第27話 ナナカの提案


「良かったら今度、コラボ配信しない?」


「コラボ配信……ですか?」


 火花はナナカから持ちかけられた提案に驚く。ナナカは基本的に男性とのコラボをしない。それは彼女のファン層にガチ恋勢であるユニコーンがいるからだ。


 ユニコーンはかなり過激で、コラボで無くとも動画に男性が映り込むだけで騒いだりする。実際に火花のSNSにもユニコーンからと思われる誹謗中傷が届いている。ただ当の本人は「俺も有名になっちまったな」などと呑気なことを言っている。


「それってさっき言ってたダンジョン攻略を一緒にやる感じですか?」


 今日、神田ダンジョンを探索する前に火花はダンジョン攻略を一緒にしないかと彼女に誘われた。その時は神田ダンジョン踏破を優先したかったため誘いを断っている。


「ううん。ダンジョン攻略もいつかは一緒にしたいな〜って思うけど今回は別!」


 ナナカとしてはいつか火花と一緒にダンジョン攻略をしたかった。ナナカとしては彼の技術にいち探索者として興味があったし、同年代で自分以上に強い人間と出会った事が無かったためかなり気になっている。


 また命を助けられたというのも大きなプラスとなっている。変なことをされないという安心感があるのだ。ナナカは美人である。ナンパやそういった誘いなども多く、男性と一緒に行動する際には相手をしっかりと選ぶ必要があった。そういう意味では火花は信用できる相手だった。


 そんな気持ちが大きいナナカであったが、ダンジョン攻略を一緒にやっていく事に関してはそこまで慌てていなかった。


「ならコラボ配信って何をするんですか?」


「ふふふ、それはね〜、私のやってるお料理企画の回に出てもらおもうと思って!」


「お、お料理企画……?」


 予想外の切り込みに火花は思わずそのまま聞き返してしまう。まさかそんな話が出て来るとは思っていなかったのだ。


「うん。定期的にお料理配信してるんだよね。料理といってもほとんどはスイーツなんだけど」


「そうなんですね。知らなかったです」


「えー、火花くんは見てくれて無いんだね〜?」


「うぐ……み、見ておきます」


 ナナカは甘い物が好きなため定期的にスイーツ作りを配信している。これは視聴者たちにも好評で、作って欲しいスイーツのリクエストが送られて来るほどだ。


 ただもちろん火花はそんな事は知らない。彼が見ているのはダンジョン配信のみだ。ナナカの動画もダンジョン配信以外見ていない。


 ナナカはそれを予想していた様で頬を膨らませながら軽く抗議する。プイッと拗ねた様に顔を横に向ける辺りはあざとい。アイドルとして自分の魅せ方を分かっている人間の動きだ。


「それに火花くんと泡猫さんを招待しようと思って! 私の作ったスイーツを二人に食べてもらうの。それなら少しはお礼になるかな〜って」


「おぉ! 金剛院さんも呼ぶんですね! 確かに良いかもしれないです」


 火花だけを配信に呼べばユニコーンたちが騒ぎ出す。泡猫は配信活動をしていないため、火花だけが呼ばれてもおかしくは無いのだが、それで納得しないのがガチ恋勢である。


 そこでナナカはまず二人共を自分の配信に呼んでお礼をしようと考えたのだ。そうやって段階を踏めばいずれ火花だけを呼んだりするのにも抵抗は減るだろう。


 そんなナナカの考えなどつゆ知らず、泡猫の名前が出てテンションが上がっている火花。ナナカからコラボを持ち掛けられた時よりもテンションが上がっている。


「なら火花くんも参加してくれるって事でおっけー?」


「はい! でもどんなスイーツを作るんですか?」


「もう! それは秘密に決まってるでしょ! 当日までのお楽しみ〜」


「なるほど……」


 火花のバカな質問にナナカがプリプリする。事前に教えてはつまらないに決まっている。配信者なら特にそうである。


「泡猫さんには探索者協会を通して声を掛けておくから。日程とかの希望はある?」


「えーと……今受けてる依頼が二週間くらい掛かるので、その後の方が良いですね」


「雑談配信で言ってたやつだね! ならもう少し先だね」


 ナナカは火花からの要望に頷く。どちらにしろ泡猫にはまだ声も掛けていない状態だ。ここで焦って二人だけ予定を決めてしまっても仕方がない。


「それで、依頼は順調なの?」


「分かりません」


「えぇ……どんな依頼なの? もちろん話せる範囲で答えてくれれば良いよ」


 ナナカとしても探索者に持ち込まれる依頼に守秘義務があるのは分かっている。そのためざっくりとだけ確認してみる。


「護衛依頼ですよ」


「あぁー……それは分かりにくそう……」


 護衛が順調に進んでいるかどうか。それを答えるのはなかなか難しい。モンスターを倒すとか、素材を集めるとかいった単純なものでは無いからだ。ナナカもそれを聞いて火花のリアクションに納得する。


「でも一回は撃退したんで、大きな失敗とかはしてないも思います」


「えぇ⁉︎ もしかして襲撃されたの⁉︎」


「あはは、襲撃って言ってもただの狙撃ですよ」


「狙撃の時点で激ヤバだよ! どんな依頼受けてるの⁉︎」


 襲撃を受けたと聞いてナナカは驚く。護衛依頼の中には、ある程度の地位の人間がポーズとして護衛を雇うといったパターンもある。火花のランクはまだ低いため、護衛依頼といってもそういった危険度の低いものだとナナカは思っていた。


 しかし狙撃されたと聞いて、火花がかなり危険な依頼を受けている事に気付く。そのため火花のことが心配になるナナカ。


 ただ狙撃手が魔力を使って襲撃してくるタイプでは無かった。そのため火花としては楽な相手だと思っていた。また呉景たちからの情報で本命は元探索者の殺し屋だと知っている。言うなれば狙撃手は前菜的なものである。


「ま、本番はこれからだし、気合いはバッチリですよ!」


「本番て何……⁉︎」


 火花の言葉にナナカは戦慄する。これから先に襲撃があると言っている様なものだ。彼女でなくともそんな話を聞けば驚くだろう。


「絶対に危ないやつじゃん! 今すぐ辞めた方が良いよ!」


「まー、大丈夫ですよ。それに刀を買うためのお金も貯めないといけないですし」


「そっか……だから木刀使ってるんだもんね。配信の方は収益化しないの?」


「申請中ですね。何しろ配信始めてまだ一週間も経ってないですし……」


 火花のお金が無いと聞いて、ナナカは動画配信の収益化について確認して来る。しかし火花は動画配信を始めてまだ一週間も経っていない。そのため申請をしたのも数日前の話だ。申請が通るまでにはもう少し時間が掛かるだろう。


「そっか……なんか火花くんって強いからもっと前から活動してるイメージあるけど、新人さんだもんね」


「そう言ってもらえると自信が持てます」


「というか今やってる依頼をクリアしたらDランクなんだよね。そうしたら私と同じだね!」


「ナナカさんもランク上げるの結構早いですよね」


 Dランクは最短の高一で探索者になったとして、高校卒業くらいまでに取れるであろう難易度だ。それを考えると高二になったばかりのナナカも早いペースでランクを上げていると言える。


「頑張ってるからね〜。とは言ってもCランクはまだまだ遠そうだよー」


「Cランクにはどうやって上がるんでしたっけ?」


「何で知らないの……Cランクに上がるにはいくつかの依頼をクリアする事だよ」


 探索者としてランクを上げるのにはただダンジョンをクリアしていけば良いという訳では無い。依頼をこなして力以外のものも身につける必要がある。ただ力が強いだけではモンスターと変わらない。Cランクからは中堅と呼ばれるクラスになるので、そういった対応力は必要不可欠だ。


「でもナナカさんはダンジョン優先してますよね? 依頼をやらなくて良いんですか?」


「まずは中級をしっかりと回れる様になってからかな。それくらいの力が無いと依頼を受けても失敗するだけだと思うし」


「なるほど……しっかりと考えてるんですね……」


「えっと……火花くんが考えて無さ過ぎるだけど思うよ……」


「うぐ……」


 ナナカからの攻撃にダメージを受ける火花。彼女の言う通り火花が呑気過ぎるだけである。そうでなければ木刀でダンジョンに挑んだりはしない。


「ま、まぁ……お互いランクアップに向けて頑張っていきましょう!」


「ふふふ……最後、すごい強引にまとめたね」


 火花の雑なまとめに思わず笑ってしまうナナカ。こうして二人の楽しいティータイムは終わるのだった。

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