第24話:花の努力。独りぼっちじゃないから

「お姉さんって、本当に素直じゃないですよね」

「え、なんでそう思うの?!」


 配信終わり。時間がやや遅くなってしまったために、翌日反省会、という形になった。

 ま、私も瑠璃ちゃんも同じく土日で休みだから、というのが理由にあったりもする。

 休日の瑠璃ちゃんの私服、見るのはなにげに2回目だけれど、相変わらず清楚で可愛らしい。


 ワンピースにカーディガンで色付け。シンプルだけど、そういうのが可愛いと言われている。

 実際瑠璃ちゃんの見た目も相まって、かなりお嬢様風の出で立ちが同い年の男子共を釘付けにするだろう。

 あーあ、すまんな、私が独り占めしちゃってる。


「だって、わたしが好き好きムーブ出してるのに、お姉さんの方はそうでもなさそうだなぁと」

「いや、百合営業と匂わせは違うから、多分……」


 反省会、というのは昨日の結婚がどうこうの話である。

 エゴサしたところ、ただのイチャイチャだと思って見てくれているようだけど、私個人からしたら溜まったもんじゃない。

 なんだよ結婚って。瑠璃ちゃんがそれっぽく本気みたいに聞こえるから、より一層マジになっちゃうというか。ダメダメ。アラサーのOLをそんな風に誘惑するなんて。同性だとしても、その辺は弁えないと犯罪になってしまう。よね?

 詳細はこれっぽっちも分からないけれど、流石に10歳差で未成年はライン超えでしょ。


「そうですよね。あれは流石にやりすぎました。すみません」

「あっ! それは別にいいんだよ? 配信を盛り上げるためにはそういうのも悪くないと思うし」

「じゃあ結婚してくれますか?!」

「ゲームの話だよね?!」


 こういうところだ。

 いちいちマジになる必要はないんだけど、こうやって一度静止させないと、またいつ暴走するか分からない。

 普段はもっと冷静なのに、なんで私のこととなるとそんなに前のめりで突進してくるのか。


「未成年の女の子が、そういう事を言わないの。本気にするおじさんとかいるかもだよ?」

「あ、そういうのは間に合ってるので」

「おう、そうですか」


 どうやら男には興味がないらしいですね。悲しいな、同学年の男子共。


「まぁ、お姉さんがマジになんてなることないと思いますけどね。はい、お昼のコーヒーです」

「ん、ありがとう」


 ぐさりと、何故か私に突き刺す言葉が相当痛いが、まぁそれは置いておく。

 住んでからもう3ヶ月程度経つ実家だ。シュガースティックのある場所を慣れた手付きで1本取っていく。

 それを見てか、瑠璃ちゃんがハッとした表情を示す。


「もしかして、お姉さん、ブラックダメでした?」

「あー、ダメってことはないけど……。甘い方が飲みやすいでしょ?」


 飲めないことはない。そう、飲めないことは。

 ただ、ちょっと苦いし、胃にも相当負担がかかるから、最近はカフェオレとか砂糖入りとかで誤魔化しているんだ。

 自分を酷使した結果、身体の節々に影響が出始める。うーん、歳。


「確かに、甘い方が飲みやすいですけど」

「大人でも飲めない人はいるし、そんなもんだよ」


 砂糖を入れたコーヒーを口にする。

 うーん、インスタントの味。これが一番気軽で安いからこれにしちゃうんだよねぇ。


「そうですか……」

「うんうん。意外と自分の理想通りの大人なんて、この世のどこを探してもいなかったりするしね」

「それは、そうですね」


 ん? なんで私見ながらそう言ったの? それはそれでちょっと困るんですが。

 まるで私がダメな大人みたいな言い方! まぁその通りなんですけども。

 でもまぁ。外に出ないで家でゴロゴロするアラサーなんて、ダメな大人以外の何者でもないか。


「それでも惰性で生きてるようなのが私だから、なんにも言えないかな。へへへ……」

「……奈苗お姉さんは、寂しいって思ったことはないんですか?」


 寂しい。寂しいか。それは急な話だなぁ。


「どうしてそう思うの?」

「わたし、知ってますよ。奈苗お姉さんのお母様が遠いところに行ってしまったこと」

「…………」

「だから、もしかしたら1人は寂しいんじゃないかな、と思いまして……」


 本当に、本当に急な話を持ちかけてくる。

 私だって、まだ整理しきれてないところだったのに。


 確かに母は他界した。父もどこにいるか分からないし、葬式にも来なかったから恐らくもういないんだと思う。

 姉妹だっていないし、友だちもそれほど多くはない。地元に帰ってきても合わせる顔がないとも言える。

 だから実家にいても、もっぱら独りぼっちだ。それをどう思うかなんて。どう、思うかなんて……。


「大丈夫だよ、1人は慣れてるから」

「そう、なんですか……?」

「うん、そういうもの」


 上京したときだって、1人だった。

 帰郷してもそんなもんなんだから、私はもう慣れきってしまったんだと思う。

 1人に、独りぼっちに……。


「あ! でも今は瑠璃ちゃんもいるし、ひとりじゃないから大丈夫だよ!」

「……そ、そうですか! あはは、なんか急にすみません、こんな話をしてしまって」

「大丈夫だよ!」


 うん、大丈夫。

 そういうものだって、分かってるから。

 だから今は嬉しいんだ。瑠璃ちゃんがいてくれるから、私は安心できる。

 一人っきりの部屋は、きっと広すぎるから。君がいてくれて、私は嬉しいよ。


「さて、今後の事も考えないとね! ゲームは続行。あと他に何をしようかなぁ」

「そうですね……。シチュエーションボイス、ってありましたよね、そういえば」

「っ!」

「音声ドラマ? みたいなやつ。それに挑戦してみませんか?」

「嫌だ!!!!!」


 アラサーOL、これ以上にないほど大きな声が出てしまった。

 シチュエーションボイス。シチュエーションボイスだけは、ダメなんだ……っ!

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