第3話 末広町ダンジョン上


 放課後。


 授業が終わったタイミングで火花はすぐに学校を出た。そして末広町ダンジョンを目指す。電車に乗ったタイミングでSNSでの告知も入れておく。


 虎ノ門駅も末広町駅も同じ銀座線上にあるため移動は簡単だ。時間も15分程度である。


 あっという間に末広町駅まで着いた火花は改札を出る。そして改札のすぐ横にある更衣室へと入る。ダンジョン探索者たち専用の更衣室である。シャワーとコインロッカーも付いており、近くにダンジョンがある駅ではこういった設備が整えられている。


 探索者用の装備に切り替えた火花は更衣室を出る。その際に学校の荷物はコインロッカーへと預けておく。それからダンジョンがある方へと向かう。


 ダンジョンに着くと受付にいる人に探索者カードを提示する。このダンジョンに来るのは初心者や若い人間が多いため受付も丁寧に対応してくれる。火花も「頑張って下さいね」と軽く声を掛けられた。


「よし、昨日ぶりのダンジョンだ。それじゃあ早速配信の準備をして……」


 ダンジョンの中に入ってからは他の人たちが入って来る邪魔にならない様に端へと移動する。それからフロートカメラを起動して配信の準備を行う。


 フロートカメラを配信モードに切り替える。デバイスが浮き上がったのを確認してスマートウォッチの方へと視線を向ける。そしてきちんと配信がされているのを確認する。


「皆さん、こんにちは。ブルーストリークです。今日は末広町ダンジョンを一気に攻略していきたいと思います!」


 カメラに向かって火花はダンジョン踏破を宣言する。朝に琢磨と決めたスタイルで行く事にした様だった。すると早速コメント欄に動きがあった。


“よぉ、見に来てやったぜー”


“マジで配信してんじゃん”


“気をつけろよなー”


 視聴者数は6人となっている。恐らく琢磨やSNS告知を見たリア友たちだろう。知人とは言え誰かに見られていると思うと火花はテンションが上がった。


「とりあえず探索をスタートします!」


 そう言うのと同時に火花は駆け出す。それは昨日と同じ様に初心者とは思えない様なスピードであった。


“はやっ⁉︎”


“えぇー……あいつってこんなに運動できるタイプだったのか……”


“初っ端から全力出しすぎだろ!”


“スタミナ切れには気をつけろよなー”


「ありがとうございます。安全第一で行きます!」


 フロートカメラの方も何とか遅れずに火花に着いていく。彼が機材代をケチらずに良いものを買ったため性能が高いのだ。少し前の世代のものだったら火花に追いつく事は不可能だっただろう。


「「「グギャギャ!」」」


 すると前方からゴブリンが三体やって来る。このダンジョンの一階層にゴブリンしか出ないのは昨日の調査から分かっていた。しかもゴブリンたちは特殊な技能も持っていないので、簡単に倒せる。


「ふっ……!」


 火花は身体の力を一瞬抜いてから飛び上がる。そのまま空中で前転する様に回転する。頭が丁度下に来たタイミングでゴブリンたちとすれ違う。


 その瞬間、彼は目にも止まらぬ速度で抜刀する。ライトブルーの閃光が奔ってゴブリンたちの首を一瞬で斬り落とす。そのまま一回転してゴブリンたちがいた場所よりも奥で華麗に着地する。それと同時に納刀する。静かな空間に刀が納まるカチンという音だけが響く。


“は……?”


“な、何が起きたんだ……⁉︎”


“何か水色の光が出てたけど魔法か……⁉︎”


“拡散してくるわ”


 ダンジョン探索者になっばかりの火花が予想外の動きを見せた事で驚くリア友たち。中にはすぐに自らのSNSで拡散するものもいた。


 しかし火花の方はそのコメントに気付かず再び走り始める。一階層に出てくるゴブリンとの戦いに需要は無いと思っているためコメント欄を確認しなかったのだ。


 そのまますぐに下の階層へと向かう階段に辿り着く。


「それではいよいよ下の階層へと降りていきます」


 一応、立ち止まって最低限の報告をしてから火花は階段を降りる。ダンジョンを降りるのは彼にとって初めての事だったが、特に何の感想も思い浮かばなかった。


「変わり映えしないですね……とりあえずこの階層もサクッとクリアしちゃいたいと思います」


 そう言って火花は走るのを再開する。


“うおっ、ホントにはえーな!”


“俺らと同い年とかマジ?”


“探索者の講習受けてる途中だけど、絶対にこんなやり方できない気がするわ”


 すると僅かだが視聴者が増えており、コメントが流れてくる。SNSで拡散した効果だろう。火花の配信を見ているその殆どが高校生であった。


「……ん? ゴブリンじゃないな」


 ついにゴブリン以外のモンスターの気配を感じ取った火花。そこで立ち止まって様子を見る事にする。すると少し先の暗がりからゴブリンと同じ様なサイズ感のモンスターが三体出てくる。


「「「フゥゥ……!」」」


 よく見ると顔が犬に近い作りをしている。火花はそれを見てコボルトだろうとあたりをつける。コボルトもゴブリンと並んでダンジョンの序盤によく出てくるモンスターだ。こちらはゴブリンの棍棒とは違い牙で攻撃してくるが、それ以外の特徴は無い。


「コボルトですね。倒します」


 同じ戦い方だと視聴者がつまらないだろうと考えた火花は刀ではなく、ホルスターに収まっている拳銃を抜く。これは火薬による弾丸を射出する拳銃ではなく、使用者の魔力を打ち出す拳銃である。


 シルバーの銃身をコボルトへと向けて、トリガーを引く。すると銃の先端辺りから水色の光が奔る。そしてバシュッという音と共に魔力弾が射出される。


「ワヴッ……⁉︎」


 それは見事にコボルトの眉間を捉える。そしてあっさりと倒れる。これで残りは二体となった。コボルトたちは仲間がやられた事で慌てて散ろうとするが、火花はそれを許さない。


 バシュバシュ、と二発分の魔力弾が射出され先ほどと同じ様にコボルトはあっさりと倒されてしまう。


「えーと、コボルト倒しました……」


 ゴブリンに引き続きコボルトまで瞬殺してしまった火花。それに何となく気まずさを感じながらもドロップアイテムを確認するために敵がいた場所へと近付いていく。


“強すぎだろw”


“もしかして俺ら割りとすげー瞬間に立ち会ってる?”


“撃つ時の水色の光かっけーな!”


“光魔法とか雷魔法を使ってるのかな?”


 コボルトたちを瞬殺した事で人数は少ないながらもコメント欄が盛り上がる。中には火花の強さを高校生レベルでは無いと感じ取っている者もいる。


「ドロップアイテムは魔石と牙ですね。ゴブリンのよりは高く売れそうな気がします」


 ドロップアイテムは屑魔石とコボルトの牙であった。魔石の値段はゴブリンとほとんど変わらないが、牙の方は棍棒の欠片よりも需要がある。というよりも棍棒の欠片はただのゴミである。


「では攻略を再開します」


 そこから第二階層に関しては同じパターンの繰り返しであった。出現するゴブリンやコボルトを火花があっさりと処理していく。そして次の階層への階段を見つける。


 第三階層へと降りても景色は今まで変わらない。薄暗い石造りの道が続いているだけだ。この階層に出てきた初見の敵はスライムであった。こちらは攻撃力がほぼ無いものの、物理攻撃が効きにくい相手である。ただ魔力の弾丸を放てる火花にしてみたら雑魚である。


“初心者が躓きやすいと言われるスライムもあっさり”


“スライム倒すには魔法攻撃が必須だからなぁ”


“これマジで下級ダンジョン踏破いけんじゃね?”


“初見です。若い方みたいですが、探索者初めてどのくらいなんでしょうか?”


“2日ですww”


“2日目”


 火花が淡々とダンジョンを攻略している間にも、視聴していた高校生たちが拡散を続けたのか視聴者が少しずつ増えていく。それに伴ってコメント欄にもリア友以外の人たちと思わしき書き込みも増える。


 そのままゴブリン、コボルト、スライム相手に無双を続け、勢いそのままに第四階層へと降りる。すると今度はスケルトンが出現する。それを見て火花が立ち止まる。


「今度はスケルトンですね。今までの敵と違ってしっかりと武器を持っています」


 スケルトンは手に剣を持っていた。今まで戦ってきた敵の中では殺傷力の高い武器である。そのため火花も無闇に突っ込まず、一度態勢を整えたのだ。


「それではスケルトンと戦っていきます」


 こうして今度はスケルトンとの戦いが始まるのだった。

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