第24話 神田ダンジョンと魔力銃


 土曜日。


 呉景たちと情報交換をした次の日。学校が休みのため火花は神田ダンジョンまで来ていた。今日は蘭が外出しないので、護衛をする必要は無い。そのためダンジョン配信をしようとやって来たのだ。


「さてと、始めますか」


 受付の職員に探索者カードを見せて入場の許可を貰った後、火花は気合いを入れていた。彼としては今日、遅くても明日までには神田ダンジョンを踏破するつもりだった。


 今回で中級ダンジョンを卒業して、その次は上級ダンジョンに挑みたかった。異例のペースではあるが、中級ダンジョンの敵では物足りなくなっているのは確かだ。無駄にレベルの低い場所に居続ける必要は無い。


 また蘭の護衛依頼を達成すれば多少のお金が手に入る。そこに中級ダンジョンでのドロップアイテムの売却分を足せば、新しい武器も手に入ると考えていた。


「あ! 火花くんだ〜! やっほー!」


 火花の後ろからそんな声が聞こえた。彼が振り返るとそこには花宮ナナカがいた。明るめのオレンジブラウンの髪に、人懐っこい笑顔が似合っている。手には向日葵の杖を握っている。


「こんにちは、花宮さん・・・・。今日も神田ダンジョンの攻略ですか?」


「そうだよ! 今日は学校が休みだからね〜。一気に攻略を進めるつもりなの」


「なら俺と同じですね」


 火花はナナカのことをあえて苗字で呼んだ。それは視聴者から余計な探りを入れられるのを避けるためだ。見ればナナカの方は既に配信を開始しているのが分かる。フロートカメラが彼女のすぐ近くに浮いているからだ。


 視聴者たちは二人が連絡先を交換している事を知らない。なのにお互いが名前で呼び合っているとそれがバレる可能性がある。それを避けるために事前に二人で打ち合わせしていた。


 ただナナカの方は火花の事を普通に名前で呼んでいる。これは彼女のキャラという事で問題ない。火花の方がナナカと親しそうにするのが問題なのだ。


「火花くんも攻略進めるんだ。30階層からだよね?」


「そうなりますね」


 帰還の魔法陣を使えば、ダンジョン内をショートカット出来る。アウトブレイクの件で火花は30階層まで降りているのめ、そこから攻略を再開出来る。


 入り口からもショートカットとして魔法陣が使えるのに、何故「帰還の魔法陣」という名前なのか。それは帰還の魔法陣を使ったことのある階層までしかショートカット出来ないからである。ダンジョンから帰還をしたからショートカットが出来る。そういう意味合いが大きい。


 火花の場合は神田ダンジョンでは30階層の魔法陣しか使っていない。それでも10階層、20階層にも飛ぶ事が出来る。


「それなら一緒に攻略しない?」


「うーん……それも面白そうですけど、今日は遠慮しておきます」


「そっかぁ、残念……」


 ナナカから一緒の攻略を持ち掛けられるが、火花はそれを断る。今回は神田ダンジョンをなるべく早く踏破したかったからだ。またナナカのユニコーンをあまり敵に回したく無いと言うのもある。


「それじゃあ先に行きますね」


「行ってらっしゃーい」


 火花はダンジョンの入り口脇にある魔法陣に乗って30階層へと飛ぶ。光が溢れて彼の身体を包み込む。


「……っと」


 そしてあっという間に30階層に辿り着く。それからすぐにフロートカメラを起動して配信をスタートさせる。


「こんにちは。ブルーストリークです。今日は神田ダンジョンの攻略を再開したいと思います。希望としては今日か明日で踏破したいです!」


“こんぶるー”


“来たー!”


“おっすおっす!”


“待ってたぞ、ブルスト!”


“依頼は良いのか?”


“ブルストの事だからもう終わってるんじゃね?”


 するとすぐにコメント欄で視聴者たちが会話し始める。スタート時点で3000人の視聴者がいる。配信をする毎に視聴者が増えて行っている。


「依頼の合間を縫っての攻略です。今日、明日を逃したらしばらくは攻略できない可能性が高いです。なので出来れば踏破したいですね」


“木刀で中級を踏破すると宣言する男”


“木刀侍”


“俺も日光の木刀持ってるぜ”


“本当に木刀で挑むのか?”


「ええ、木刀を使います。でもメインは銃ですよ。こっちの修行もしたいと思ってるので」


 火花は魔力銃を扱うのが楽しくなって来た。それは昨日の狙撃手との一件のお陰だ。狙撃レベルの攻撃を放てた事で魔力銃が持つ可能性に気付いた。


「それじゃあ早速行きましょう!」


 火花は魔力銃を手に取ってクルクルと回して遊びながら歩き出す。走って攻略しないのはまだそれ程慌てていないからだ。時間に余裕が無くなってきたらダッシュ攻略をする可能性はあった。


「お、早速敵が出てきましたね」


 出てきたのはスケルトンガードマンという大きな盾と剣を持ったスケルトンだ。それが三体出現する。大きな盾がある影響で動きはそれ程速くないが、防御力が高く、初心者にとっては厄介なモンスターだ。


 火花は相手に向けて銃を構える。そして狙撃手へ攻撃した時よりも魔力の圧縮率を低めにして魔力弾を放つ。


「グガ⁉︎」


 すると真ん中にいる一体の持っている大楯を破壊する事に成功する。その勢いでスケルトンが転ぶ。しかし残りの二体は無事のため火花へと向かって来る。


「「グガ!」」


 二体から同時に剣を振り下ろされる。火花は二体の剣の側面を木刀で叩く。すると剣の軌道が火花から逸れる。その隙に一体の側頭部を銃で撃ち抜く。


 もう一体が剣を振り下ろした反動を使って左逆袈裟斬りをしようとする。火花はそれを足を使って止める。向きが反転するタイミングで上手く抑える事で止めたのだ。


 動きを止めたスケルトンの側頭部を同じ様に魔力弾で撃ち抜く。これで二体を倒した事となる。先ほど転んでいた最後の一体が、火花へと向かって来ていたので再び銃で撃ち抜く。


「倒しました」


“木刀でもいけるな”


“あっさり!”


“やっぱ中級中層の敵じゃ相手にならんな”


“銃の威力が上がってる……?”


“銃の扱いが上手くなってる気がする”


 木刀でも敵をあっさりと倒した事でコメント欄が盛り上がる。中には火花の銃の扱いが上手くなった事に気付く者たちもいる。


「それじゃあどんどん行きましょう!」


 複数体いる場合でも銃を中心に戦闘が上手くいったため、火花も自分のやり方に自信を持つ。


 その事、順調に階層を下って行く。道中のモンスターたちは火花の銃修業の糧となっていく。刀よりは魔力を消耗するものの、大きな負担になる程では無いというのが火花の体感である。


「魔力弾のレパートリーを増やしたいですね。何か良いアイデアありますか?」


“巨大な弾丸”


“今はどんなのが出来るの?”


“太陽くらいデカいやつ”


“泡猫みたいなの作ろうぜ!”


“弾猫?”


“だせぇww”


「今撃てるのは通常の魔力弾と貫通弾、あと狙撃風のやつです」


“狙撃風てなんだよww”


“シンプルっちゃシンプルだな”


“ブルーストリークの魔力弾〜狙撃風味〜”


“オサレ弾作れ”


“どうやったらオサレになんだよw”


 狙撃風というのが先日、蘭を狙った狙撃手を倒した超遠距離攻撃である。こちらは撃ち出すまでに時間が掛かるのと、ダンジョンでそこまで遠くの敵を倒す必要は無いためお蔵入りだ。


 貫通弾はスケルトンガードマンを倒した狙撃風のものを弱体化させた魔力弾だ。威力は普通の魔力弾より高いものの、ダメージ範囲は狭い所に絞られる。


「大きい魔力弾だとそれなりの溜めが必要だよなぁ……」


“散弾も欲しい”


“それなら連射も必要じゃね?”


“機関銃的なやつとか”


“ファンタジー路線でいくなら追尾弾だろ”


「色々な候補がありますね。とりあえず敵が出たら一つずつ試していきますか!」


 火花としては一通り試すつもりであった。慣れるまでは新しい種類の魔力弾を作るのに時間が掛かるだろうが、使いこなせる様になればかなりの戦力アップが期待できる。


「まずは大魔力弾からやってみましょうか!」


“賛成”


“いえーい!”


“新技開発〜!”


“ぶちかませー!”


 そういって火花は出て来るモンスターたちを色々な種類の魔力弾で屠っていく。それに視聴者たちは大興奮するのであった。

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