第5話:花の復帰。悪魔的発想

「……そうはならんでしょ」


 流石の私も頭を抱えた。

 今更だが、フワワー・フワリーとは私が考えたVtuberネームだ。

 略称ふわふわさん、フワネキ、なんてのがあるけどそれは置いておく。


 問題なのは今のこのエゴサしたつぶやいたーのつぶやきだった。


『フワネキ、彼氏おるんか?』

『おるわけないやろ。あのふわふわさんだぞ』

『まぁそうか』


「まぁそうかじゃないよ! 私にだって、私にだって……っ! うぅ……」


 正直泣きたかった。アラサーじゃなかったらギャンギャン泣いていただろう。

 否。30歳を超えていたら涙腺が壊れて泣いていたと思う。

 私だって彼氏ぐらい欲しかったよ。


 でも私には実際元カレという概念すら存在しない。

 アイドルを志していた頃は大体高校生ぐらいの時期。つまりは青春真っ只中の時期だ。

 そんな時に私は基礎体力づくりやら歌唱力の特訓やら。独学にせよいろいろと忙しかった時期だ。

 都会に上京したての時は人間関係もまっさらに消えており、仕事を始めたときにはもう手遅れ。さらにリモートワークだからそんな出会いがあるかどうかすらわからない。


 まぁ、タイミングが悪かった。とにかく悪かった。そう言い訳するしかない。

 彼氏じゃなくても、パートナーに恵まれればどれほど良かっただろうか。

 現実には天涯孤独となってしまった今になってしまえば、1人がどれだけ寂しいかはよく理解できてしまっていた。


 その追い打ちをかけるようにこれだった。正直泣きたかった。


「パートナーか……」


 エゴサしていたスマホを机の上において、ベッドに横になる。

 いたらどれだけ良かっただろうか。嬉しかっただろうか。

 1人の孤独を他人と分かち合うことができたら。

 そう考えるだけで周囲の静けさがより鋭くなった感じがして、嫌だった。


「やっぱコラボした方がいいよねぇ」


 前から考えていたことはある。

 デビューしておよそ半年。その間コラボは数回しかない。

 ソロ活動で少しでも数を稼ぎたかったのは本当だし、他人とのいざこざをつぶやきで見るたび、面倒だなぁ、という気持ちで手が伸びなかった。


 そのコラボも多人数コラボで、私が端数で呼ばれた程度の話。

 あまり親しいVtuberがいたかというと、そうでもないから出会いとかそういうのもなかったりする。


 けれどそういうコンビで登録者が伸びた、というケースも多い。

 知っているVtuberだと、ギャル系Vtuberと付き合い始めてから爆発的に登録者が伸びたイラストレーターがいたという噂すらある。

 コンビ配信、パートナー配信も悪くないといえば悪くない。のだが……。


「問題は誰がいるの、って話だよね」


 苦難は増える。私のママ、もといイラストレーターに頼む手はあるが、にか先生は忙しい身だ。これ以上負担をかけて体を壊したくはない。

 他のVtuberをツテで探すとしても、知り合いはそこまで多くない。

 ましてやコンビ営業に付き合ってくれる人を私は知らない。仲良くなるにも時間が掛かるし、破綻すれば無駄になる。はぁ……。


「絶望的すぎる。どうすれば……」


 手持ち無沙汰になり、再度スマホを触りだす。つぶやいたー廃人の悪い癖だ。

 とはいえ、今は情報を仕入れておきたかった。何かないかと。そんな雲をつかむような話を。


『で、あの怪奇現象はなんだったん?』

『花の精霊さんなんじゃないの?』

『ポルターガイストまで起こす精霊怖いな』


「そこまで来たらもう幽霊じゃん」


 リスナーたちは何かとネタがあれば会話する。

 もちろん本人たちも分かっているだろうから、あえて踏み込まずにはいるんだろうけど……。


「……ん?」


 パートナー。急な訪問。そしてVtuberについても詳しい。

 待って、何か繋がりそう……。


「花の精霊。ポルターガイスト。それから、えっと……」


 Vtuberに詳しい。私を補足している。パートナー。

 この際、彼氏でも彼女でも構わない。なら巷でよく聞く百合営業なら……。

 私と親しくて、Vtuberをしていることを知っていて、なおかつ……。


「なおかつある程度の信頼に置ける女の子……」


 あらゆる線が1つの点に集中する。

 本日の配信時の急は訪問。あれが何らかの起因に関係するものだとしたら。

 私が配信でかわいいと言ったことで、ポルターガイストを引き起こし。もとい反応してしまうぐらい私の配信を見ていて、Vtuberをやっていることを知っている。

 10年の月日はあるものの、ある程度信頼に置ける女の子。手垢のついていないVtuber……。


「……ふふふ。私、今最低な事考えてないか?」


 信頼に置ける人がいないなら作ればいい。

 今からVtuberをデビューさせればいい。


 私プロデュースで、最高にかわいいVtuberを。


「瑠璃ちゃんを、Vtuberにする」


 あまりにも自分の考えていることが恐ろしい。

 でも瑠璃ちゃんにその気があるなら、もしかしたら……っ!


「やるか、私っ!」


 即断即決。あまりにも欲望まみれの打算まみれだが構わない。

 私はロインでぱぱっとメッセージを入力し、瑠璃ちゃんに送信した。


『ちょっと話があるんだけど、空いてる日とかある?』

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