第17話 学校での反応


 神田ダンジョンでアウトブレイクが起こった翌日。火花はいつも通り登校する。すると周りからどうにも見られている印象があった。


「(うーん、やっぱり昨日の影響だよな)」


 アウトブレイクを解決する際に有名ダンジョン配信者の花宮ナナカを助けている。その影響で火花の動画チャンネルのお気に入り登録者が一晩でかなりの数増加していた。あまりにも通知がうるさくてオフにしたくらいだ。


 周りからの視線もそれと同じだろうと彼は考える。視線をなるべく気にしないようにして自分の教室を目指す。


 扉を開けて中に入るとクラス中の視線が一斉に火花へと向く。それに思わず身体が固まる。彼が思っていたよりも反応が露骨だったからだ。


「よぉ、ヒーロー」


 火花に真っ先に話しかけてきたのは琢磨である。ニヤニヤしながら近づいて来る。それに火花は内心ホッとする。しかしそれを琢磨に悟られないように返事する。


「たまたまだよ。間に合って良かった」


「それでも間違いなくお前はヒーローだよ。ったく、探索者になって三日であの泡猫と協力してアウトブレイク解決に尽力するなんて普通じゃ出来ねーぞ」


「やっぱ金剛院さんって有名なのか……」


 火花はダンジョン配信者については詳しいが、探索者そのものについては詳しく無い。彼が好きなのはダンジョン配信のため、どうしても知識がそちらに偏ってしまうのだ。


 ただ実際にダンジョンに潜るようになり、その考えも少し変わって来ていた。配信が好きなのは変わらないが、探索や戦闘も楽しいと思うようになってきたのだ。自分の力がどこまで通用するのか確かめたいという気持ちも大きい。


「それよりさ、生ナナカちゃんってやっぱり可愛かったか?」


 琢磨が小声でそう確認してくる。彼がナナカファンというのは知っていたので、その質問は絶対に来るだろうと火花も考えていた。


「強かったよ」


「どういう感想だよ! 普通は可愛いとか綺麗とかだろ……」


 火花がナナカに抱いた印象は「強い」というものだった。それは武力の話では無い。精神的なものである。


 死にそうな目に遭いながらも彼女の眼は強い意志を持ったままだった。これからも彼女はダンジョン探索者として前へ進み続けるだろう。その強さに火花は感心したのだ。


 するとそのタイミングでスマホが震える。火花はスマートウォッチの方で通知を確認する。するとそこにはナナカからのメッセージが来ていた。噂をすれば何とやらである。


『学校来たらみんなに凄い心配されちゃったよ〜』


 どうやらナナカはナナカで大変らしかった。平和な文面に火花はついクスッと笑ってしまう。


「どした? ニヤニヤして」


「いや何でも無い」


 そう言って二人は席へと座る。そのタイミングでクラスメイトたちが何人か火花の所へとやって来る。


「蒼森! すげーな、お前」


「昨日の配信すごかったね! 私、ドキドキしちゃった!」


「本物の花宮ナナカに会えるなんて羨ましい!」


「蒼森強すぎだろ! どうやったらそんな強くなれるんだ?」


「オサレ魔法についてもっと教えてくれよ!」


「ナナカちゃんを助けてくれてありがとー!」


 その勢いに火花はたじろぐ。


「うおっ、お前ら一気に来るなよ!」


 それから火花は一人ずつの質問に答えていく。クラスメイトたちはそれを聞いて楽しそうにしている。ここに来て火花もようやく配信者として大きく進歩した事を実感する。昨日は色々起こりすぎて感覚が麻痺していたのだ。


「朝見たけど蒼森のチャンネル、登録者がもう10万人突破してんだな!」


「え? マジで?」


「何で本人が知らないんだよ!」


 火花のチャンネル登録者数はすでに10万人を突破していた。それをクラスメイトから指摘されて彼は初めて知る。通知をオフにしていたため細かい確認をしていなかったのだ。そんな呑気な火花なリアクションにクラスメイトたちが笑う。


「それで次はどこに挑むんだ?」


「いやまだ神田ダンジョン攻略してないし、そこからだって」


「えー、神田はぶっちゃけもう終わった感あるわ。上級ダンジョンにしようぜ〜」


「中途半端は気持ち悪いからな。でもその次は上級ダンジョンも良いかもとは思ってる」


 武憲からのアドバイスを火花は思い出す。彼は火花に上級ダンジョンに挑むべきだと言っていた。


 ただ問題が一つある。それは武器である。現在、火花は金欠状態である。そのため刀を買うお金が無いのだ。


 クラスメイトたちとそんな話をしていると、火花のスマホに今度はメールが送られて来る。見てみるとそれは探索者協会からであった。


「昇進と指名依頼のお知らせ……?」


 火花がそれを口に出して読むとクラスが騒つく。クラスメイトたちの視線が火花に集中する。彼はその圧力に負けてメールを声に出して読んでいく。


「蒼森火花様、先日の神田ダンジョンでの救助活動ありがとうございました。今回の活躍を鑑みて、貴殿のEランク昇格が決定いたしました」


「「「うぉぉぉー!」」」


 火花が読み上げた文面にクラスが湧く。ランクが低いとは言え特例の2ランク昇格だ。盛り上がらないはずが無い。


「また指名依頼が一件、入っております。こちらの依頼を達成した場合、Dランクへと昇格になります。詳細につきましては近くの探索者協会窓口へとお越し下さい」


「もう指名依頼が入ったのか……⁉︎」


「すげー!」


「さらにランクアップとかヤバいな!」


 クラスメイトたちが喜んでいる一方で、当の火花は難しそうな表情をしている。それを見て琢磨が彼に問いかける。


「そんな表情をしてどうしたんだ? 良い話じゃないか」


「いやー……依頼を受けたら配信が滞るだろ?」


「まぁそうかもなぁ。でもランクアップしておいた方が何かと便利だぞ」


「それもそうなんだけどさ……」


 火花としては指名依頼に時間を取られるのが嫌だった様だ。依頼の内容にもよるが、ものによってはその間配信が出来なくなる可能性がある。彼はそれを危惧していた。


 せっかくアウトブレイクの件で、人気が出始めたのにここで足止めを喰らいたく無い。そんな気持ちが火花の中にはあった。


「ま、とりあえず依頼を聞くだけ聞いてみたら? 数日で終わりそうなら問題無いし、場合によっては雑談配信とかで時間を稼ぐのもありだろ?」


「確かにな……」


 火花のチャンネルは急激に登録者を伸ばしている。そのため改めて自身について話す機会を作るのも必要かもしれないと彼も思い始める。


「俺らも学生だし今は無理に毎日配信する必要は無いって。ナナカちゃんだって毎日やってる訳じゃないしな」


「そう言われるとそうだな……」


 ナナカも火花と同じく学生だ。学年は一つ上だが。そんな彼女もダンジョン配信を毎日行なっている訳では無い。


 むしろダンジョン配信を毎日行なっている人物などほとんどいない。そもそもダンジョンを探索するのにはかなりエネルギーと集中力が必要となる。そこにプラスして配信活動まで加われば、かなりの重労働となるだろう。どう考えても毎日行うようなものでは無い。


「よし! とりあえず今日の放課後は探索者協会に行ってランクアップをして、指名依頼について確認してみるわ」


 そう宣言した所で予鈴のチャイムがなる。それを聞いたクラスメイトたちは素直に席へと戻る。そしてしばらくすると一限の授業を担当している教師が入って来る。


「(あ、そうだ。武器はアレがあったんだ……!)」


 立礼をしながら、武器に関して何かを閃いた火花。席に座ってから教師にバレないようにスマホを操作する。


「(これで明日には何とかなるぞ……本命の武器を手に入れるまでの繋ぎにはなるだろ。無駄な出費をする訳にもいかないしな)」


 動画チャンネルの登録者が10万を超えたが、それはつい昨日の事だ。チャンネルの収益化申請などはまだ手付かずだった。スパチャが出来るようになれば、彼の懐事情は変わるかもしれないが、しばらくはそのままだ。


 そんな事を考えながら今後の予定を組み立ていく。こうして火花は授業をあまり聞かずに一日を過ごすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る