Vtuberの限界OLアラサーと天然清楚JKが年の差百合営業、始めました。
二葉ベス
第1話:花の帰郷。再会するのは10年前のあの子
前略。私はアイドル見習いだった。
あのキラキラしていて、フレッシュな、あのみんなに夢を与えているアイドルだ!
『見て、
『すごいかわいい!
『えへへ、ありがとー! そう言ってくれる
『きゃー! 推しからファンサもらっちゃった! ありがと、お姉ちゃん!』
私なら、なんとでもやれると思った。
拙いながらもダンスを踊り、ジャージだけど気持ちはアイドル衣装で。
笑顔は作り笑顔なんかじゃなく、本物のキラキラ笑顔で。
観客は近所に住んでいる7歳の
10年前、そのキラキラしている私は世間のことなんて微塵も知らなかった。
家を飛び出して、養成所を卒業して、行く宛なんてなくて。バイトや派遣業で食いつなぎ。
気づけばそんなキラキラももう10年前の話だ。
これが夢破れた者、という一種のありふれたエンディングなのだろう。
「……
あの日、あの時。最大限の資産を持って家を出てから10年ぐらいかな。
私、
結局才能とか、なかったんだよなぁ、私は。
「すみません、このダンボールは……」
「あ、適当においてもらって構いませんよ」
「了解でーす」
話は数週間前に遡る。
私の肉親である母親が天へと召されてしまい、その事後処理をしていた。
父は離婚し、家からいなくなっており、おじもおばもいない。年老いていた母が亡くなったことで私は天涯孤独になってしまったのだ。
幸いにも私は社会人で稼ぎも少々ある。
それに相続として、多額のお金と小さな実家のローンを引き継いだ。
要するに私には借金ができてしまったのだ。
家をそのままにしておくのも勿体ないし、この息苦しい都会にも少々辟易していたところだったからちょうどいい機会だ。と考え、実家に帰ることにしたのだ。
誰もいない実家に。
それにしても、この家も10年前とあまり変わらない。
私の部屋なんか、さっき覗いてみたらほとんど出ていく前とほとんど同じだったし。
10年間ずっと掃除していたんだと思うと、やはり申し訳なさが浮かび上がってしまう。
なんの親孝行もせずに、年老いていく母親を1人残してしまったから。
ごめんね、親不孝者で。
「あとで防音のチェック、PC周りの接続をしてから、ネット回線も確認しないと。配信は回線速度が重要なんだし……」
「終わりましたー! サインおなしゃーす」
「あっ! はい!
引っ越し作業を終えた業者のトラックがブーンと、エンジン音ともに走り去っていく。
さて、これから荷物を解いて、一人暮らしにしては広すぎる家を片っ端から走らないといけない。
……面倒くさいなぁ。
「生活の最低限だけでも終わらせて、コンビニでも行こうかな……」
この辺は住宅街。過去の記憶が正しければコンビニの場所だって変わってないはず。
そう考えて、新居となる我が実家へ入ろうとした、その時だった。
「おねえ、さん?」
「ん?」
思わず声のした方向へと振り向く。
私のことをお姉さんと口にする相手なんて、私の知ってる範囲では1人しかいない。
つややかで、よく手入れされているのであろう清楚な黒髪。
きっと清楚に見えるのは腰まで伸びたロングヘアだからだろう。
不安そうな面持ちでこちらを見るも、半分は期待で胸を膨らませているのであろう表情。
それから、それから……。私は覚えている。
幼い顔つきがやや成熟していて、拙かった身体が女性らしく丸み帯びていて。
まるで10年前の、過去のあの子がそのまま美しく成長した姿が目の前にいて……。
――思わず見とれてしまった。
「っ! やっぱりお姉さんですよね!
「……。あ、うん。
「はい!
「あ、うん。あはは、お恥ずかしながら」
何緊張してるんだ私。
でも、とても美しく育った。これならアイドルだってやれるんじゃないか?
そのぐらいぱっと見で掴む印象が強すぎた。
まさしく美少女。まさか10年前のあの子がこんなに眩しい存在になっていたなんて。
アラサー、溶けそう。
「もしかして、さっき引っ越してきたばかりですか?」
「まぁ、そうだね」
「そうなんですね……」
きっと語りたいことも、言いたいこともたくさんあるだろう。
でもそれが喉の奥の方で猫の毛玉みたいに絡まって出てきそうにない。
それが生み出す沈黙は、通常の1000倍ぐらいは息苦しい。
再会して間もない幼馴染に話しかける言葉なんてあるだろうか。
少なくとも10歳ほど人生経験豊富な私でも、容易に出てくる言葉はなかった。
「あ、そうだ! 私、まだ実家に住んでるんですけど、お夕飯ごちそうしますよ! 引っ越したばかりならまだキッチンも使えませんもんね!!」
「う、うん。そうだね……」
渡りに船だが、その船は泥舟な気がする。
コンビニでの簡単な食事で済まそうと思ったのだが、
仕方ない。私も泥舟に乗った気分で、そのお誘いをお受けしよう。
言わなきゃいけないことも、たくさんあるしね。
「やった。ありがとうございます! えへへ、お姉さんが帰ってきたんだ……」
そういえばこういう子だった。
私にやたら懐いてて、清楚な外見とは裏腹にかなりの甘えん坊だったことを。
こういう子がVtuberをやったらきっと映えるんだろうなぁ、甘えん坊で笑顔が素敵なVtuber。
おっと、職業病みたいなことを考えてしまった。
まずは私がVtuberであることがバレないようにしないと!
防音対策、ちゃんとしておこっと。
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