第21話:花の努力。どんなことしてほしい?

「うーん……」


 想定していたとはいえ、私のチャンネル登録者数が伸びない。

 これは単純な話だ。私のリスナーが雨犬しずくちゃんのチャンネルをフォローしているから、相対的に伸びているのはしずくちゃんの方で、私はごく少数の伸びしかしてなかった。


 失敗したなぁ。もっと事が簡単なら、コラボしただけでワッショイワッショイすると思っていたのに。現実問題はそう簡単に成果が出る方向に運んでくれないらしい。


「やっぱ私、才能ないのかなぁ」


 アイドル見習い時代、何度も脳裏を焼いてきた考えが、今回も蘇る。

 いや。いや。登録者200人。常人に比べたらすごいことなんだこれは。

 新人Vtuberの多くは登録者が100人を上回ることすらできずに活動or引退している。

 それと比べたら、私はまだマシな方。恵まれている方、なんだけど……。


「これを見せられたらなぁ」


雨犬しずく@傘の具現化さん新人Vtuber:

登録者150人突破しました!

これもお姉さんのおかげです!


 もう150人行ったのかという嬉しさと、かるーい絶望感と。

 才能を持つものと持たざる者の差は大きい。特に目を引く、引かれるという点が。

 いろいろ分析してて分かったけど、しずくちゃんは『ほっておけない』属性なんだと思う。


 ぽわぽわしていてほっておけない。炎上するかもしれない冷や冷や感がほっておけない。

 いろいろとほっておけない。そんな彼女は知らず知らずに人を魅了しているんだ。

 要するにドジの領域に行かないドジっ子、みたいなタイプ。蠱惑な女だ。


「何見てるんですか?」

「んー? しずくちゃんのつぶやきを見てたんだよー」

「わたしのじゃないですか! なんか恥ずかしいのでやめてください」

「150人おめでとー」

「あ、ありがとうございます……」


 今は夕飯後。2人ともこれから配信がないため、今日はゆっくりと各々の作業ができる。

 私は結局ツブヤイターを徘徊してるだけなんだけどね。エゴサしても昨日と同じ内容だし。

 しずくちゃんは意外と反応がある。くっ、若いっていいなぁ。


「奈苗お姉さん、スマホばっかり」

「ごめんごめん。ツブ廃はね、ツブヤイターからは逃れられないんだよ」

「友だちにもいますけど、そんなに楽しいですか?」

「なんかね。時間つぶしにちょうどいいんだ……。内容とか、あまり濃いの以外覚えてない」


 これだからツブ廃は……。

 でもどうしたら伸びるかとかはずっと考えている。

 やはり露出度とか、身内へのアピールとか。そういうところから地道に上り詰めるのが一番堅実なやり方なんだよなぁ。

 リスナーの絶対数はいる。あとは広げないと。地道に、地道に……。


「うひー、ムリだ……」


 やっぱ楽な道に倒れてしまいそうだ。なんかこう、手っ取り早くフォロワーと知名度が伸びる方法ないかなぁ。


「急に弱音吐いてますけど、いったい何が……」

「いやねぇ、登録者伸びる方法ないかなー、って」

「それはわたしにも知りませんね……」

「だよねぇ……」


 いくら探しても、既出の情報ばかり。

 先鋭的で、とにかく新しく手早く、さらに誰も手を付けてない方法なんて、あるわけないか。


「やっぱり地道に活動していくしかないのかなぁ」

「試しにリスナーさんに聞いてみるとかはどうでしょう?」


 リスナーに聞いてみる。何を?


「あの、やってほしい事、みたいなのをリプライで教えてもらうみたいな」

「…………」


 やってほしいことを聞く。私に?

 ……そういえば、そんなこと聞いたことなかったなぁ。

 いつも自分が光るように頑張って活動してきたけど、ネタ切れ感が否めないというのも本当のこと。

 ならばいっそ、やってほしいことを乱雑にでも連ねてもらった方が面白くなるのかも。


「それ、いいね」

「やった、お姉さんに褒められました!」

「おぉ、よしよし。私の幼馴染は賢いなぁ!」

「えへ、えへへ……」


 艶やかな黒髪を撫でながら考える。

 これで無茶ぶりが来たらどうしようとか、逆になにも来なかったら怖いな、とか。

 期待半分不安9割みたいなところだけど、募集はしておこう。


「えーっと、私にして欲しい事、あったら教えてください。っと」


 さてさて、どうなるのだか。気になるなぁ、私の印象。

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