第8話:雨の勧誘。創作っていうんですよね、これ
「モチーフ。モチーフってなんだろう……」
試しにwikiで検索をかけてみた。
「『その芸術表現をする動機である着想』と言われても……」
この17年の人生の中で芸術表現なるものをわたしはしたことがない。
学校の授業を加味してもいいのであれば、それはカウントしていいけど、それは自発的じゃない。
自分が1から作り出す。そんなことどうやって考えればいいんだか。
「はぁ……奈苗お姉さんが言うには自分の性癖をぶつければいいって……」
自分の好きなものを詰めればいい。そんなの簡単に言っても漠然と思いつくのは奈苗お姉さんなわけで……。
いやいや、さすがにそういうことではないはず!
もっとこう、部位の話をしているんだ、髪の色とか言ってたし。
「いや、でもモチーフが最初だよね……」
漠然としたモチーフ。自分が魂を宿すアバターの外見。やっぱりいまいちピンとこない。
◇
「そんな感じで今悩んでて……」
「はえー、瑠璃もVtuberデビューかー! あれでしょ! ハチジクジの石ノ川魚みたいな!」
「あそこまで有名ではないけどね……」
翌日、学校でわたしの友だちであり、創作オタクでもある
わたしの知らないところでWeb小説を上げていたり、二次創作SSなどを書いているらしい。ちなみに見せてほしいといったところ、絶対に嫌だということ。得てしてみんなそういうことを隠したがるよね。
「じゃあどの辺の?」
「個人Vtuberだから、
「あー。でも個人Vtuberって売れるの?」
「そこまでは考えてないっていうか、お姉さんに連れられてって感じだから」
わたしに主体性はない。
憧れのお姉さんがアイドルを目指していたから、その道を見てるけど、その彼女がVtuberになってみないか? と聞かれたから従ってるだけ。
良く思われたいっていう気持ちがあるのかもしれない。人間、気になっている人にはそんなもんだと思う。さらに言えば10年ぶりに帰ってきたのであればなおのこと。
「噂の奈苗お姉さんねー。今度遊びに行ってもいいかな?!」
「ダメ」
「なんで?」
「なんか、やだから」
「うぼぁ!」
綴が何故か大げさにダメージを受けたかのように体を仰け反らせた。
え、何してるのこの子。
「いやはや、逸材は近くに存在するものですなー! むっふん」
「綴ってたまによく分からないことするよね」
「よく分からないなら、嫌われてなくてよかったですぞ!」
途中から謎のですぞ口調になってたけど、まぁよく分からないままで済むのでいいかという気持ち。
周りの子はたまに綴のことを気持ち悪いだのなんだの言うが、わたしからして見れば不思議な子という印象以外よく分からない。よく分からないから嫌う、ということはない。
それに彼女と話しているのは楽しいから、それでいいじゃないか。
「んで、そのモチーフねー。瑠璃はどんな自分になりたいの?」
「どんな自分。それがないから困っているというか……」
「じゃ、じゃあ好きなものとか!」
「……犬とか甘いものとか」
「ありきたりー」
悪かったですね、ありきたりで。
でもあまり考えたことがなかった。意外と自分はぼんやり生きているのかもしれない。
人がどうとか、わたしがどうとか、あまり考えたことはない。
でもここ数日、奈苗お姉さんが帰ってきて、うきうきしてるのは間違いない。昔の自分が帰ってきたみたいで、少し心が温まったのを覚えている。
「あー。でも雨の日とかも好きかも? 何も考えず傘を差せばいいし、音も少し涼しいし」
「瑠璃もたいがい変な人だよね。じゃあ雨と犬。この辺りをモチーフに考えればいいよ! 例えば犬耳とか」
「えっ……! ピン立ち? それともたれ耳?」
「それはもう瑠璃の好きなように」
なるほど、そうなるんだ。モチーフが決まれば、モチーフから逸れないようにアイディアを練ればいい。
犬なら尻尾と耳。それから犬歯もいいかも。雨がモチーフならさらにカッパとか水をモチーフに……。
「おぉ、なんか世界が広がる感じがする」
「でしょ? これが創作のキですわよ!」
「キ?」
「キホンのキ」
「ほぉ!」
頭の中でイメージしていくけど、ぼんやりとした想像しか浮かばない。
うーーーーーーん……。創作って難しい。
「スマホでメモして! アイディアはすぐ消えるから!」
「あ、うん……」
犬。尻尾。耳。犬歯。それから、かっぱとか、雨とか、水とか。
……単語だけ並べても大丈夫なのかな。綴はうんうん、って頷いてるだけだし、今日の夜にでも奈苗お姉さんに聞いてみようかな。
それからお昼休憩が終わり、どんなデザインがいいだろうかと、スマホを弄りつつメモを取る。
でもぼんやりとしたイメージが形にならなくて、ちょっとした焦りとぐにゃぐにゃと曲がりくねった輪郭だけが浮かび上がるだけ。
どうすればいいんだろうか。これでいいんだろうか。そんなことを考えながら放課後になっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます