第27話:花の努力。強制恋人デート会議
一通り読んだ。とても真横に。スーッと滑り落ちていくように。
まるで平坦な……。少女の夢を抱いている胸のようにただただ平坦だった。
「これは……」
「ね。酷いでしょ?」
「ひどっ?!」
いや、もうわかってるよ。
私には演技の才能はない。才能がないなら、それを無理して表に出す必要はない。
やるとしても罰ゲームぐらいの留めておいて、ネタとして消化してもらった方が、まだ幾分かマシだ……。
「感情はこもってるんだけど、緊張しすぎて強張っているというか……。お姉さん、なんで緊張してるんですか?」
「恥ずかしいからに決まってるでしょ! 大の大人を未成年2人がかりで襲うとか……。アラサー狩りだよ!」
「そこまでは言ってないですけど……」
「でも筋はいいと思うんですよね。ちゃんと感情らしきものはこもってるし」
「確かに。それがあまりの緊張で塞がっている感じだね。水道管に物が詰まったイメージ」
「そそ! 声質もいいですし、やっぱりお姉さんにはリラックスが重要なんですよ!」
なんか勝手に話が進んでいるみたいだ。
私には緊張してるからこうなっているとか、水道管に詰まった髪の毛みたいな声質みたいにも聞こえたけど、おそらく気のせいだろう。
でもそうか。緊張か。確かにあの時も緊張はしていた。しかも極度の。
リラックス状態とは程遠い体調だった。あの後ショックで2,3日ぐらい寝込んだのも覚えている。
「つまり演技する前に、緊張を無くす?」
「そうだねぇ……」
「綴ちゃんには何か策があるみたいだけど、何を考えているの?」
「聞きたいですか、お姉さん?」
綴ちゃんの口元が鋭く歪んだ。
まるでその言葉を待っていたんだ、と言わんばかりのわるーいことを考えている不気味な笑みだ。
こういう時に限って、大抵は本人の思ったように事が進む。恐らく綴ちゃんに関しても同じだろう。
ただ、このまま終わらせることはできない。泥船に乗ったら、あとは滝の底までレッツゴーだ。
「い、一応聞いてあげる……」
「ボクはね、瑠璃が奈苗さんとデートしてあげればいいと思うんだ」
「へ?!」「なっ!?」
2人の驚きの声が同時に重なる。
な、なんでそこでデートの打診が始まるんですか!?
いやまぁ、瑠璃ちゃんがデートしたい、という話はよく聞いていたけれど、そんな形で叶えなくても。
それに……。
「そ、そんなことであがり症が治るとは思えないんだけど……」
「そ、そうだよ! 私のあがり症は今に始まった話じゃないし!」
よくこんなのでアイドルになろうと思ったな、私。
今のVtuber生活だって、最初の方なんて見たくもないし。
ようやく慣れてきたから、瑠璃ちゃんに先輩面できるだけなんだよ、本当は!
「誰がただのデートだって言った?」
「え?」
なんだろう。ものすごく、ものすごーく嫌な予感しかしない。
もしかして、今日は塵にでもなるのか?
「1日中恋人のように演技するデートです!」
「こい、びと……?」
いや。いやいやいやいやっ!
なんでJKの幼馴染と恋人のように振る舞わないといけないの?!
一周回って犯罪ムーブだよ! 回らなくたってそのまま犯罪犯罪!
どうしよう。姉妹とかでなんとかなるか? 女という立場をなんとか、何とかして……っ!
「あ……ぅ……」
「ほ、ほら! 瑠璃ちゃんだって固まってるみたいだし、そんな無茶なことは……」
「大丈夫でしょ、瑠璃。キミは、やれる!」
「わたしはやれる……」
「そう! 瑠璃はやれる子!」
「わたしはやれる子……!」
あれ、なんか突然洗脳始まった?
「瑠璃ならできる!」
「わたしはやれる!」
「瑠璃は?!」
「やります!!」
リビングに私の知らない瑠璃ちゃんの皮をかぶった何かが立っていた。実際怖い。
じゃなくて。どうやら瑠璃ちゃんは恋人デートをやる気満々らしい。
え。本気でやるの? でも迷惑かけそうな瑠璃ちゃんがこんなにもみなぎっている。溢れんばかりのやる気の奔流。これは断り切れない気がする……っ!
「お姉さん、わたしと恋人デートしてください!」
「分かった! 分かったからとりあえず恋人っていうの外そうね! うん外そう!」
「分かりました!!!」
分かってくれたようで何よりだ。
恥ずかしいものは、恥ずかしいからさ。
それから日付を決めて、各々が準備をしようという話でまとまった。
瑠璃ちゃんは終始張り切っていたが、空回りしなければいいな、程度に考えている。
あとは綴ちゃんがシチュエーションボイスの台本を書いてくるらしい。
物書き出来る人かぁ、うらやましいなぁ。
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