第8話 神田ダンジョンへ突入


「凄いですね。もう下級ダンジョンを踏破されたんですね」


「ありがとうございます」


 放課後。火花は神田ダンジョンへとやって来ていた。そして受付に探索者カードを提出した所で係員に驚かれる。


「もう一つ下級ダンジョンを踏破すれば探索者ランクが上がりますが、こちらでよろしいのですか?」


「はい、大丈夫です」


 探索者にはランクが存在する。一番初めの登録したてはGランクとなる。そこから順に上がっていき最高はSSランクとされている。


 そしてGランクから一つ上にあがる条件はただ一つ。二つのダンジョンを踏破する事だ。その事から登録したての探索者たちはまず下級ダンジョン二つを踏破する事を目標とする。


 火花は既に下級ダンジョンを一つ攻略済みである。そのため下級ダンジョンをどこかあと一つクリアすれば探索者ランクが上がるのだ。それなのに火花は等級も、容量も上の中級中型ダンジョンを選んでいる。そのため係員が心配して確認してきたのだろう。


「かしこまりました。無茶だけはしないでくださいね」


「はい。ご心配ありがとうございます」


 火花は係員から返された探索者カードを受け取る。それと同時に頭を下げる。彼としては探索者ランクを上げるよりも配信活動の方が優先順位が高い。


 そしていよいよ神田ダンジョンへと突入する。すると中の景色は末広町ダンジョンとは少し異なっていた。


 通路が続いている迷路形式なのは変わらない。しかし末広町ダンジョンが石畳で薄暗かったの対して、こちらはレンガ造りとなっており、天井にはランプの様なものがぶら下がっている。


「おー、やっぱ配信で見るのと、実際に見るのじゃ違うなぁ」


 火花は時間がある時には様々な探索者たちのダンジョン配信を見ている。そのため知識としては神田ダンジョンがレンガ造りになっているのは知っていた。


 しかしただ配信で見ていた時よりも、実際に見た時の方が迫力はある様に感じた。やはり百聞は一見にしかずという事だろう。


 そこから火花はすぐに配信の準備をする。今回も事前の告知既にはZにて済ませている。チャンネル登録者だけでなく、こちらのフォロワーも地味に増えているのが彼としては嬉しかった。


「皆さん、こんにちは。ブルーストリークです。今日はリクエストにあった神田ダンジョンに来てみました」


 そう言って火花はカメラの目線を自分から外して、ダンジョン内を映していく。


“待機してました!”


“よしきたー!”


“こんちわー”


“本当に神田ダンジョンに来たのか”


“調子に乗って事故配信になるのを期待”


 すると最初からすぐにコメント欄で反応があった。同接の人数はすでに300人となっている。前回のラストよりも多い状態からのスタートだ。


 先日ネットの掲示板にて彼の配信がおすすめされていた。将来有望な若手ダンジョン探索者を見つけるための掲示板である。その影響によるものだろう。火花はそれを知らないため、同接の多さに純粋に驚いている。


「初めて潜るダンジョンですし、のんびり攻略していきたいと思います!」


 そう宣言してから火花はダンジョンを歩き出す。神田ダンジョンはそれなりの規模のダンジョンのため入り口付近は人が多い。そのためモンスターもほとんど出て来る事が無い。


 この前みたいなスピードで走ると他の探索者たちの迷惑になってしまう。そう考えた火花はまずは歩いて進むことにした。


 一階層目は敵に出会う事は無かった。他の探索者たちに狩り尽くされたのだろう。モンスターのリポップには多少の時間が掛かる。火花は残念に思いながらも二階層目へと進む。


 すると今度はすぐにモンスターが出現する。出て来たのはスケルトンだ。


“お、ようやくモンスター登場”


“重役出勤だな”


“ダッシュ攻略見たかったのにな〜”


“スケルトンなら余裕だな”


 スケルトンの登場にコメント欄が盛り上がって来る。火花はホルスターから拳銃を抜いて右手に装備する。そして歩くのは止めずにゆっくりと前へと進んでいく。


「カカカ」


 スケルトンがのんびりと歩いている火花を見て笑い声を上げる。そして剣を振り上げて襲いかかって来る。しかしそれでも火花は歩いて進む事を止めない。


 そのまま火花に向かって剣が振り下ろされる。スケルトンとしては全力の一撃である。しかしその攻撃は彼の魔法障壁にあっさりと弾かれる。


「カ⁉︎」


 火花はそのスケルトンのリアクションも一切気にせずに進む。ただし銃だけはスケルトンへと向ける。トリガーを引いて、魔力弾を撃ち出す。


 魔力弾によりスケルトンはあっさりと倒される。しかし火花はそれを気にせずに進んでいく。


 それから火花は四階層まで歩きながらモンスターを倒していく。一度も立ち止まらないでモンスターを倒していくその姿にコメント欄もざわつき始める。


“倒し方草”


“普通に歩きながらモンスター瞬殺w”


“迷宮内なのに散歩してるみたいだな”


“ブルさんぽ”


“ダッシュ攻略も面白いけど、散歩攻略もおもろい”


 ダッシュしながらのダンジョン探索とはまた違った迫力がそこにはあった。歩みを止めずにモンスターを倒していくには、かなりの実力が必要となる。それを視聴者たちも理解しているのだろう。


「ようやく五階層目ですね。そろそろモンスターが強くなって来るかもしれません」


 火花は呑気な事を言いながら下のフロアへと降りる。そして探索を開始する。そろそろ火花も真面目にダンジョンを攻略するつもりであった。


 歩きながら敵を倒していたのには、他の探索者の迷惑にならないためという以外にも理由があった。それは初見の視聴者に分かりやすく自分の実力を示すためであった。それに充分な反応があった事を確信したので、彼は普通に攻略するのを再開する。


「さてと、そろそろダンジョン探索を始めたいと思います」


“今までもダンジョン探索してただろww”


“五階層までの攻略が無かった事になってて草”


“余裕だな〜”


“これでまだ探索者になって三日目という恐ろしさ”


 コメント欄とそんなやりとりをしていると初見のモンスターが現れる。それは子犬くらいのサイズはあろうかという蜂であった。ビッグビーと呼ばれるモンスターである。それが三体出現する。


「ビッグビーですね。毒を持っているのが特徴です。ネットに載ってました」


 ビッグビーと遭遇するのはこれが初めてである。そのため軽い解説を入れる。といってもネット知識のため大した情報では無い。


「いきます!」


 そう言って火花は加速する。一瞬でビッグビーに近付くと刀を抜いてそのまま斬り倒す。エフェクト魔法で刀が抜ける際に青い光を出すのも忘れない。三体のビッグビーが一撃で消滅する。


“瞬殺キター!”


“出ましたオサレ魔法”


“カッコ良すぎるww”


“ビッグビーは動きが素早いから初心者にとってかなりの強敵になるはずなんだけどなぁ”


“強すぎだろww”


“どうやったらあんなスピードが出るんだ?”


「えーと、倒しましたので先に進みましょう」


 そこから今度はモンスターの瞬殺を繰り返していく。すると徐々に視聴者の数が増えていく。火花が十階層目へと降りる頃には視聴者は800人を超えていた。


「————という訳でダンジョン配信をずっとやってみたかったんですよ」


 火花は視聴者が増えて来たので、自分がダンジョン配信者になった理由を説明する。幼い頃からダンジョン配信が好きだった事と、自らの魔法が配信映えする事などだ。


『ぬぅううううーーん⁉︎』


 そんな雑談しながら十階層目を歩いていると突然、叫び声が聞こえてきた。それにより火花が立ち止まる。


「悲鳴みたいのが聞こえて来ました! 行ってみましょう!」


“まさか美少女か!”


“神田ダンジョンだから花宮ナナカの可能性もワンチャン……”


“いやどう考えてもオッサンの声だったろ”


“あの野太い声がナナカの訳あるかww”


“おっさんだしほっとけ”


「いやいや流石に放っておけないですよ。とりあえず行ってみましょう!」


 ダンジョン内でのハプニングにコメント欄が盛り上がる。火花のダンジョン攻略も面白かったが、やはりどこか淡々とした雰囲気ではあった。そのため視聴者たちとしてはこういったハプニングは大歓迎であった。


 火花は走って悲鳴がした方へと向かう。そして少し進んでいくと悲鳴を上げたであろう人物とモンスターたちが見えて来た。


「ふんぬぅーー!」


 そこにはスライム系のモンスターと戦う男性の姿があった。四十代くらいだろうか。オールバックの黒髪で口周りには髭が生えている。上半身は裸でムキムキボディである。そしてその身体は何故かヌルヌルとテカっていた。


「ほ、放送事故だー!!」


 思わず火花はそう叫んでしまった。

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