第19話 初の雑談配信上


「鹿島先輩か……」


 探索者協会から家に帰って来た火花。今日は神田ダンジョンを探索する気になれず、そのまま帰って来たのだ。


 その理由は二つだ。一つ目は単純に刀が無いというものだ。メインウェポンが欠けている状態でわざわざダンジョンに挑もうとは流石の火花も思わない。


 そしてもう一つは先ほど受けた護衛依頼について気になっているからだ。護衛対象の鹿島蘭は先日、火花に食堂で話しかけて来た少女である。火花としては彼女に悪い印象は持っておらず、そんな人物に護衛が必要と聞いて色々と考えてしまっていたのだ。


「まぁ、明日にでも聞いてみるか」


 こればっかりは一人で考えていても結論が出るものでは無い。そのため明日、学校に行ったら彼女に直接聞いてみようと思っていた。彼女の所属するクラスについては職員から既に聞いている。


「とりあえず今日は雑談配信かな……」


 火花は学校で琢磨からアドバイスされた通り、雑談配信を行おうと考えていた。チャンネル登録者が急激に増えたため、改めて自分のことについて説明しようと思っていた。


 火花はフロートカメラを起動して、配信の準備に入る。部屋の片付けは既にしてある。というよりもいずれ雑談配信をするつもりだったので準備してあったのだ。


「それじゃあ始めますか……」


 火花は配信のスイッチをオンにする。するとすぐに配信が開始される。


“はじまた”


“待機してた”


“こんぶるー”


“こんぶる!”


“待ってたぜ、ブルストー!”


 すると早速、いくつかコメントが表示される。帰りの電車にZにて雑談配信の告知は行っていた。そのため待機勢がいた様だ。


「皆さん、こんにちは。ブルーストリークです。今日は雑談配信をしていきたいと思います!」


 火花は雑談配信を宣言する。コメントの方もそれを受け入れる流れになっている。視聴者の数は3000人を超えている。今までとは比べ物にならない数である。


「まずは初めての人も多いから自己紹介した方が良いですかね。俺はブルーストリークという名前でダンジョン配信活動をやってる探索者です。高校一年生で今週から探索者になったばかりの新参者です」


“あだ名はぶるすとな”


“高一はマジで年齢詐称すぎるww”


“本当に探索者になったばかりなんですか?”


“よ、ブルスト!”


“それであの実力はヤバすぎる”


 全体的に火花が高一で探索者に成り立てというのが、あまり信じられていない様だった。それは無理もないだろう。探索者になって三日でジャイアントミノタウロスと互角以上に戦えるなど普通に考えたらありえない。


「本当に高一ですよ。というかブルスト呼びはすっかり定着しちゃった感があるなぁ……」


 火花としては年齢詐称を疑われる事よりもあだ名がブルストになっている事の方が気になる様だった。「厨二くん」とか「イキリ高一」みたいな変なもので無くて良かったと安心もしているが。


「えーと、あとは……俺の配信は一応スタイリッシュ攻略を目指してます」


“ん?”


“急に謎”


“スタイリッシュとな?”


“まぁ何となく言いたい事は分かる”


“俺たち厨二の星だな”


 火花のスタイリッシュ攻略宣言にコメント欄は納得派と疑問派の二つに綺麗に分かれる。それを見て火花は補足説明を加える。


「詳しく説明すると、俺はエフェクト魔法っていう希少魔法を使えるんですよ。その魔法はカッコいい演出が出来る魔法なんで、それを使ってダンジョン攻略を見栄え良く配信しようって感じです」


“オサレ魔法きた!”


“オサレ魔法最強!”


“それが皆が言ってるオサレ魔法ってやつか……”


“刀抜く時に光ったりするあれ?”


「確かに俺もオサレ魔法って呼んでます。刀抜いたり、走ったりする時に使ってますね。あとこの前、ジャイアントミノタウロスを十字で斬った時の緑色のもそうです」


“十字斬り!”


“秘剣・十字斬り!”


“北辰一刀流・十字斬り!”


“アレはマジ凄かった”


“わざと刀投げて空中でキャッチするのすこ”


“命賭けてカッコつけるとかイカれてるわ、でも好き”


 火花がジャイアントミノタウロスについて触れたせいか、コメント欄も盛り上がり始める。視聴者の数も4000人を超えている。


「簡単ですけど、俺の自己紹介はこんな感じですかね。それでここからは一旦、質問タイムにしようと思います。何か質問がある人はコメント欄にお願いします」


“次のダンジョン配信はいつ⁉︎”


“次は上級ダンジョン行こうぜ!”


“ナナカちゃん可愛かった?”


“ナナカちゃんと連絡先交換した?”


“オサレ魔法以外の魔法は何使えるんですか?”


 いくつもの質問が並ぶ。火花はその中からどれに答えようか考える。全てに答えていたらいくら時間があっても足りないだろう。そのため答える数は絞る必要がある。


「俺の魔法についてですね。使えるのはオサレ魔法と無属性魔法だけですね。なので戦闘には無属性魔法だけで挑む事になります」


“無属性魔法だけであの動きはやばすぎ”


“将来、探索者になりたいです。どんな訓練をすればブルストさんみたいに強くなれますか?”


“オサレ魔法って幻影魔法の下位互換か?”


「訓練については俺が小さい時からやってたのは魔法障壁を展開する訓練ですね。歩く時に地面に足が付く前に魔法障壁を展開するんです。足と地面の間に魔法障壁が挟まる感じですね。それをずっと歩きながらやってました」


“聞いた事無い訓練だな”


“それを幼少期からやってたなら、あのスムーズな魔力運用にも納得がいくな”


“ありがとうございます! 俺で僕も今から頑張ってみます!”


“だから魔法障壁を見ずに展開できてたのか”


 火花から訓練方法を聞いて視聴者たちは納得する。彼の魔力運用はかなりのレベルである。その理由が幼少期からの訓練の結果だと分かったからだ。


「頑張って下さいね。あと幻影魔法との違いですが、確かに効果だけ見ると下位互換って感じですよね。ただ幻影魔法と違って範囲が狭くて限定的な分、オサレ魔法の方がコスパがかなり良いんですよ」


 エフェクト魔法でやれる事は、基本的に幻影魔法で行う事が出来る。しかしそちらは全体の自由度が高すぎるせいで魔力の消費がエフェクト魔法よりもかなり大きくなってしまうのだ。そのためコスパという面ではエフェクト魔法が優っている。


「それと今後の方針ですが、ちょっと探索者協会から依頼を受けまして……それが解決するまでは配信が少なめになるかもしれないです。すいません……」


“ダンジョン攻略しないのかー……”


“どんな依頼?”


“何故急に依頼を……?”


“武器壊れたから金がいるのか?”


「実はアウトブレイクの件で、Eランクに昇格したんですよ。それで更に依頼を一つこなせばDランクに昇格という事で。やる事にしました」


“うぉぉぉー!!”


“キタキタきたー!!!”


“探索者になって四日でEランクとか!”


“マジでブルストはSランクの器だろ”


“低ランクに指名依頼とかあんま聞かないなぁ”


“ヤバい依頼なんじゃね?”


“ブルスト最強!”


“そういう事なら配信休んでもしゃーない”


 火花がランクアップとした聞いて視聴者たちは盛り上がる。中には更なるランクアップを期待する声も多い。


“刀壊れかけてたけどどうするの?”


“武器はどうする?”


“依頼は良いけど武器は?”


 その次に目に入ったのは武器に関するコメントだ。火花のメインウェポンである刀はジャイアントミノタウロス戦でほとんど壊れてしまった。それを視聴者たちは知っているため、火花にどうするか問いかけているのだろう。


「実は代わりの武器を用意してあるんです! じゃじやーん!」


 そう言って火花はカメラに映っていない下の所からとあるものを取り出す。そしてそれをカメラへと見せつける。


“ん……?”


“マジで……?”


“ギャグ……?”


“今どき口でジャジャーン言うなww”


“出す時、オサレ魔法使えよww”


“てかそれは武器なのか?”


 火花が取り出した武器に視聴者たちは戸惑う。それも無理は無いだろう。彼が取り出したのは何の変哲もない木刀であった。


「木刀です! これ、小学生の時に林間学校で行った日光で買ったお土産なんですよね。とりあえず本物の刀が手に入るまではコレで行きます!」


 こうして火花の初の雑談配信はカオスな状態へと突入するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る