第5話 能力解説とこれから


「ふぅ……」


 ブラックゴブリンリーダーとその取り巻きのゴブリンたちを倒した火花。確実にモンスターたちが消滅したのを確認して一息つく。


「それではドロップアイテムの確認をしていきたいと思います」


“いやいやいや!”


“ほぼ瞬殺じゃねーか!”


“レアボスが雑魚扱いww”


“どう見ても初心者じゃない動き”


“刀が赤く光ってたぞ!”


“おめでとー!”


“あんな豆腐みたいにモンスターって斬れるのか?”


 レアボスを倒したというのにあっさりと話を進めていこうとする火花にコメント欄からツッコミが入る。しかし彼の方はコメント欄にまでは目を通していない様でドロップアイテムの確認に入る。


「えーと……落ちてるのは魔石と鎧ですね……」


 落ちているドロップアイテムはブラックゴブリンリーダーのもののみである。召喚されたゴブリンたちの分のドロップアイテムは無い。ボスの能力の一部というカウントになるのだろう。


 魔石はこのダンジョンで今まで火花が見てきたものよりもかなり大きかった。これなら売却に多少の期待が持てるだろう。


 一方で鎧の方は微妙であった。ブラックゴブリンリーダーがゴブリンより二回りほど大きいと言っても人間のサイズでいったらかなり小柄な部類に入る。そのため鎧として装着できる人間がほとんど居ないだろう。つまり売却時の価格はあまり期待出来ないという事だ。


 この辺りは初心者ダンジョン探索者たちにとってシビアな問題である。下級ダンジョンのレアボスですら魔石くらいしか価値が無いのだ。つまり下級ダンジョンではほとんど稼げない。


 ある程度の稼ぎを手に入れるには最低でも中級ダンジョンに潜るしか無いのだ。ただ普通はそこに辿り着くまでにそれなりの時間と努力が必要となる。そのため中級ダンジョンに辿り着く前に探索者を辞めてしまう者も少なく無い。


 ダンジョン探索者になるという事は自らの命を懸ける行為に等しい。それなのにほとんど稼げないというのは、どう考えても理不尽である。そんな結論になってしまうのだ。


 ここが探索者たちにとって最初の壁とも言える場所だ。尤も火花はそんな壁を二日目でクリアした訳なのだが。


“ドロップアイテムは渋いな……”


“レアドロップでは無かったと……”


“どんまいw”


“剣がドロップしたらそれなりに高く売れたのにな”


 ドロップアイテムを見てコメント欄が少し盛り上がる。火花はドロップアイテムを回収していく。回収方法は簡単だ。近付いて収納することをイメージするだけで良い。


 するとドロップが消える。火花の中にドロップアイテムが入ってしまうのだ。このシステムは一般的にアイテムボックスと呼ばれている。


 ただしこれはドロップアイテム限定の機能である。他のものは一切入れる事が出来ない。ドロップアイテムを加工したものや、一度でも使用した事があるドロップアイテム(武器など)も収納は不可能となっている。


 あくまでもドロップアイテムを外に持ち帰るためだけの機能という事だ。ただ探索者たちの中には未使用のドロップアイテム武器をアイテムボックスに収納しておいて、武器が壊れた時の予備として使う者たちもいる。裏技というやつである。


「それじゃあ地上へと戻ります」


 ボスを倒した事で部屋の中央に魔法陣が現れる。これにより火花は地上へと簡単に戻る事ができる。この魔法陣は帰還の魔法陣と呼ばれていて、ダンジョンの十階層毎、あるいはボス部屋に設置されている。


「これで戻れるのか……」


 帰還の魔法陣初体験の火花は少し緊張しながらも魔法陣の上へと乗る。すると魔法陣が強く発光して火花の身体を包み込む。その光量の強さに彼が目を閉じると、身体が軽くなっていく様に感じた。


 そして彼が再び目を開くとそこは末広町ダンジョンの外であった。ダンジョン入口のすぐ脇である。すると受付をしている人間の一人が火花が帰ってきた事に気付く。


「お、戻ってきた」


「ダンジョン探索お疲れ様でした。そして末広町ダンジョンの踏破おめでとうございます」


「ありがとうございます!」


 受付の人に褒められて嬉しくなる火花。頭を下げてお礼を言う。


「それではこちらで探索者カードをお出しください」


 火花は言われた通りに探索者カードを受付で提示する。するとそれを受け取った受付の人が置いてある機械にカードを通す。そして何やら入力してからカードを火花へと返す。


「はい、ありがとうございました。こちらに末広町ダンジョン踏破の情報を入れておきましたので」


「ありがとうございます」


 探索者カードは探索者の身元を保証するだけのカードでは無い。中にはICチップが埋め込まれており、そこに色々な情報を書き込めるようになっているのだ。ダンジョン踏破情報についてもその一つである。


 ダンジョンから地上へと戻る際にそのほとんどが帰還の魔法陣を使用する。この魔法陣の特徴として深い階層に戻れば潜るほど、帰還時に使用する魔力が大きくなるのだ。


 その性質を利用して魔法陣が展開される際の魔力量を測定する事で探索者たちがどの階層から戻ってきたのか把握しているのだ。それにより戻ってきた探索者がダンジョンを踏破したかどうかが分かる。もっとも末広町ダンジョンは十階層しか無いので、魔法陣で戻ってきた時点で踏破は確定なのだが。


「それにしても探索者になってたった二日で下級とは言えダンジョンを攻略するなんて凄いですね!」


「あはは……ありがとうございます」


 受付の人にまたもや褒められて満更でもない火花。嬉しそうに笑っている。


 それからカードをしまった火花は受付から離れる。そしてあまり人がいない所で配信の確認をする。そして視聴者の数を見て驚く。


「何とか無事に末広町ダンジョン踏破しました〜! って同接250人超えてる⁉︎」


“お、ようやく見た”


“ボス撃破おめ〜”


“ダンジョン踏破おめでとうございます!”


“期待の新星現る”


「皆さん、ありがとうございます!」


 コメント欄も火花のダンジョンクリアを喜んでいる様だった。それに彼も嬉しくなって頭を下げる。


“あの刀が赤く光ってたのは何ですか?”


“銃を撃つ時も水色に光ってたよな”


“雷か光魔法かと思ってたけど違うのか?”


 するとコメント欄からいくつか質問される。それを見て火花が自身の能力について説明していなかったことを思い出す。


「えーと、それは確かにそれは俺の魔法ですね。エフェクト魔法っていうんですけど、色んな演出が出来る魔法ですね。オサレなんで使ってます」


“まさかの演出ww”


“オサレ魔法ww”


“雷とか光とかって言ってたやつ誰だよw”


“戦闘関係ねーじゃねーか!笑”


 火花が使っていた魔法の正体にコメント欄が一斉に笑い始める。光や雷といった強力な魔法を使っているのかと思ったらただの演出だったのだ。


「でも配信映えするでしょ?」


“確かに”


“見てる側は楽しい”


“漫画とかアニメみたいだしな”


“ちょっと待ておまえら。よく考えろ。あれが演出って事は今までただの無属性魔法しか使ってなかったって事だろ⁉︎”


「そうですね。俺が使えるのはオサレ魔法と無属性魔法だけですから」


 視聴者の一人が火花の実力の高さに気付いて驚く。今まで見せていた超スピードや刀捌きは強力な固有魔法によるものではなく、誰にでも出来る無属性魔法での技だと理解したからだ。その指摘にコメント欄が再びざわつく。


“マジかよ……”


“それは確かにやばいw”


“自分でオサレ魔法言うなww”


“これは人外確定か……⁉︎”


“このチャンネルは伸びると確信したわ”


 火花の実力が分かると更にコメント欄は盛り上がる。中には火花のチャンネルが今後人気になる事を確信している者もいる。


「それより明日からどこのダンジョンに行きましょうか?」


 末広町ダンジョンを踏破したので、次に潜るダンジョンを決めなければいけない。せっかくなので火花は視聴者にオススメのダンジョンを聞いてみる事にした。


“東京駅ダンジョン”


“場所的に行ったら神田じゃね?”


“汐留とか?”


“銀座ダンジョンだろ。お金ザックザクよww”


“後楽園ダンジョン!”


 火花からの質問に各々好きなダンジョンの名前を上げる視聴者たち。それを聞いて彼はどこのダンジョンに行くべきか考える。


「というかどこも中級以上のダンジョンばっかりですね。俺としては探索者になったばかりなんで、もう少し下級ダンジョンを回ってみても良いかなーと思ってたんですけど……」


“時間の無駄”


“意味無い”


“また同じ無双になるだけ。それよりも上のダンジョンに行くべき”


「な、なるほど……それなら神田ダンジョンが無難ですかね……?」


 火花は数ある選択肢の中から神田ダンジョンに行く事を決める。それから締めの挨拶をして配信をサクッと終える。


 こうして二回目の配信は無事に終了するのだった。そして次に行くダンジョンも無事に決定するのだった。

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