第4話:雨の期待。10年前の幼馴染

 嘘かと思った。夢だと思った。

 でも、全然まったく、幻なんかじゃなかった。


 あの日、あの時見た顔を。もう一度見れるなんて思わなかったから。


 ◇


フワワー・フワリー @fwwfwr_Vtuber

お引越し終わりました!

なんと幼馴染と再会して、お夕飯までごちそうしてくれました!

美味しかったなぁ……!


 ◇


「……これ、やっぱりわたしのことだったんだ」


 これはただのつぶやきで、自分のことをただ報告するだけの他愛無いものだった。

 けれど、つぶやいた時期も、お夕飯をごちそうしたタイミングも。

 それから、幼馴染と再会したことも。すべてが辻褄が合ってしまって、すごく驚いた。


 最近追っている個人のVtuberさん。名前はフワワー・フワリーさん。

 可愛らしいお花の精霊Vtuberで、昔聞いていたあの人の、奈苗お姉さんの声に似ていた人。


 なんだか奈苗お姉さんの声に似てるなー、なんて思いながら追ってたら、まさかの本物。

 ありえなくもない話だ。アイドルや声優が売れなくて、Vtuberに転生する例は聞いたことがある。

 ありえなくもない。そう、ありえなくもないんだけど……。


「それが奈苗お姉さん本人だったなんて、思わないよ……」


 可愛いって言ってくれた。髪を褒めてくれた。アイドルができるだなんて、お世辞まで。

 本人が見てないと思い込んでいろんなことを適当に言っていたに違いないけれど、わたしのことをそんなに褒めてくれるなんて……。


 流石に料理を作ってからは、風の速さで家に帰宅したけれど、恥ずかしさの熱は数時間経った今でも冷めることを知らなかった。

 実際にわたしがお姉さんのことをどう思っているかはさておきとして、憧れの人にそこまでのことを言われるなんて思ってなかったんだ。そりゃ浮かれるに決まってる。


 すぅ……はぁ……。1つ深呼吸をする。収まらない。これが胸の高鳴りなのだろうか?


 でもこれからどうしよう。どんな顔で彼女の前に立てばいいのだろうか。

 はっきり言って何も分からない。こんなことが原因で絶縁なんてしたくないし、距離を取られたらもっと嫌だ。

 お姉さんの冷蔵庫を覗き見したところ、幸い? なことに料理をするタイプではないと見受けられた。

 だから、こう……。お姉さんの家に、こう……。えーっと……。ご飯を作りに来ました的なのは……。ないかな、流石に。

 いつの通い妻なんだろう。それに余り物ができちゃっての展開は隣の家だから成立するのであって、家から数分の年上お姉さんでは成立しない気がする。


 あー、でもでも。Vtuberって身体に悪い事してる人が多いというのが現状だ。

 冷蔵庫の中にもエナジードリンクとビールがいくつかあったし。

 そーれを加味して。えーっと……。あー……。はぁ……。


「わたし、何考えてるんだろう」


 何かを期待しているんだろうか。

 何かを待っているんだろうか。お姉さんに? 何を。

 考えても。考えても。いくら考えても過ぎ去るのは時計の針と寝る時間だけ。

 やっぱりもう寝た方がいい。明日も学校だし。何かあったらきっとお姉さんの方から連絡してくるはずだ。


「よし、寝よう」


 掛け布団をバサリと体にかける。

 ……うーん。でも、ちょっとだけさっきの配信聞いていたいかも。

 慌てて、配信の中身なんて聞いてなかったし。ね、しょうがないしょうがない。

 夜更かしは若者の特権とも言うし、ちょっとの寝不足だって問題ないはずだ。

 だから……。


「……うへひひ」


 あー、ダメだ。お姉さんの声聞いてたら、眠れなくなってきちゃう、かも。

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