第19話:花の紹介。振り回すのは雫の心

「てことで、今日の本題! お互いに親睦を深めましょう!」

「わーい!」


:ドンドンパフパフ

:ドンパフ

:888


 多少は脱線したものの、概ね予定通りの時間に本題へ着地することができた。

 流石に会議とかしていると、たまに時間の切り分けがどうのとか言われたりするからね。こういうのはちゃちゃっと終わらせるに限るんだよ、うんうん。


「お互いに質問を交換しているので、質問を読み上げて、相手が答える。それに対してどんな感想を抱いたか、っていうのを楽しくやっていこうと思いまーす!」


:わーい

:名刺交換だ


「はいじゃあ最初! 私からでいい、しずくちゃん?」

「……あっ! はいどうぞ!」


 さっきもこの場面見たけど、流石に集中してよ、本当にさぁ。

 とりあえず! こほん、とわざとらしく咳をして場面を整える。

 さーて、私としてはまず初めに聞きたい質問があったんだよねー。


「ずばり! ゲームは好きですか!」


:王道

:そこも知らんのかい


 だって聞く機会なかったし。10年間何してたかとか知らないから聞いてるんだよ、おい!

 ゲームが好きならいろんなことができるよね。マルチプレイとか、2人3脚プレイとか! 最近のゲームは2人用のインディーゲームまであるという話なので、そこそこのゲーミングパソコンを渡したから、その辺を攻略プレイなんていうのも悪くないでしょ。


「うーんと。しません」

「え」

「したことない、と言った方がいいのでしょうか? ほとんど見る専で」


:この世に存在したんだ、ゲームしたことない人

:マジか

:見る専でよくVtuberやろうと思ったな逆に


 むしろ逆によくここまでゲームを知らない無垢な傘の具現化さんになってくれた。

 17歳でゲームやったことないは、流石にレアケース過ぎて、お姉さんもびっくりである。


「やりたくない、とかは言わないよね?」

「もちろんです! お姉さんと一緒にゲームしたいです!」

「んんっ!!」

「あ、ふわふわさんと一緒に……」


:もうお姉さんでいいだろ

:やーいフワネキ

:急に饒舌になって可愛いぞしずくちゃん


「あ、じゃあお姉さんで」

「もういいよ好きに呼んで……」


 なんというか、流れをしずくちゃんに渡したら最後、洪水のように配信と話題が飲み込まれてしまいかねない。

 とにかくこの子はマイペースというべきだろう。この固有結界と言うべき能力が侵食するとあまりにも取り返しがつかなくなる気がする。

 ソロ配信なら無敵だけど、コラボ配信としてはかなりてんやわんやさせられる。


 ともかく。ゲーム配信はやろう、今度。

 私もあんまり上手くはないけど、若いなりにその辺の勘は素晴らしいと期待しておく。

 はい次。


「しずくちゃんからはなにか質問ある? お姉さんがどーんと聞いてあげますよー?」

「えーっと。それでは……。最近気になっている人はいますか?」


:ぬ?!

:フワネキの気になっている人?!


 あー、来ちゃったかぁ。先制パンチがメガトンキックレベルに深い拳を突き立ててくるんですけど。

 この際キックかパンチなのかはさておきとして、お姉さん、この質問については嫌ほど考えさせられました。

 まぁでも。いま気になっている人、って言ったらもうこの子しかいないわけで。


「ふふっ、それはねー、しずくちゃんですよー!」

「え?!」


:おっ!

:キマシ?

:来たか?


「そりゃあ最近始めたての新人Vtuberさんで、私のことをよく気にしてくださいますしー」

「あ、そういうことですか……」


:フワネキさぁ……

:しずくちゃん……;;

:RIP


 え、なに。しずくちゃんもなんでそんなに声のトーン落としてるの?!

 いや、いやいやいやいや、だってこれはそういう答えにしないとさぁ。なんかまずくない?

 相手は女子高生だし、10歳も歳離れてるし。女同士、だし……。

 言い訳はいっぱい思いつくけど、ホントに、ホントにそういうことしか思い浮かばないんだよ。


 でもこの空気感は流石によくない。

 こういう質問に対して嘘をつくのがよくないことだってのは、重々承知だ。承知の上で、こう。いい感じの答えがあるはずと脳みそをフル回転させる。

 そうだ、こういうのがあるじゃないか!


「あ、でもでもっ! これからもっと仲良くなれるといいなー、って思いますよ?」


 これだ!

 これは本音。ちゃんと本音です。

 少なくとも家のローンがまだ返済できるまではここからはおさらばする予定もないし!

 そういうことじゃなくて! 幼馴染とはもっと仲良くなりたいと思うのは27歳だって、17歳だって同じでしょ?! ね?!!


「……ありがとうございます」


 あれ? なんか外したっぽい?

 声のトーンがちょっとスれてるというか、くぐもったようにボソボソと喋って。

 どういう感情でそれ言ってます?


:不仲か?

:不仲営業かもしれん

:フワネキが鈍感なばかりに……

:これは不和ネキ


「え、そういう不和?! 違いますから! ね、ね?」

「お姉さんは確かに鈍感ですけども……」

「しずくちゃん?!」


:しずくちゃんが擦れてる

:これ、不仲営業か?

:これは、どっちだ?


 どっちとはないけど、一応。一応私たち百合営業中だからね?!

 もっと、こう。仲良しこよしをさぁ! はぁ……。とりあえず内容を進めようっと。


「は、はいーということで、次の質問ねー! えへへ!」


 これは、配信の後にしずくちゃんと会うのも結構しんどいなぁ。どんな顔して会えばいいんだよぉ。

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