あるんだろうなぁ」
結婚願望は、正直ある。
天涯孤独の身になったからこそ、この部屋の静かさがかえって煩わしかったりする。
1人で住むには大きすぎる家。1人で過ごすには、静かすぎる広さ。
だから瑠璃ちゃんと再会できてよかったんだ。夕飯だけでも作りに来てくれて、無理やりだけどVtuberになってくれて、私は嬉しかった。
案外寂しがり屋なのかもしれない。
そりゃそうか。だってパートナーが欲しい、だなんてワガママを言うぐらいだもん。
出会いがあるかって言われたら、ないんだけどさ。
「んん~……はぁ! さて、仕事の残りを片付けて、ちゃっちゃか寝ちゃうか」
そうだ。こういう気持ちになった時は、気分を切り替えて仕事を終わらせるに限る。
仕事をするのは嫌だけど、気分転換でするにはちょうどいいから。
それで寝る! 余計なことは考えない。それが健康の秘訣なんだから!
「よし、頑張るぞ!」
仕事用のパソコンを開いてから、黙々とキーボードを打つ。
コラボ配信は明日。準備もできたし、明日は気軽に頑張るかー。
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