第18話:花の紹介。初めてのコラボ配信
翌日。
今日は初めてのコラボ配信当日だ。
準備はしてきたし、向こうもそんな感じ。
諸々の設定をして後は本番に挑む、という流れだ。
ちなみに配信自体は私の方で配信枠を取ることにしている。
何故かと言えば、瑠璃ちゃんがまだ配信に慣れていないことに尽きる。
これを気に教えてあげればいいのだろうけど……。その時は彼女の家にお邪魔したときにでもしておこう。
「よし、画像もおっけい。ボリュームのチェックも、おっけい。画面の配置も問題なし。んん~! 後は待つだけ!」
「ありがとうございます、ここまでしていただいて」
「ううん。初コラボ配信ってことだしね、不備とかそういうのは極力なくしたいから」
「流石デビュー半年のVtuberさん……」
半年先輩ってイキってるけど、実はあんまり頼りになってないのでは?
あー、でも半年も行けば普通に上出来か。3ヶ月経たずにやめるVとかもいることだし、半年は実は相当長生きだよね。Vtuberの人生は短い……。
「しずくちゃんは長生きしてね……」
「…………」
「ん? おーい」
「……あ! わたしのことですか?」
「そうだよ、しずくちゃん……」
「すみません、呼び慣れなさすぎて……」
当たり前といえばそうだけど、瑠璃ちゃん。もといしずくちゃんには先にVtuberとしての自覚を持たせた方がいいかもしれない。
これからしずくちゃんやら雨犬やらで呼ばれるんだから、Vtuberとしての名前をもっと身近に。それこそ自分はこの名前なんだと魂に刻むレベルで教えてあげなきゃ。
「これは後で特訓が必要かもしれないね」
「特訓、ですか?」
「そうだよ。自分の名前が雨犬しずくであることを文字通り刻んでもらわないと」
「わたしの名前は雨衣瑠璃ですけど」
「そうじゃないよぉ!」
これはわからせが必要になってくるな。
まぁ、とりあえずは配信時間もうすぐだし、告知出して始めちゃおっかな。
「まぁ、それはさておいて。そろそろ時間だから準備して」
「はい! つぶやいたーで呟き、っと」
うんうん、偉い偉い。Vtuberの基本は宣伝と告知。
これができれば大抵のことはなんとかなるのだ。サムネとリンクを添付して送信。
後は配信開始ボタンON!
「配信開始したから、合図したら始めるよ」
「は、はい……。ちなみに声って」
「大丈夫、今は入ってないから」
「あ、あぁはい……。すぅ……はぁ……」
んー、やっぱり緊張してるなぁ。
どうにか緊張をほぐせればいいんだけど……うーむ……。
あ、そうだ。思いついた!
「しずくちゃん、好きなものって何?」
「好きなものですか?! えっと、甘いものとか……」
「じゃあふわふわのパンケーキを想像して! バターとはちみつがたっぷりかけられたやつ!」
うわ、私も想像してお腹空いてきた。
「は、はい……」
「それを自分で食べたときの気持ちを考えて。リラックスしてるでしょ?」
「はい、美味しいです」
「そんな感じ! すぅー……。よし! 行きますよー!」
自分の意識を咲花奈苗からフワワー・フワリーへと切り替える。
夢破れた自分から、アイドルになっているような私へ。
夢は夢だから見ることはできる。でもなろうとすると、たくさん難しいことがあって。
だけどここなら、少しでもなろうとする気持ちがあれば、誰だってなれる。
それがVtuberだと思うから。
◇
「はーいはいはいはい! はい! おはようございますー! 不思議な花の精霊、フワワー・フワリーです!」
「えっと……。濡れた心にタオルと傘を! バーチャル傘の具現化さん! 雨犬しずくです!」
:いえーい!
:コラボ配信だー!
:フワネキの貴重なコラボ配信!
:しずくちゃんかわいいぞー!
「あぅ……。かわいいって言われました……」
「しずくちゃんはかわいいねぇ。ですよね皆さん!」
:かわいいねぇ
:かわいい
:フワネキもかわいいぞ
:てぇてぇ
おぉ、意外とコメント率高いし、かなり盛り上がっている。
私のも加味しても、しずくちゃんの可愛さは異常だ。その集客率は確かに高いかも。
「可愛いとか……、恥ずかしい……」
「あはは! しずくちゃんは初心だなぁ! はいということで、今日はコラボ配信ですよー!」
:フワネキももっと初心になって
:コラボ配信フー!
:ちなみにコンビ名は?
「初心はとうに乗り越えました! コラボ配信ですよ! コンビ名は、未定!」
いつもの調子でコメントを捌いていくけど、しずくちゃんのフォローを入れながらだと、結構大変かも。
まだ余力はあるけど、これ以上予想外の出来事があったら流石にきっついかも。
まぁまぁ。とりあえず配信を進めないと!
「今日は初コラボってことで、お互いのことを知ろうの質問交換会ー!」
:ほー
:ふわふわさんがコラボにノリノリなの珍しいな
:友だちいないのに
「友だちいないとか言わないでください!」
「え、いないんですか、お姉さん」
ぶっ?! ちょ、しずくちゃん?!
そこ反応しなくていい、じゃなくって! そのお姉さん呼びは流石にまずい!
:お姉さん?
:え、お姉さん?
:フワネキ……?
:初心なしずくちゃんにお姉さんって呼ばせてるの、お花の精霊さんは
:フワネキ、お前……っ!
「いやっ! 違う! っていうか違わないというか……」
まずい。ここで言いよどむと「え、フワネキなんかそういう風に呼ばせてるの?」からの関係性を疑われてしまう。その前に正直なことをそのまま口にする方が誤解なくすんなり済ませられる。
次の一手はこうだ!
「そう! 私たち元々幼馴染でね!? 前も言ったように引っ越した時に再会したんですよー! ねっ! しずくちゃん!!」
「…………あ、そうです」
:あー、前に言ってた
:ポルターガイストさんね
:幼馴染、いいですね
:なんかワンテンポ遅れなかった?
ま、まぁ。半信半疑ってところか。
でもさっきみたいな犯罪者のような目で見られることはきっとないだろう。
改めて思うけど、とんでもない爆弾だ、この娘は。
「えっと、今のは。しずくという名前にあまり慣れてなくて……」
「あーーーはいはい! 具現化Vtuberだから今生に生まれたのもついさっきですからね! ねー!」
「そ、そうです。はい」
:あせあせのフワネキ草
:草
:テンパってるフワネキ珍しいな
:可愛いぞフワネキ
何が可愛いぞフワネキだ! 焦ってもないしテンパってもない!
ただ私はね、想像以上に緊張で暴走するしずくちゃんを制することで精一杯なんだよ!
「はぁはぁ……。はい! 用意してきました、質問票!」
やっと画面を遷移できる。
並んでるのは質問の内容が書き出された画像だ。これも私が作った。
これのとおりに進行すればいいから、脱線してもなんとか戻せるかな、うんうん。
でも、答えによってはしずくちゃん、また暴走しそう……。
今日の配信は戦か何かか?
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