第26話:花の努力。乱入と綴ってみる

「どーも、天野 綴です」

「こ、こんにちは……」


 数日後。瑠璃ちゃんが呼び出した女の子は同じ制服を来た学生さん。

 名前を天野綴というそうだ。


 ガッツリ文系の名前と言い、顔立ちと言い……。うん、完全にオタクっぽい人だ。

 でも普通に美人さんだ。どちらかと言えばクール系。目元も鋭く、全体的に鋭利という印象を受け取った。

 なるほど。この子なら瑠璃ちゃんと友だちというのも頷ける。主に外見的な意味合いで。

 学校というスクールカーストの中で瑠璃ちゃんがどう生きているかと思って心配していたけど、彼女が守ってくれていたのかもしれない。


「お話には伺っています。なるほど、瑠璃が褒めまくるわけだ」

「そ、そうなんですか?」

「今そういう話はしないでよ、綴!」

「ふふっ、ごめんごめん!」


 彼女がいったい何の話をしていたのかは疑問だが、裏でも私のことを褒めてくれていたらしい。

 嬉しい。どういう褒め方をしたらこういう扱いになるかはさておきとして。


「とりあえず本題に移りたいんだけど、その、シチュエーションボイスの話って聞いてるの?」

「とても。瑠璃がたくさん悩ませていたのを覚えていますよ」

「むぅ……」


 とてつもなく瑠璃ちゃんが不服そうな顔をしているけれど、これはスルーしてもいいかな。


「ぶっちゃけて言うと、ボクもそれほど詳しくないけど……。瑠璃が小説が詳しいなら演技も問題ないだろう、って」

「うわ……」

「うわってなんですか! というか綴も恥ずかしい情報出さないで!」


 なるほど。綴ちゃんは瑠璃ちゃんを翻弄する側か。なんとなく安心してしまった。

 力関係はこうやって三すくみになるのかもしれない! よしいいぞ。もっと照れさせちゃえ!


「適当には答えましたけど、読んでる人って基本頭の中で文章を朗読してません?」

「あー、一理あるね」

「え、何そのっ?! 文字は文字じゃないの?」


 え、何その……。私だけ独りぼっちみたいな眼差しは!

 やめて、そんな目で見ないで! 可哀想なものを見る目で、見ないでください!


「まぁ、その辺は人それぞれだからいいとして。シチュエーションボイスの台本も多分書けるだろうから呼ばれたって感じです」

「本当は呼びたくなかったけど」

「失礼だなぁ、瑠璃は」

「実際はお姉さんに会いたいってうるさかったから……」


 え、そうなの。

 私そんなに年下からモテモテなの?

 いやいや、何も手を出すことはないし、そもそもこんな状況誰かに見られたら通報されるかもだし。

 お姉さんは、いつだってヒヤヒヤして生きているんだよ。


「うんうん、なるほどって感じだよ、ボクは」

「綴は何が言いたいの?」

「ううん、なんでも」


 瑠璃ちゃんは綴ちゃんに一言あるっぽいけど、無視したっぽい。

 というか、何この。なに? なんかギクシャクしたというか、空気感がまっずい!


「ただ、これが瑠璃が言ってたお姉さんかぁ、って」

「やっぱりそう言いたいんだ」

「ちなみに、私のことはどんな感じに言ってるの?」


 やっぱり、ちょっとは気になるよね。

 私も存外承認欲求の塊みたいなところはあるし。

 でないとVtuberはやってないんだよ、うんうん。


「ボクからはなんとも」

「えー」

「でも好印象だと思いますよ、瑠璃からは」

「ちょっと!」


 好印象。好印象なんだ。ふーん……。

 まぁ。まぁそう言われたらこんなギクシャク空気感も許せるかもしれない。

 ただ、そのまま放りっぱなしで続けようというのは、あまり望まれたことではないけれど。


「さてまぁ。コーチングするにしても、最初はどんな感じなのか聞いてみたいんですよね。何だったら今からやりますか?」

「え?!」

「あ、わたしも今の実力とか見てみたいです!」


 ……勘弁して欲しい。今の演技の実力とか、ホントに今も昔も対して変わらないし。

 だから。こう……。本当にやめてください。そんな期待の目で、こっちを見ないで!


「さぁ!」

「お願いします!」

「うぅ……」


 JK2人の期待の眼差し。こんなの、アラサーが受け止めきれる範囲を超えている。

 はぁ。すごい大きなため息とともに、昔使ったことのある台本を探し出してから、向き合う。


「……ホントに、期待しないでね」

「大丈夫です! 笑ったりしませんから!」

「ボクは、自信ない」


 そこは自信があってほしかったなー!


 脳の空気を入れ替えるように、私は深呼吸する。

 そして、シチュエーションボイスのテスト読みが始まった。

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