第3話:花の復帰。無事、身バレしました

 何故?! 何故この配信しているタイミングで瑠璃ちゃんが?!

 今から配信をやめてこっちの対応を……。

 いや、流石に配信を始めて数分で、しかも復帰配信ですぐやめますってできないでしょ!


 どうするどうする。とりあえず、か、会話しよう。


「ど、どうしたの? こんな時間に……」

「…………っ」


 ダメだ、会話にならない。向こうは何やら顔が真っ赤でそれどころじゃないみたいだし、いったいどういうことなんだろうか?

 と、とりあえず家に上げて、1階の方で黙って待ってもらうしか……。


「と、とりあえず上がる?」

「……っ」


 コクリと頷いたのでOKらしい。

 気まず。なんで配信中に人を家にあげなきゃいけないんだ。

 表面上は平常心を保っているけれど、内心ドキバク爆弾解体作業中だ。


 急いで冷蔵庫の中を漁って麦茶を取り出し、そっと置く。

 ま、まずはゆっくり、ゆっくりね。事情は知らないけど、落ち着く必要がある。

 私も一刻も早く配信に戻らなくちゃいけないし。


「あー、えっと。私は仕事の会議があるから! 1時間ぐらいここで待っててくれると嬉しいなぁ! テレビも付けていいから! あ、でもあんまり大きな音は出さないでね!」

「は、はい……」

「あはは……、じゃ、また1時間後にね。あはは……」


 リビングへの扉をゆっくり閉めてから、いそいそと階段を上がる。

 焦ったぁ……。何かと思ったら自分が妹扱いしている女の子で、配信のタイミング(ここ超重要)で訪ねてくるだなんて、本当に。本当に考えてなかった。

 これが地元。舐めてたら、殺される。社会的に。


 ◇


「お、おまたせ~! あはは、突然私の知り合いが訪ねてきてね? お花いっぱいもらっちゃいました~!」


:おかえり

:割と長かったな

:リア凸ほんま怖い

:ふわふわさんの知り合い情緒激しいな


「ま、まぁ~! なんとかなったから! とりあえず雑談の続きだねぇ」


 ふぅ、とりあえずなんとかなったかはさておきとして。

 1階に瑠璃ちゃんがいるんだ。声はできるだけ上げないようにしないと。


「そう、さっき言ってた幼馴染の子の話ね! さっきも言ったけど知らない間に美少女になってて、可愛くなっちゃってさぁ……」

『ぴょい?!』


:ん?

:なんかいま声した?


「あ、あはは~、なんだろうねぇ~! お花の精霊さんかな~?」


 今のは下からちゃんと声が聞こえた。

 静かにしてって言ってなったっけ?!

 もしかして私の配信見てる? いやそんなまさか。防音対策も万全だ。音が漏れたなんてこともありえない。


 ……ちょっとリスキーだけど、もう1回試してみようかな。


「そうそう、清楚でキレイな髪色でねぇ。これぞ大和撫子! みたいな見た目になってて……」


:あぁ~いいっすねぇ~

:尊い

:最高か?


『うぐぅ~ん!!』


:また声?

:喘いでません?!

:はいはいお花の精霊さん


 間違いない。

 瑠璃ちゃん、どうやったかは知らないけど私に配信見てるーーーーー!!!

 嘘でしょ。本気?! マジってやつですよね?! はぁ……。

 い、今だけは穏便に終わらせよう。幼馴染の話もこれっきりにして、あとは……未来の私に託す。


「あ、そうだ。大和撫子といえば引っ越しまでの間、暇でアニメを見てたんだけどぉ」


 普段のリスナーは理解があるからいいけど……。

 これ、あとでエゴサするの辛いなぁ。きっと何も書かれてないんだろうけど、不可解な音は切り抜かれるんじゃないかな。あー、どうしよう……。


 ◇


 そうして配信は終わったんだけども……。

 はぁ……。重い。頭が重すぎる……。

 リビングの扉をこっそり開けてみる。瑠璃ちゃんがお行儀よく両手を膝の上に置いて座っていた。


 ガチャンと閉めて、ただ黙って歩く。

 そして静かに瑠璃ちゃんの隣に座って、それから一言。目は合わせない。


「見た?」

「…………」


 彼女は目をそらした。


「見たよねぇ!?」

「見てないです! 見てないです!! なんにも、お花の精霊さんなんて見てないです!!」

「バッチリ見てるよ!!!!」


 リビングは防音対策してないから、もう近所の人にはなんのことやらとはてなマークを浮かべていることだろう。

 しかし、しかしだ。よりにもよって妹分の瑠璃ちゃんに、あのっ! 話題に出してた! 大和撫子に聞かれてしまうだなんてっ!


「はぁ……」


 年相応のため息が出てしまった。

 キャッキャはしゃいでるアラサーの様子を、瑠璃ちゃんには見せたくなかったなぁ……。


「あの……」

「ん?」


 目をそらしていた瑠璃ちゃんが静かにこっちを向く。

 もしかして絶縁宣言か?! そうだよね、こんな恥の塊みたいなおばさんのことなんて忘れるに限る。

 地元でも1人は、ちょっと辛いなぁ……。


 などと考えていたが、返答はだいぶ違ったものだった。


「わたし、可愛いですか?」

「え?」

「あっ! いえ、すみません……」


 予想していた答えとはだいぶ違う。

 てっきりドン引きされたものだと思ってたけど、そっか。よかったぁ……。


「ううん、瑠璃ちゃんはかわいいよ」

「へっ?!」

「アラサーからしたらJKはみんなかわいいよ、若々しくて眩しい!」

「あ。あぁ……」

「でも瑠璃ちゃんは特別かわいいんじゃないかなぁ。髪もキレイだし、見た目だって整ってるし」

「っ!!!」


 料理もできるし、多分家事全般はできそうだよね。

 羨ましい。私が嫁にほしいよ。あー、流石に女子高生をお嫁にほしいっていうのはアラサー的にもアウトかな?

 でもそれぐらい魅力的なのはわかってほしいよ、ホント。


「ぅ~……」

「あれ、顔真っ赤だけど大丈夫?」

「~……っ! キッチン、お借りしていいですか?! ご飯作るので!!」

「あ、うん……」


 その後の会話はなんというか……。取り留めもなかったというか。

 会話にならなかったというか。瑠璃ちゃんの声色がとにかくうわの空だった。

 そんなに嬉しかったのかな? 意外と瑠璃ちゃんでも気にするんだなぁ。


 ……でも、Vtuberの件。どうしよう。

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