第9話:雨の勧誘。必ずしもできるものじゃない
「うーん……」
「ど、どうですか?」
帰ってからいろんなアイディアをぶちまけるようにメモ帳に記載して、とりあえず提出してみた。
反応は、あまり芳しくないようだったけど。
「雨モチーフで、犬も?」
「どっちも好きなので」
「なるほど……」
わたしのスマホ画面を熟読。そこに記載された乱雑な単語たちを1つずつ挙げていく。
好きなものをとりあえず詰めてみただけなので、考えがまとまっていたりいなかったりと、様々だったが、それなりに断捨離できてきた。
まずは雨と犬要素はありだと踏んだらしい。
花に降る雨、なんだか幻想的じゃない? という返答をいただいたので何よりだった。
それってわたしと奈苗お姉さんの相性がいい! ということには流石にならないか。
あと、好きなものと言えば甘い物も好きなのでそれも入れてみたが、却下された。モチーフが多ければ多いほどいいというわけでもないそうな。
「ま、あとはにか先生に丸投げして、私はパソコン注文するところからかな!」
「いいんですかそれで?!」
「まぁ、なんとかなるんじゃない? あの人は文字通りの天才だから」
随分と信用を置いている人物らしい。
件のにか先生という人をわたしは知らないが、奈苗お姉さんが言うのであれば、きっとすごい人なのだろう。
「それよりご飯作ってよ! このあと配信だからさ!」
「なら軽めでいいですか?」
「確かに。だったら配信後にガッツリ! いや流石に明日に響くか……」
社会人とVtuberの両立って大変なんだなと、奈苗お姉さんを見てて思う。
やらなきゃいけないことが2つって、結構頑張らなくちゃいけないだろうし、体力も結構使いそうだ。でも冷蔵庫にあるのがなぁ。
「お姉さん、冷蔵庫の中身……」
「ん? あぁ、好きに使っていいよぉ」
「そうじゃなくて、あー。うーん……」
大量のエナジードリンクと数缶あるビール。それから卵と、賞味期限が切れたハム。
流石に、あまりにもでは?
エナジードリンクとビールは料理に使えないし、ハムも多分無理。卵。卵だけかぁ……。
「食材、買ってきますね……」
「え? なんかあった気がするけどなぁ」
「卵とハムしかなかったです……」
「あれぇ? じゃあ卵とハム混ぜて――」
「ハムは賞味期限切れてますね」
「賞味期限なら行けるよ!」
なんか、少し頭が痛くなってきた気がする。気のせいかな? 多分気のせいじゃない。
わたし自身も相当ぼんやりしている方だとは思うけど、奈苗お姉さんも実は相当私生活荒れてるんじゃないかな……。
そういえば、と気づいたキッチンの床は少し埃っぽい。それからリビングにはまだ大量のダンボールが置いてあるし。
この賞味期限切れのハムも、ひょっとしたら引っ越し前から連れ添ってきたヤバい代物かもしれない。
「……あとでハムは捨てておくので、買い出し行ってきます」
「そっかぁ……。せっかくだし私もついていこうか?」
「え、でも配信があるって……」
「大丈夫だよ! ご飯食べてゆっくりするぐらいの時間はあったし! 何もしないで家にいるのもよくないと思ってね!」
よくないのは奈苗お姉さんの私生活な気がするけど、それは棚に上げておこう。
「分かりました。ではスーパーに行きましょうか」
「うんうん。あ! あとでコンビニにも寄っていい?」
「いいですけど、何かあるんですか?」
「まぁね。最近の新作が見たくて」
訳はわからないものの、まぁコンビニぐらいならスーパーの通り道にあるし。
外に出る支度をして、今日の料理を考える。無難に和食か出来合いのものでいいか。
とりあえず分かったのは、奈苗お姉さんは絶対に料理できない人だ。それも壊滅的に。
わたしが、わたしがちゃんとした生活に線路を戻してあげなきゃ。お母さん、わたし。頑張ります。
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