第11話 救いの手
ギグッチを含め男たちはフロアを逃げ去り、追いかけるようにあきホンもお連れさんも立ち去っいく。
残されたのは、
「ほんなこつぅ ひどばことしゃるぅばい」
おかっぱ女学生がブー垂れている。
「きさん、よかか?」
近づいてきては茉琳を心配そうに覗き込んでくれる。
「堪忍な。巻き込んでしまって』
力無く答えると、
「よか。きさんも被害者やなぁ」
茉琳は翔の胸の内から身じろぎして、
「うち、茉琳。 御影茉琳っていうなし」
「うちは、誾。立花 誾ちゅうよ。ギンちゅうは、すかんけん、立花でええよ」
すると誾と名乗ったおかっぱ女学生は手を口に当ててワタワタし出す。
「しもた! もう博多弁話しゃんとしとぉーたのに、しもたぁ」
そんな会話を聞いて、翔は、
「別にいいラァ、あいらしかぁですよ」
「きさん」
茉琳は、翔の顔を仰ぎ見て、誾と名乗ったおかっぱ女学生を凝視した。
「翔は、こんな人が好みなり?」
「違うよ。聞いたところ博多弁でしょ、そのままで可愛いから止めなくてもいいかなって思っただけだよ」
誾は顔を綻ばせて、微笑む。
「ありがとう。でもね、これからは私らもワールドワイドに暮らさないといけないから、まんず喋り方だけでもと思ってね」
そして、ほっとした顔をした茉琳は、
「別にどうってことはないなり?」
「そうだよ。どうかした?」
「ううん」
翔は気づいていないけれど、茉琳が翔の袖を握っていた手は震えていた。
そんななか、ギンは周りを見渡すと、
「ちょっとテーブルぐらい直さんといかんね。手伝ってほしか………しもた」
「了解」
と答えつつ、翔も表情を柔らかくしている。自分の障害が不思議と出なかったのだ。過呼吸にはなっていない。
まあ、片付けると言っても倒れたテーブルは二つほど、椅子は位置がずれただけだった。
ただ、テーブルの上に置かれていたコーヒーカップが倒れて近くにあったタブレットが溢れたコーヒーに浸かって浮いていた。
「あー、ウチのタブレットがドロドロばい。どなぁーしぇ」
彼女がテーブルからタブレットを羽持ち上げるとコーヒーが滴り落ちいた。灯りのついていたディスプレイは数回瞬くとブラックアウトして沈黙してしまった。
彼女の顔が絶望に染まる。
「ちんまいだったに、のうなってもうた! どないしよ。もうしまいばい」
濡れて壊れたタブレットを前に彼女は頭を抱えた。
「タブレットで作成してたんですか」
あまりにも哀れだったのか、翔が声をかけた。
「有坂教授のゼミのレポートばぃ」
ギンが涙混じりに答える。
「それなら、俺のもの使えるかも」
「え! きさん、何いうと?」
「俺,法学部なんです。その教授の授業受けてるからレポートも作ってるんですよ」
ギンの顔が絶望から笑顔に変わる。
「あっ、ありがどねー。ばり助かったと」
感極まってギンは翔の手を取りぶんぶんと降り出しているが、しばらくしてテーブルの上のタブレットを見て、
「ダメっちゃ、タブレットは水に浸かってダメになったばい」
彼女は喜色満面から一転して落胆してしまう。
「大丈夫」
翔は指を立てて説明する。
「レポートはメールじゃなくてホームページに書き込むから…」
デイバックから、翔はタブレットを取り出して教授のホームページを呼び出すように操作していく。
「おっ、開いた。ここに貼り付けてっと、あっ、提出者を記入してくれます?」
と、ギンにタブレットを翔は渡していく。受け取ってすぐに名前を打ち込んだギンは、
「バリ助かったとぅと。ありがたいっちゃ」
満面の笑顔をつけて翔にタブレットを戻していく。
「どういたしまし………、んー」
タブレットを持ったまま翔が硬直した。翔の目線が下がり、胸にプリンと化したブリーチした髪の頭がグリグリと擦り付けられているのを呆然と見つけた。
あろうことが茉琳は自身の胸を翔にギュウギュウと押し付けている。シャツを押し上げる豊満な形胸の形がひしゃげるように。
途端に翔の様子が変わった。
「ちょつと、ちょっ、 ヒィ」
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