第26話 ナナカとカフェ
「それじゃあお待ちかねのドロップアイテムを見ていきましょうか!」
ついに視聴者が初の1万人を超えた火花のダンジョン配信。その事に彼のテンションも自然と上がる。
そして火花はマミーライオンがいた所に残されているドロップアイテムを確認する。そこには魔石と包帯の巻かれた杖が置かれていた。杖の上部はライオンの前脚の形を模している。
「えーと、マミーライオンの前脚の杖……ですね。俺、あんまりドロップアイテムには詳しく無いんでさよね。知ってる方いらっしゃいますか?」
火花はダンジョン配信をよく見る。そのためドロップアイテムを見る機会は多い。しかしボスドロップについてはそれ程多く無いのだ。
多くのダンジョン配信者たちはボスを討伐したら、次のダンジョンへと移ってしまう。同じダンジョンばかり潜っていると視聴者に飽きられてしまうからだ。そのためボスドロップを視聴者たちが見る機会というのはそれ程多く無い。
“知らん”
“俺らが知ってる訳ねーだろw”
“その辺りはポンコツなぶるすと”
“有識者出てこーい!”
“呼んだ?(゚∀゚)”
“絶対にお前では無いww”
“それはマミーライオンの杖だと思います。魔力を込めると足元から包帯が現れます”
“名前そのままかww”
もしかしたらドロップアイテムについて知っている人がいるかもしれないと聞いてみた火花だったが、本当に知っている人物がいた様だ。
「おぉ! ありがとうございます! それで杖から包帯が出て来てどうなるんですか⁉︎」
“えっと……それだけです……”
“草”
“ww”
“包帯出てくるだけかい!”
“ブルストの顔が捨てられた子犬みたいになっとるww”
“ワロタ”
“どんまい!”
火花はその人物に詳細を尋ねたが、帰って来たのは悲しい答えだった。マミーライオンの杖は包帯を出せるだけであった。ただ一応、分類上はマジックアイテムという扱いになる。どんなに使える魔法がショボくても魔法さえ出ればマジックアイテムなのだ。
また実用性は皆無だが、レアドロップではあるためマジックアイテムのコレクターなどには人気の品でもある。使っても危険性が無いというのも大きい。
「さ、ボスも倒したし帰りましょうか!」
火花はドロップアイテムの事は一旦忘れる事にした。そして地上への帰還を宣言する。これで地上へと戻れば神田ダンジョンを正式に踏破した事になる。
火花は帰還の魔法陣が現れるのを待って、それに乗る。そしてあっという間に地上へと戻ってくる。入り口の脇へと転移させられる。そして受付へと向かう。
「神田ダンジョンの踏破おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
受付の職員に祝いの言葉を貰った後、火花は探索者カードを彼へと手渡す。それを受け取った職員は手早く機会に通して、踏破情報を書き加える。それからカードをすぐに火花へと返す。
「これで無事に神田ダンジョン踏破しました! 次はどこのダンジョンに行きましょうか?」
“おめでとう!”
“おめでとうございます!”
“神田ダンジョン踏破おめでとー!”
“おぉ、ついに上級ダンジョンへ進出か!”
“いよいよブルストの本気が見れるな”
“東京駅ダンジョンに突撃だー!”
“鎌倉だろ”
“町田ダンジョンしかねー!”
“やはりここは浦和ダンジョンじゃないか?”
「みなさん、ありがとうございます。鎌倉ダンジョンはちょっと興味あります! ただちょっと遠いかなぁ」
火花の場合は大抵が放課後での配信となる。学校のある虎ノ門から鎌倉までは電車で一時間ちょっと掛かる。帰りの時間まで考えると配信をするための時間がかなり限られてしまう。
「うーん……難しい問題ですよね。しばらく考えます! もしオススメのダンジョンがあれば動画のコメント板か、SNSの方で教えて下さい!」
火花はとりあえず保留を選択する。まだ護衛依頼が残っている上に武器問題も解決していない。そのため慌てて次に入るダンジョンを決める必要は無い。
「それでは今日の配信はここまでにします。もし良かったら高評価とチャンネル登録お願いします! ありがとうございましたー!」
最後に締めの挨拶をして配信を終了する。フロートカメラの電源を落として脇に抱える。
そのまま神田駅に隣接している探索者用の更衣室へと入る。そこでシャワーを浴びて汗を流す。さっぱりした火花は制服を着る。ポケットからスマホを取り出すとそこには一通のメッセージが届いていた。
「ええと……ナナカさんからか」
チャットの送り主はナナカであった。時間は一時間ほど前である。火花はメッセージを開封する。
『やっほー! もし時間あったらお茶しよ〜』
そんなメッセージと共に喫茶店のURLが貼られていた。場所は神田駅から少し離れた喫茶店であった。駅前にもいっぱい喫茶店はあるのに離れた場所を選んでいる。それは駅前でウロウロしていると目立つからだろう。彼女は人気配信者で元アイドルだ。
火花はそれに『まだお時間大丈夫でしたらぜひ!』と返信をする。まだ彼女が喫茶店にいるか分からないから先に確認したのだ。
するとすぐに返信が届く。
『やたー! 待ってる〜』
どうやらナナカはまだ喫茶店にいる様だった。火花は地図を見ながら喫茶店のある方向へと向かっていく。
しばらく進んでいくと、それらしき喫茶店が見えて来る。昔ながらのナポリタンとかが出て来そうな喫茶店である。掠れた看板が良い味を出している。
火花は喫茶店のドアを開ける。カランコロンとベルの音がする。中はレトロな作りで、奥には革張りのソファが置いてある。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
「えっと……待ち合わせをしてるんですけど……」
そう言って火花は店内を見渡す。すると真ん中辺りに座っている女性がこちらに向けて手を振っていた。黒髪のメガネの女性である。見覚えの無い姿に一瞬、火花は混乱する。しかしよく見るとそれはナナカであった。
火花は彼女の席へと近付いて行く。そしてナナカへと話し掛ける。
「ビックリしました。最初は誰か分からなかったですよ」
「えへへ、街でのんびりする時はいつも変装してるんだ〜」
「なるほど。有名人は大変ですね」
火花はそう言ってから席に座る。ナナカがメニューを開いて見せてくれる。それに彼はお礼を言う。メニューの中からアイスコーヒーとクロワッサンを注文する。
「そうだ! 神田ダンジョンの踏破おめでとう!」
「ありがとうございます。もしかして見ててくれたんですか?」
「うん、途中からね。私は40階層までで切り上げたから」
ナナカは30階層から40階層まで攻略して配信を切り上げた様だ。そこからこの喫茶店に来て火花の配信を見ていたのだろう。
「ナナカさんも進みましたね。踏破までもうすぐじゃないですか」
「そうだね。ボスのマミーライオンも私と相性良いし」
「花魔法ですよね」
ナナカは希少魔法の一つである花魔法を使う。その名の通り花を生み出したり、操ったりする魔法だ。彼女はその中でも向日葵をモチーフにした魔法をよく使う。
向日葵を使った魔法には光や炎系統の力も僅かに含まれる。サンフラワーという名前は伊達では無い。そのため炎に弱いマミーライオンとは相性が良いのだ。これは偶然ではなく、ナナカは事前にダンジョンについて調べて自分と相性の良い場所を選んでいるのだ。
むしろそういったタイプの方が多数派だ。特に都心はダンジョンが多い。その分、自分に有利なダンジョンを選びやすい。火花の様に何も気にせずに挑むのはバカのする事である。
「うん。攻撃力はそんなに高く無いんだけど、応用力はそれなりにあるからダンジョンでは便利だよ」
「確かに。攻撃に、防御、回復、足止めとか色々やってますよね」
「ホントに私のチャンネル見ててくれてるんだ〜」
火花の言葉にナナカは喜ぶ。少し頬を赤らめている。嬉しさと同時に自分の配信を見られている恥ずかしさもあるのだろう。
「俺もナナカさんのファンですからね」
「嬉しいな〜。実はね、そんなナナカファンの火花くんにお願いがあるんだけど……」
「何でしょう?」
「良かったら今度、コラボ配信しない?」
ナナカはにっこりしながらそう言うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます