第25話 神田ダンジョンのボス撃破
「あ、ボス部屋だ」
火花は三時間程で神田ダンジョンの最下層である50階層に辿り着いた。彼の目の前には大きな門がある。ボス部屋の入り口である。
火花は道中のモンスターたちを魔力銃で次から次へと倒して行った。そのため歩きではあったが、かなりのスピードで最下層まで到着している。
“余裕の到着”
“ボスきたー!”
“銃無双ww”
“刀無くても余裕です”
“俺らの心配を返せ笑”
無双していたお陰か視聴者の数は9000人を突破している。このまま行けばボスとの戦いの間には1万人を超えるかもしれない。そう思うと火花はさらにやる気が増していく。
「弾丸の種類も増えた事だし、ボス戦行っちゃいますか!」
“ノリノリだな”
“分かりやすく調子乗ってて草”
“こういう所は年相応w”
“コンビニ行くみたいなテンションw”
“アイス二本目を食う時のテンションw”
火花はボス部屋の扉へと手を掛ける。するとガガガという擦れる音と共に門が開いていく。彼はゆっくりとボス部屋へと入っていく。
部屋の中に明かりが灯る。そして奥にいるボスモンスターの姿が照らし出される。
「フンガ」
そこにいたのは全身が包帯で出来たライオンであった。マミーライオンというモンスターだ。その名の通り、マミーのライオンバージョンである。
「おぉ〜、初めて見ると少し感動するなぁ。みなさん、これが神田ダンジョンのボスのマミーライオンです!」
火花としても神田ダンジョンのボスであるマミーライオンの存在は知っていた。ただ当然生で見るのは初めてだ。そのため少し感動している。
「フンガァァ!」
火花の姿に気付いたマミーライオンが雄叫びを上げる。そして駆け出す。そのスピードは今まで火花が出会ってきたモンスターの中で一番速いだろう。
「ヌンフッ!」
「ほ」
振り下ろされた前脚による攻撃を火花は左にかわす。それと同時に通常の魔力弾をマミーライオンへと撃ち込む。しかしそれは包帯に弾かれてしまう。
「フンガガ!」
「おっと」
マミーライオンが体に巻き付いている包帯を伸ばして火花を拘束しに掛かる。それを見て彼は一歩大きく後退する。
「流石に中級ダンジョンのボスだけあって中々の強さですね。一筋縄にはいきません」
“マミーライオンは雑魚だろw”
“弱点突けば余裕”
“お前が刀を持ってないからや”
“久々にちゃんとした戦闘だな”
“基本、ブルストは瞬殺が多いからなw”
火花の感想にコメント欄も盛り上がる。先ほどまでの銃無双とは違った展開のため視聴者たちも楽しいのだろう。
「マミーライオンの弱点である炎系の攻撃手段は何も持って来てないですよ」
“おい!”
“アホで草”
“おわた”
“燃やせば一発なのに”
“弱点も刀も封印してどうやって勝つつもりなんだw”
マミーライオンの弱点は炎である。それは本体が包帯だからだ。そのため包帯に火をつけられれば簡単に勝てる。マミーライオンは単体の強さではスピード、パワーが高いため上級クラスのモンスターだ。しかし炎という特大の弱点があるため中級という扱いになっている。
つまりこのボスとの戦い方は本来、いかにマミーライオンの攻撃を掻い潜って火をつけるかという事になる。実力で勝てなくても弱点を突けば勝てるよ、という典型的なパターンである。しかし火花はその燃やす手段を用意していなかった。
「フンガァッ!」
マミーライオンが大きく口を開ける。するとそこから大量の包帯が飛び出して来る。言うなれば包帯のブレスである。
「大魔力弾」
それに対して火花は魔力弾のサイズを大きくしたものを放つ。先ほどからマミーライオンの攻撃を回避しながら魔力をチャージしていたのだ。それは火花の上半身くらいのサイズになる。
吐き出された包帯と大魔力弾がぶつかる。そのほとんどが相殺される。かろうじて大魔力弾の攻撃範囲外にあった包帯が火花へと向かって来るが、無視しても問題無いレベルである。
「マミーと同じ様に大量に魔力弾を浴びせれば勝てますよね」
火花はそう言って加速する。身体強化により、普通の人間では考えられない様なスピードが出る。しかもそのスピードは今までよりも更に速くなっている。走る際に足元に青い光を出すのも忘れない。
“はやっ⁉︎”
“前より速くなってねーか⁉︎”
“とうとうフロートカメラの限界が……”
“今までのスピードを写せてたのを考えるとフロートカメラ自体はかなり良いやつだと思う”
“つまり最新機種を超えたという事ですねw”
“フロートカメラの機種教えてくれ”
マミーライオンは加速した火花に攻撃しようと再び包帯のブレスを放って来る。彼はそれを空中を走る事で回避する。
“は……?”
“ん? 気のせいか? 空中を走ってる……?”
“地面は?”
“見間違い、だよな”
火花が突如見せた空中を走るという芸当に視聴者たちは混乱する。中には自らの見間違いだと思っている視聴者もいる。
しかしそれは見間違いなどでは無い。火花は空中を走りながらマミーライオンへと魔力弾を放つ。それは視聴者からのアイデアにあった機関銃を参考にした魔力弾である。
マミーライオンに接近されない様に一定の距離を取りながら魔力弾を連続でぶつけていく。敵の周りを円を描いて走る形である。
「フガガガッ⁉︎」
四方から放たれる魔力弾にマミーライオンが怯む。この魔力弾は連射速度を強化しているため、通常の魔力弾よりは威力が低い。しかしそれを補って余りあるほどの連射性である。
「フンガフンガァァーー!!」
全方位からやってくる弾丸を防ぐため、マミーライオンはたてがみの包帯を周りへと伸ばしていく。それにより弾丸の被弾数を減らそうという考えなのだろう。
「ガフン!」
しかしそれだけでは無い。マミーライオンは伸ばした包帯を自らの前脚を模した形へと変える。無数に増えた前脚により魔力弾が迎撃されていく。
「ならこれでどうだ」
火花は魔力弾の種類を貫通弾へと変える。手数は少ないものの、包帯の前脚程度ならば撃ち抜ける威力を誇っている。
「グガァァァ⁉︎」
貫通弾により今までよりも大きなダメージを負ったマミーライオンは悲鳴を上げる。それにより敵の動きが鈍る。火花はその隙に大魔力弾を作成する。
「俺の勝ちだ」
火花はそう言って大魔力弾を放つ。それは一直線にマミーライオンへと向かっていく。態勢を立て直したマミーライオンはそれを迎撃しようとする。しかし時既に遅く、大魔力弾が直撃する。
大魔力弾はマミーライオンの胴体を消滅させる。残った頭はすぐにダンジョンへと吸収され、その場にドロップアイテムが現れる。
「何とか勝ちましたね」
“すげー!”
“マミーライオンのスピードを上回るとかやべぇ”
“弱点狙わなくても余裕勝ちだな”
“てかさっき空中走ってたの何⁉︎”
“スピードも上がってた”
“やっぱり中級も余裕だな”
“これでメインウェポンを使ってないとか草”
「えーと、空中を走ってたのは普通に魔法障壁を足場にしてただけですよ。スピードが上がってたのは足裏から魔力を放出しながら走ってたからですね」
火花は幼い頃から訓練として歩く際に足裏に魔法障壁を展開する事で魔力の扱いを訓練してきた。そのため空中だろうが、どこでも魔法障壁を足裏に展開する事で走る事が出来るのだ。もちろん無理な体勢になれば転んでしまうが、ある程度の速度が出ていれば一時的に横向きに走る事も可能だ。
そしてスピードが上がっていたのは身体強化と魔力弾の中間的な技術を使っている。足裏から魔力を放出する事で、その反発を利用して加速しているのだ。以前、ナナカを助けようとした時にも一度この技を使っている。ただこちらはやり過ぎると靴が壊れる可能性がある。
“まさかあの訓練がそう活きてくるのか!”
“あれは魔力コントロールの訓練ってだけじゃなかったのか!”
“つまりブルストは三次元的な動きが可能なのか”
“しかも超スピード付きでな”
“ただ走るだけなのに身体強化、魔力障壁、魔力放出の三つを同時使用とかやばすぎ”
“オサレ魔法を忘れるなよww”
“ちゃんと光ってたからな”
“さらに魔力弾で攻撃とか、合計で五つも使ってるじゃねーか笑”
視聴者たちが火花の解説に盛り上がる。その誰もが火花の魔力コントロールに驚いている。そしていつの間にか視聴者が1万人を超えている。予想通りボス戦中に超えたのだろう。
「うわ、ついに視聴者が1万人を超えました! みなさん、ありがとうございます! それじゃあお待ちかねのドロップアイテムを見ていきましょうか!」
火花も1万人超えに気付いてテンションが上がる。そしてその勢いのままにドロップアイテムへと走るのだった。
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