第28話:雨の努力。愚痴りたくなるときもある
「はぁ……」
「なに、そんなにため息ついて。幸せが逃げちゃうよ?」
「誰のせいだと思ってるの、綴」
奈苗お姉さんを紹介した日の翌日。
わたしは普通に学校へと行っていた。不登校する理由も特にないし。
でも心の中では整理の付かない困惑で、正直サボりたくてたまらなかった。
奈苗お姉さんとの恋人デート。
本人は否定していたけれど、デートなことには変わりないんだ。
なんか、ソワソワする。わたしの気になっている人とデートするんだって、何回も頭の中で反すうしても慣れない文字列。
クラクラしてしまいそうなほど、甘い匂いを漂わせた言葉はなかなか頭の中に定着してくれなかった。
「いやだなぁ、ボクはちょっとお手伝いしてあげただけだから」
「よく言うよ。面白そうな方向にカジを切っただけでしょ?」
「そうとも言う。でも目的はもう1つあったり」
綴は人差し指を唇に乗せてニヤリと笑う。
何か企んでている顔だ。こういう時の綴は大体底意地が悪い。
彼女とは中学からの付き合いだけど、未だにこういうことは慣れていなかったりする。
だって、企んでいるときは大体わたしが絡んでいる時が多いから。
そういう意味では、彼女とは悪友に近いのかもしれない。
でも同時に彼女のおかげで学校の男子生徒たちはわたしに近づいてこない。
周りは綴のことをよく分からなかったり、怖いという印象を受け取る。
当然か。鋭い瞳が何よりも物語っている。あの目で睨まれたら、まるで石のように固まってしまう子ばかりだ。
だから助かってはいる。いるんだけど、割とわたしをおもちゃ扱いしているのが許せない。
「どうせ瑠璃だけじゃ奈苗お姉さんを落とすだなんて、100年経ってもできないと思ってね!」
「……む。それ、どういうこと?」
「なんでだと思う?」
ニヤニヤと首をかわいこぶるように傾けながらそう口にする。
理由なんて、流石のわたしにも分かっている。
奈苗お姉さんは、思った以上に手強い。
わたしのことを未だに妹のように扱ってくるし、逆に腫れ物みたいに丁寧にラインを超えないように振る舞っている。
それに鈍感だ。わたしが配信内で既成事実を伝えいようとしても、ことごとく横にそらして雨犬しずくをそういうキャラとして定着させている。
鈍感を振る舞っている、ようにも見えるが、そもそもわたしが彼女のことを……。その。えっと……。
まぁともかく。気になっている素振りに気づいていないようにも見えた。
それが奈苗お姉さんの攻略に難航している点。そのイチ。
そのニは言わずもがな。
「わたしに経験がないから?」
「そのとーり! 瑠璃は男の人が怖いから~って理由で今まで恋人なんていた試しはない。自分から行くこともしないから、当然経験もない。だから強引にでも瑠璃の存在を奈苗お姉さんに意識させに行った方が良いんだよ」
「でも。迷惑にならないかな……」
そもそも、す……きか分からないというか。
一種の憧れみたいな目で見てるから、わたしも恋人がどうこうとか、考えたことがなかったんだ。
より仲良く。より楽しく。それでやれればよくて。
でも同時にお姉さんが他の人と仲良くしているところを想像したら、少しどころじゃなく嫉妬するかもしれない。
わたしは心配される側なのに、お姉さんの友だちさんは彼女を笑わせてあげられるんだ、って。
だから今回、綴を紹介するのも、本当はしたくなかった。でも技術には代えられないから。
「瑠璃はさぁ。もっと自分に自信持っていいと思うよ?」
「別に、持つ持たないとかの話じゃないっていうか」
「じゃあ奈苗お姉さんのこと、好きじゃないの?」
「いや、それは! ……それは」
心の中で自問自答する。
「どうすればいいか、分からないんでしょ?」
「……よく分かってるね、わたしのこと」
「まぁね。大方、これが恋なのかも分からない、みたいなもんでしょ」
当たりだ。結局は恋に憧れている小娘の話。
気になっている人なのは間違いない。だけど、好きなのか、慕っているのか。その疑問が頭の中から解決に直結しないんだ。
この感情の正体が、いったいなんなのか。いくら自問自答しても……。
「分からないよ、うん」
「まっ! ボクもしたことはないんだけどねー」
「そんなんでいいのかシチュボ作家」
「ボクはそれっぽく書いて、あとは文学ロマンを付け加えて芸術にするだけだから!」
無責任な……。まぁでも。問題の洗い直しはできた。
なんとなくだけど、綴が恋人デート、という形で問題の解決を手伝ってくれているのは分かった。
面白半分だろうけど。
「でも、わたしそんなにデートスポットとか知らないよ?」
「ごめん。それは瑠璃が調べて」
「綴ぃ~!」
「あはは、ごめんごめん!!」
次の土曜日がデート日だ。
だからそれまでになんとかいい感じのデートスポットを探さないと!
でもわたしのお小遣い的にギリギリだから、もうちょっとランクダウンして。えーっと……っ!
うん、難しい! 明日に放り投げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます