第15話:花の百合。貯金とこれからの百合営業

「はぁ……。大丈夫かなぁ、心配だなぁ……」

「だったら言わなきゃよかったのにぃ~」

「ダメでしょ、こういうことはちゃんと言わなきゃ!」


 私のイラストレーター、もといママはどことなく無責任感漂う人だ。

 まぁそれはいいや。私はいま酷く落ち込んでいる。

 何故なら無垢なる女子高生を今から毒牙にかけようとしているのだから。


「ふわふわさんさぁ、変に生真面目なのはいいけどやってることはただのエン――」

「それ以上はやめてください、にか先生!!!!」


 そう。そうなんだ。

 私は何十万相当の貯金を飛ばして、いいスペックのパソコン、マイクを揃え、画面の向こう側でケラケラ笑っている白雪にか先生にモデルを作ってもらい、最終的には瑠璃ちゃんをVtuberデビューさせたのだ。

 それはもう。うん。まぁ、やってることはそういうことと同じようなものだ。


 可能性はあると思っている。瑠璃ちゃんには私にはない才能があると。

 実際あのぽけぽけキャラで初配信の登録者100人超えだ。私でも50人が精一杯だったのに。

 準備期間も交流期間もなかったのにもかかわらず、それだけの登録者数を伸ばしているのははっきり言って才能と言わざるを得ない。


「でも無理やりやらせたんでしょ~?」

「まぁ、まぁそうですけども……」

「ふわふわさんが友だちいなくて寂しいって言うなら、うちの子とか紹介したのに」

「友だちいないわけじゃないですから」


 いないわけではない。数人と遊んだり、コラボしたりはしたけど、なんとなく距離が詰められなかったり、裏で遊ぶまで行かなかったりするだけだ。

 決して。けっっっっっっっっして!!!!! 自分がアラサーだから友だちができないなんて思ってない!!!


「まぁいいけど~。それで、方針は固まったの?」

「……百合営業しようって、言ったからにはやらないとなー、って」

「本気でやるんだ……」

「やりますよ! 大人の責任の持ちどころ! ここ!!」


 仕事なら責任なんてものを持ちたくはないが、ここは趣味の範囲。しかも相手は女子高生で世間知らずの瑠璃ちゃんだ。

 何があっても支えてあげられるようにと、今回の百合営業を思い立ったんだ。


「私が同じ歳の頃なんて、夢を追っかけるだけで精一杯だったし、誘った側としてはこれぐらいはしてあげないと」

「生真面目だよね~、ホントに」


 支払いは滞らせない。締切はちゃんと守る。それが大人の責任というもの。

 今回も支払いはちゃんと当日納品だったし。あ、暇だったのもあるけど。


「でもしずくちゃんにも何か考えがあるかもだよ?」

「うーん。ん~……。あるのかなぁ……」


 私のことを基本だらしない人だと思ってる口あるし、かと思えばVtuberとしては抜けてるところもあるし。

 10年前の彼女はもっと天真爛漫で、抜けてるところもあったけど、それも可愛くて。

 変わっているようで変わっていないところもある。なんというか、歯車が噛み合わない。そんな感じ。

 そう考えると、瑠璃ちゃんも不思議な生命体だ。流石は傘の具現化Vtuber。


「ま~、まずはお互いを知るところからじゃない?」

「やっぱりそうだよね。コラボ計画打ち立てるかー」

「何するの?」

「無難にゲーム?」

「雑談の方がよくない~?」

「……言われてみれば」


 視聴者にも私のことも瑠璃ちゃんのこともアピールすることができる。

 確かに一石二鳥みたいなところはある。でも緊張している瑠璃ちゃんをどうやってほぐすか。そう考えるとゲームが一番楽なんだよなぁ。

 早速楽な方に進んでる気がする。


 ダメダメ。私も私でちゃんと瑠璃ちゃんと向き合わなきゃ。

 まずは知るところ。10年前と今で変わったところを洗い出さないと!


「やるかぁ」

「やっちゃうの~?」

「やっちゃいますよー!」


 いろいろ考えなきゃな。まずは企画とかそういうの。

 自己紹介は、やったし。でもゲームはダメ……。というか、瑠璃ちゃんってゲームするのかな。今度誘ってみようっと。


「ありがとうございます、相談に乗ってもらって」

「いやいや~、ふわふわさんはお得意様ですから~」

「言い方がやらしい」

「ついでに言うけど、1周年に向けて新衣装とかは?」

「貯金がないです……」


 また稼がなきゃ。最近の出費が激しいだけで、まだ巻き返せる。よし、よし!

 面倒くさいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る