第20話 初の雑談配信下


「木刀です! これ、小学生の時に林間学校で行った日光で買ったお土産なんですよね。とりあえず本物の刀が手に入るまではコレで行きます!」


“待て待て待て……!”


“素人でもそんな発想しねーわ!”


“ダンジョン舐めすぎだろ!”


“それはマジで死ぬから”


“次回、ブルスト死す!”


“ダンジョンに木刀で挑んだ勇者として俺らの中にブルストは永遠に生き続ける”


 火花が木刀で戦う宣言をするとコメント欄から心配の声や、正気か確認する声が増える。それだけダンジョンに木刀で挑むというのは無謀な事なのだろう。それが下級ダンジョンならともかく彼が挑むのは少なくとも中級ダンジョンだ。


「まーまー、聞いて下さい。何もこれをメインで戦おうとしてる訳じゃ無いんです。メインは銃の方に変えて、サブで木刀って感じです。それなら問題無いでしょ?」


“問題しかない”


“どっちも変わらん”


“結局、木刀使うんじゃねーか!”


“木刀使う時点でダメなのよ”


“こいつ、イカれてやがる……”


 火花は学校で今回の木刀作戦を思いついた。そこで雑談配信に間に合うよう母親にチャットで連絡して、タンスにしまってあった木刀を探しておいてもらったのだ。


 火花は実家暮らしである。本当は配信活動をするのに一人暮らしの方が良かったのだが、お金が無かったのだ。そこで今後はお金が貯まったら実家を出て行こうと考えている。


 火花の両親は割りと放任主義なので、成績をしっかりと取れていれば説得はそれほど難しく無い。また火花が幼い頃からダンジョン配信者になると言い続けているので、その辺りは諦めているとも言える。


「それに銃の扱いに関しても訓練したいと思ってたんですよね。今まで雰囲気で使ってただけだったんで」


“雰囲気て……”


“訓練してから実践が基本です”


“皆さん、この男のマネはしないようにしましょう”


“なら刀の訓練はしてたのか”


“銃ってダンジョンだと不遇のイメージあるけど”


“バカ、SSにやべー銃使いがいるだろ”


「刀については訓練してました! 中二までは元探索者の開いてた道場に通ってましたし、そこを辞めてからはダンジョン配信者とか元探索者の映像なんかを参考に自己流で勉強してました」


 火花は刀について全くの素人という訳では無い。きちんと小学生の頃から中学二年生まで道場に通っていた。中二でそこを辞めているのは探索者になるまでに自分のスタイルを確立する必要があると考えたからだ。そこで習った剣術をベースに様々なところから使えそうな技術を拾って来ている。


 もちろんそれが上手く機能しているのは火花の才能があるからこそなのだが、かなりの努力をしているのは事実だ。


“こう聞くとブルストはずっと努力してた感じなんだな”


“完全天才肌タイプかと思ってたわ”


“魔力のコントロールの訓練とか地味な上に辛いせいで現役の探索者でもサボってるのにな”


“でも天才なのには変わらない”


“天才が努力した手に負えないパターンか”


“努力×天才=ブルスト”


「いやー、みんな俺のこと過大評価し過ぎじゃないですか?」


 気付かない内に自身の評価が鰻登りしている事に少し火花は慌てる。まだ彼が攻略しているのは中級ダンジョンだ。彼の強さの真価が問われるのはもう少し先になるだろう。そのため今の時点であまり持ち上げられるのはマズいと火花は考えた。


“いやそれは無い”


“諦めろ”


“期待しまくりだから”


“目立ちたがりが何言ってやがる”


“てかスタイリッシュなら何でダンジョン配信なんだ? 戦舞でも良く無いか?”


“それは確かに”


“俺も思ってたわ”


「確かに戦舞も面白そうですよね」


 自身の評価を下方修正するのに失敗した火花はコメント欄から別の話題を拾う。それは魅せる戦いをするならダンジョン配信ではなく、戦舞の方が最適ではないかという質問だった。


「対人戦も悪くないんですけど、やっぱりドラゴンとか強いモンスター相手の方が面白そうというか……この辺りはフィーリングの問題ですね」


“それは間違いない”


“子供か!”


“思ってたよりシンプルな理由だな”


“それなら今後、戦舞に挑戦もありじゃね?”


“探索者にとってそういうフィーリングって意外と大事よ”


“ドラゴン狩り宣言いただきました”


 戦舞は安全が確立されたスポーツである。一方で探索者は命懸けの戦いである。その違いも大きい。火花としては命懸けの戦いの方が、よりスリルのある配信を出来ると考えていた。そんな戦いを華麗に制する事が最もスタイリッシュなのではないかと。


 ただ戦舞者は探索者と違い見栄えも重視する。戦舞者専用のコスチュームや、武器のデザインが凝っていたりする。そういう面では火花も興味があった。


「他に何か質問ありますかー?」


 とりあえず話に一区切り付いた所でもう一度質問について確認する。これで何も出なければそろそろ配信を終わろうかと考えていた。しかしそれは失策であった。


“ナナカちゃん”


“まだナナカちゃんとの関係を語ってないぞ”


“ナナカをお持ち帰りした?”


“まさか俺らのナナカちゃんと仲良くなったりしてねーよな?”


“ナナカちゃん可愛かった?”


 あっという間にコメント欄がナナカ関連のコメントで埋め尽くされる。ここまで同じ質問が増えると流石にスルーする事は出来ない。


 火花は自分の失敗に気付いたものの、今さらどうする事も出来ない。馬鹿正直にナナカとあれからずっとチャットしてます、なんて言う訳にもいかない。そんな事をすればナナカにも迷惑が掛かってしまう。そこでとりあえず簡単に答える事にした。


「すっごい感謝されました!」


“そりゃそうだろww”


“アホな回答で草”


“ナナカがZでブルストをフォローしてたぞ”


“連絡先交換したのか⁉︎”


“白状しろーー!!!”


“これは嘘の味がするぜ”


「え? 俺のZのアカウントフォローされてるんですか?」


 動画チャンネルがお気に入り登録された事は本人から聞かされて知っていた。しかしSNSの方までフォローされているとは火花は思っていなかった。


 スマホをポケットから取り出して自分のZの画面を開く。そしてフォロワーのリストからナナカの名前を探す。


“今探してやがるww”


“知らなかったんかい!”


“演技乙”


“これは脈なしですね”


“ナナカはがっかり、ユニコーンはにっこり”


“ブルストは意外に天然なのか?”


“戦闘力が天元突破してるから、それ以外はうんこやで”


“ひどい言われようで草”


「あ、これか。俺もフォローしておいた方が良いか……」


 ナナカのZアカウントを見つけた火花はそれをフォローする。たまたまZアカウントフォローの件を知らなかった事が良い方向に転がった。ほとんどの視聴者たちは火花とナナカの間には何も無かったと判断した様だ。


“にしても戦闘時と普段のギャップが凄いな”


“戦闘力以外たったの5か……ゴミめ……”


“戦い方はオラオラ系なのに、会話してる時はそんな感じじゃないな”


 するとコメント欄にナナカに関する事以外の話題が再び上がり始める。火花はそちらの話題に便乗する事にする。これ以上、ナナカについて深く突っ込まれるとボロを出す可能性があるからだ。


「戦ってる時は少し性格が変わりますね。ちょっと強気になります。そうじゃないと上手く攻められないですから。スイッチを切り替える感じです!」


“バーサーカースイッチか”


“それを言うならオサレスイッチ”


“オサレスイッチww”


“採用だな”


“決定しました”


“オサレスイッチいいな”


「勝手に変な名前を付けないでくださいよ……」


 火花は視聴者たちに抗議するものの、この決定が覆る事は無いだろう。これから火花が戦闘モードに切り替わる時は「オサレスイッチ」と呼ばれる事が確定した。


「えーと、質問はこれくらいですかね……それじゃあ今日の配信はここまでにしようと思います。今後のスケジュールについてはSNSで告知を行なっていく予定なので、よかったらそちらもフォローお願いします。それではみなさん、ありがとうございました!」


“注目しとくわー”


“お疲れ〜”


“意外と雑談おもろかった”


“今後も雑談定期配信してくれ”


“お疲れさまでしたー”


 こうして火花の初の雑談配信は無事(?)に終了した。最終的に視聴者の数は8000人を超えていたのだった。

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